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斎藤司、おばたのお兄さん、こがけん、ミュージカル界に進出するお笑い芸人の実力の程は!?

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
(写真:アフロ)

 今やお笑い芸人さんのいない場所はない、と言っても過言ではないほど、芸人さんはあらゆる場所で活躍しています。本業はもちろん、ドラマ・映画、報道・情報番組のコメンテーターやMC、放送作家、脚本家、野球選手…枚挙にいとまがないです。加えて最近は、ミュージカルでも芸人さんの姿が目立つようになってきました。しかし、この世界は簡単なものではありません。最初は訝(いぶか)しんでいたところもありましたが、想像以上の感動をもらったり、能力の高さに驚かされたり、芸人さんはすっかりミュージカル界の住人となっています。

ミュージカルの人になった斎藤司

 まず、ミュージカルで活躍している芸人さんといえば、「トレンディエンジェル」斎藤司さん。2019年、ミュージカルの金字塔『レ・ミゼラブル』にオーディションで選ばれたのです。海外の製作チームによるオーディションは非常に厳しく、長いと3年くらいかけて行うものもあります。そして、日本での実績は全く通用しません。

 そもそも斎藤さんにミュージカルの実績はなく、お笑いの世界で人気があるといっても海外の製作者たちには分かりません。「斎藤さんだぞ」は通じないのです。それでも合格したということは、持っていたポテンシャル&実力だったということに他なりません。また、19世紀のフランスの理不尽で暗い話が、斎藤さんの中にある闇の部分を引き出したのかもしれません。

 役どころは、幼い女の子(コゼット)からお金を搾取してつらく当たる、憎たらしくもどこかコミカルな小悪党・テナルディエ。初演時は、どこかしらに“斎藤さん”が残り、「見て見て」というアピールも強く感じました。ところが2021年、再び同役に決まった時には、前回よりもずっとテナルディエの存在を強く感じることができ、完全に『レ・ミゼラブル』の中の人に見えたのです。

 その後、2022年『ファンタスティックス』では、2.5次元舞台で活躍していた岡宮来夢さんや宝塚歌劇団出身の愛月ひかるさんらと共に、とてもイキイキと舞台に立っていました。

 現在上演中の『マチルダ』では、主人公マチルダのどうしようもないダメなお父さん、ミスター・ワームウッドを演じています。この作品は、英国ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが製作し、ウエストエンド、ブロードウェイで大人気となったミュージカル。トニー賞をはじめ世界中の演劇賞に輝いています。しかも斎藤さんは、ミュージカル界では正統派の田代万里生さんとWキャスト。もちろん今作も、厳正なオーディションで役を手にしました。

 早速観劇したのですが、“斎藤さん”を一切思い出すことなく物語に没頭して観ることができ、そこにはマチルダのお父さんがいました。

 取材に行くと「肩書はミュージカル俳優です」と自信をのぞかせる発言もされる斎藤さんですが、「若いミュージカル俳優がとがっていて話しづらかった」と弱気な部分が見えることも。そうかと思えば、記者に扮してミュージカルの製作発表会見に出席し、すぐ隣の席で質問していたこともありました。今や、すっかりミュージカルの人です。

おばたのお兄さんの高過ぎる身体能力

 もう1人、ずっと気になっていたのが「まーきのっ」で知られる、おばたのお兄さん。2021年、高畑充希さん主演の『ウェイトレス』に出演されていたのを観て、とても心に残っていました。宮澤エマさん演じるドーンにストーカーのようにつきまとう役なのですが、ただ歩くだけの動きも実に軽やか、客席を舞台に惹きつける力を感じました。

 決定的だったのは、2022年の『千と千尋の神隠し』。これはミュージカルではないのですが、青蛙(あおがえる)役が見事でした。少し高さのある場所からカエル跳びで床に飛び降りるのですが、その後なんと、そのままカエル跳びで後ろに飛び上がったのです!カエルが憑依した(のりうつった)のかと思いました。舞台上のあちこちでキャストが様々な動きをするため、それ自体は全く目立つシーンではなかったのですが、おばたのお兄さんの身体能力の高さが忘れられず、気になる人になっていました。

 そんな折、今年の全日本マスターズスキー選手権で、おばたのお兄さんが銅メダルを獲得した姿がニュースで伝えられました。初の全国大会での快挙ですが、改めて経歴を紐解くと、日本体育大学卒業、剣道で全国大会に出場、中学1年でアルペンスキー新潟県地区強化指定選手…という実力者。取材に対し、健闘の理由を「『千と千尋の神隠し』の青蛙役でカエル跳びをしていたことで、足腰が強化され粘り強さが出た」と答えているのを見て、あの時の青蛙はやはり伊達ではなかった、と痛感しました。

 スキーに挑戦している間はお笑い芸人としての収入が減りますが、夫の才能を信じて支えるフジテレビ・山﨑夕貴アナウンサーの先を見通す力・信念を貫く力も尊敬に値します。時々SNSにアップされる、おばたのお兄さんの身体能力の高さが垣間見られる写真も楽しいです。

こがけん魂の歌

 そして絶対に外せないのが、今年2月に上演された『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』に出演した、こがけんさん。この作品は、かつての敵国で迷子になった警察音楽隊のある一夜の物語。2018年、トニー賞で10部門を制した話題の作品です。

 こがけんさんといえば“ハリウッド映画のモノマネ”で知られていますが、この作品は中東の音楽に包まれた大人な雰囲気が漂う演目。舞台は風格漂う風間杜夫さん、歌姫・濱田めぐみさん、そして著名なミュージシャンたちが役者として立つという、熟成感溢れる、ハードルの高い作品とも言えます。

 こがけんさんは「電話男」という役で、物語にはあまり関わらないまま度々登場。最初はどういう役割なのだろうと思ってはいたのですが、風間さんのお芝居、濱田さんの歌、そしてミュージシャンたちの演奏が続く中、こがけんさんの歌に一番感動してしまいました。人気演出家・森新太郎さんの演出も効果的だったのかもしれませんが、必死で思いの丈を歌に乗せている姿に心が揺さぶられたのです。

 ご本人は、同作がミュージカル2本目で本格的な勉強もしていないとのことですが、これから本気で向かい合われたら、人の心に残る舞台人になるような気がします。

 役になりきる、そこに存在する…同じ台本でも役作りの方法は人それぞれですが、お笑い芸人さんたちは、そこからお客さんに食い込む何かを見つけようと努力している気がします。【お客さんと溶け合う力】そして【物語に存在する力】、このバランスが取れた時に最高に輝き、私たちの心を動かしてくれるのではないでしょうか。ますます、お笑い芸人さんたちを舞台で観る機会が増えていきそうです。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人のテーマ支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、オーサーが執筆したものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

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