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加藤厚労大臣の少子化対策財源に社会保険料を「使う余地はない」は本当か?

島澤諭関東学院大学経済学部教授
図はイメージです(提供:イメージマート)

加藤厚労大臣は、昨日5月7日フジテレビの「日曜報道 THE PRIME」で以下のような発言をされました。

加藤勝信氏(厚生労働相):

医療、介護、年金、雇用で社会保険料をいただいている。それぞれ医療(保険料)は医療に使う、年金(保険料)は年金に使う、それぞれ目的と負担の関係で(制度を)作っているから、年金に使う金を、医療に使う金を子ども(政策の財源)に持っていくというのは、正直余地はない。今でも医療などは保険料を上げていかざるを得ない。したがって、それとは別の形でどういう議論をするのか。これまでもいろいろな議論があった。負担をどうするか。「社会保険料方式の」という形で負担してもらう、あるいは、税で負担していく。様々な議論があった。それらを踏まえてどういうことを進めていくのか。やるべき施策との関係も含めてよく議論させてもらいたい。

橋下(徹)氏:

では、既存の社会保険料をそのまま子育て政策に流用することはないということか。

加藤大臣:

余地がない。いま目一杯。目一杯というか、(給付と負担が)均衡する形で(保険料を)いただいているから、そういう余地はない。これまで社会保障改革を様々してきた。その結果として保険料の伸びを抑制してきた。こういう積み重ねをやってきたという事実はある。

少子化対策財源に社会保険料を「使う余地はない」と加藤厚労相(2023年5月7日 FNNプライムオンライン)

筆者もたまたまリアタイしていましたので、番組出演者が「大臣、それはないでしょう」と誰ひとりツッコミを入れなかったことに、「ちゃんとツッコめよ!」と茶の間で独り言していました。まぁ、出演者に財政や社会保障の専門家が一人もいなかったので、的確な反論を期待するのも無駄なのかもしれません。

加藤大臣の本音は分かりませんが、「異次元の少子化対策」の財源に関する今までの報道を勘案すると、現在の社会保険料を子ども予算に割く余裕はないけれども、社会保険料や消費税を別途引き上げるなら話は別だとの解釈が成り立つかもしれません。

しかし、加藤大臣の発言はハッキリ言って誤りです。

公的医療・年金・介護保険において、現役世代は現役世代内、高齢世代は高齢世代内で、受益と負担がきっちり完結し、世代間での拠出(資金のやり取り)が一切ないどころか、主に現役世代が負担している社会保険料の多くは、高齢世代の給付に流用(ピンハネ!)されているのが実態です。

公的医療保険の制度間の資金のやり取りを見てみますと、図からは、中小企業の従業員とその家族が加入する協会けんぽでは、保険料8.3兆円、前期高齢者への上納金1.6兆円、後期高齢者への上納金2.1兆円、大企業の従業員とその家族が加入する組合健保では、保険料7.2兆円、前期高齢者への上納金1.6兆円、後期高齢者への上納金2.0兆円となっています。さらに、前期高齢者が受け取った上納金3.7兆円からさらに後期高齢者に1.6兆円上納されているのが分かります。

図1 制度別の財政の概要(令和元年度)(出典)厚生労働省資料(https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000980128.pdf)
図1 制度別の財政の概要(令和元年度)(出典)厚生労働省資料(https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000980128.pdf)

まとめると、現役世代から徴収された保険料総額15.5兆円のうちの47%に相当する7.3兆円が高齢世代にピンハネされています。

公的年金保険については、今でも多くの高齢者は若い時に自分が支払った保険料が年金として戻ってきてそれを受け取っている(積立方式)と信じているかもしれませんが、現役世代が今負担した保険料が今の給付に充てられている(賦課方式)のが実態です。その額は厚生年金と国民年金では34.7兆円(=厚生年金33.4兆円+国民年金1.3兆円)(2021年時点)です。

消費税は社会保障4経費(年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する費用)に充てられる社会保障目的税と位置付けられ、令和4年度当初予算額45.3兆円のうち24.7兆円(消費税収27.5兆円(なお、残りの2.8兆円は消費税率1%分の地方消費税収))が充当されています。現役世代と高齢世代の消費税負担割合は消費額に比例するとすれば、大体6対4なので15兆円が現役世代の負担と言えます。

図2 消費税の使途(令和4年度当初予算)(出典)財務省資料(https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/122.pdf)
図2 消費税の使途(令和4年度当初予算)(出典)財務省資料(https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/122.pdf)

更にそのうえ、社会保障4経費45.3兆円-消費税充当額24.7兆円=20.6兆円、消費税収が必要額を下回っていますから20.6兆円の赤字国債が発行されています。この多くは現役世代やその子、孫たちの負担です。

このように、結婚・出産予備軍、子育て世代を含む現役世代の社会保険料や消費税という血税の多くが、高齢世代の社会保障給付としてピンハネされている訳です。

高齢世代にピンハネされている血税は、元々現役世代の資源であり、なぜかそれが高齢者にピンハネされているだけなので、加藤大臣のお言葉は異なって、結婚・出産予備軍、子育て世代への少子化対策に回すのは、余地がないどころか余地がありまくりなのです。

逆に、加藤大臣が、あるいは厚生労働省が、同じ番組内での発言「(給付と負担が)均衡する形で(保険料を)いただいているから、そういう余地はない。」のようなご認識であるなら、現役世代からの拠出金を一切廃止して、高齢世代が使うお金は全て高齢世代から徴収するべきではないでしょうか?その方が圧倒的に現役世代は助かります。

そもそも、現在の社会保障制度における世代間の負担と給付のアンバランス、無駄の解消を図ることなく、新たな財源確保に血眼になるのはなんともさもしい限りです。

高齢者によるピンハネ構造を温存したまま、少子化対策に現行の社会保険料を回しません!との宣言は、要すれば、引き続き若者が高齢者の奴隷であることを再確認したとも取れます。

社会保険料や度重なる増税に押し潰されていることが少子化の根本原因であるところ、そうした根本原因の改革を掲げる政党、政治家がいないことが、バラマキ政治とクレクレ民主主義に覆い尽くされた日本の限界なのかもしれません。

このように、主に現役世代が負担する社会保険料の多くが高齢者にピンハネされる現実があるなかで、厚労大臣が少子化対策に今の社会保険料を回す余地がないというのなら、私たちは、私たち現役世代のお金がいかなる形であっても社会保障にさらに投入されることにはNO!、さらに言えば、高齢者のピンハネ分の社会保険料を引き下げて手取りを増やせ!と言わざるを得ないと思いますが、読者の皆さまはどう考えるでしょうか?

関東学院大学経済学部教授

富山県魚津市生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済企画庁(現内閣府)、秋田大学准教授等を経て現在に至る。日本の経済・財政、世代間格差、シルバー・デモクラシー、人口動態に関する分析が専門。新聞・テレビ・雑誌・ネットなど各種メディアへの取材協力多数。Pokémon WCS2010 Akita Champion。著書に『教養としての財政問題』(ウェッジ)、『若者は、日本を脱出するしかないのか?』(ビジネス教育出版社)、『年金「最終警告」』(講談社現代新書)、『シルバー民主主義の政治経済学』(日本経済新聞出版社)、『孫は祖父より1億円損をする』(朝日新聞出版社)。記事の内容等は全て個人の見解です。

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