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葉加瀬太郎、「台本」と「反省会」をやめて得た効果とは もじゃもじゃ“ビジネスパーマ”は存続の危機⁉

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
価値観が変わったと語る葉加瀬太郎さん 撮影:ライブ以外すべて(C)GEKKO

 トレードマークは“もじゃもじゃヘア”と“ニコニコ顔”。聴く人の誰をも笑顔にする魅力的な旋律を奏でるのは、ヴァイオリニストの葉加瀬太郎さん。その裏には驚くほどストイックな生活があり、一時は引退も考えたと言います。そんな葉加瀬さんの生き方を、ガラッと変えてくれた運命の出会いとは。そして、あの独特なヘアスタイルには秘密と悩みが隠されていました。年間100本以上のコンサートを開催し、日本全国を駆け回り、ツアーファイナルとなる大みそかの日本武道館公演(午後2時開演)に向けてラストスパートです!

―今年も9月からツアーが続いていますね。

 スケジュールはかなりハードですが、我々自身が楽しまないとお客様も楽しめないのが音楽だと思いますので、楽しんでやっています。今のバンドメンバーは2020年から一緒ですが、僕は彼らのことを「スーパーバンド」と呼んでいます。彼らと音楽を作るようになってから、僕自身の音楽に対する概念・価値観が全く別物になりました。

 このバンドはベテラン勢が揃っていて、音楽の可能性が広がり、4年経って円熟味が増してきました。今年はリハーサルの段階ですぐに出来上がり、ツアー初日から絶好調です。ステージ上でいかに変化していくかということに尽きるので、すごく刺激的です。

 僕は、開場時間から休憩に至るまでステージをすべて録画しています。それを毎終演後、休憩部分も含めて一度も止めずにプレイバックして、お客さんになったつもりで観るんです。そして再度ステージを観て全員にダメ出しをする、という生活をしていました。それが当たり前だと思って、今のバンドと出会う前の2019年まで、毎日欠かさず千秋楽まで続けていました。もちろんバンドメンバー以外のスタッフも同様です。

 2020年に「スーパーバンド」の面々に出会って、最初は同じようにとても細かいことまで話していました。ところが、皆「分かった」と返事はしてくれるものの、全く言うことを聞いてくれない。「ここが気に入らないからこうしてほしい」と伝えても、「そうだね」と言うだけ。要は「ライブだから」と言うんです。

 「こうやってくれ」と言っても「好きなようにやってくれ」と言っても、ステージ上でやることが同じなので、「もういいや」と(笑)。今回は初めの3公演くらいしかプレイバックは見ていないです。

 でも、プレイバックしなくなると、いろいろな人のライブや映画を観る時間、僕の中にインプットする時間が生まれて、そこから気が楽になりました。彼らが僕に教えてくれたことは大きくて、ステージが毎日新鮮で面白くなったんです。

 実は来年は、今のバンドと一緒にバンド名義で活動するつもりです。コロナ禍にできたバンドだから会食もせず、旅先のコンサート終了後はそれぞれが部屋でお弁当を食べたりしながら、グループラインでマニアックな音楽を教え合ったりしてきました。その積み重ねた4年分があるので、そろそろ皆でアウトプットできる時期だと感じています。

 今までリハーサルに充てていた本番前の時間に、ステージ上で床に座って「このクリエイトの時間を楽しもう!」と言いながら曲作りをしています。コンサートが始まると「ショーは俺たちの打ち上げだ!」というつもりで盛り上がります。

―ショーで盛り上がるところは?

 『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』(テレビ朝日系)のテーマ曲『博士ちゃん』では、応援団の恰好で、皆さんにツアーグッズ「たろちゃんタオル」を振ってもらうのが盛り上がりますね。

 あと、誰1人として演奏していないところも(笑)。平均年齢60歳になるおじさんたちが、それまで2時間ものすごい演奏をしていたのに、ツアーグッズの「はかせんす」(ファーがついた扇子)を持ってただ踊るんです。その時の拍手が正直一番大きい(笑)。音楽を真剣に作る時間があり、コンサートは皆と遊ぶ「本番という名の打ち上げパーティー」だというのは、そういったところです。

扇子を振る葉加瀬さんたち  東海東京フィナンシャル・グループ presents 葉加瀬太郎 コンサートツアー2023「THE SHOW TIME」より
扇子を振る葉加瀬さんたち 東海東京フィナンシャル・グループ presents 葉加瀬太郎 コンサートツアー2023「THE SHOW TIME」より

 お客さんからすると、おじさんたちが扇子やタオルを振ってジャンプまでしている、その姿に勇気づけられるみたいです。音楽、コンサートは人を元気にするためにあるものです。悲しい曲で泣いてもらうのも元気にするのと同じ意味で、笑って泣いて一緒に盛り上がれるのは僕の自信のあるところです。

 トークに関しても、このバンドと出会う4年前までは台本を書いて一言一句覚えていました。今はそれをやめて、特に音楽監督の羽毛田丈史さんと話す場面は、毎日違う内容にしよう、それも楽屋を出てステージに上がる時に思いつくことを話そう、ということにしています。

 実は、以前書いていた台本には「(笑)」まで入れていました。お客さんは笑ってくれるのですが、バンドメンバーは笑っていない。だって、昨日と同じだから(笑)。やはりメンバーにも「何を話すんだろう」と思ってもらった方が面白くなる。そうすると「なぜ眉毛は年を取ると長くなるのか」とか「人間が脱皮したら」とか、3000人の前でするような話題ではない場合もありますけどね(笑)。

―葉加瀬さんの印象が長年変わらない理由は何でしょう。

 2ヵ月に1回の「ビジネスパーマ」のせいでしょうか。本来は黒髪のサラサラストレートヘアで、それに18歳からパーマをかけ続けているので、これは「ビジネスパーマ」なんです(笑)。1回、3~4時間かかります。

 僕は魚釣りが好きなんですが、夏の魚釣りでは帽子をかぶらないと美容師さんに怒られます。髪が傷むとパーマがかかりにくいので、トリートメントをして気を付けるようにと。

 ある日、パーマのかかりが良くなかったことを美容師さんに伝えたら、「説明するので来てください」と定休日に呼び出されました。そしたら、何十年も担当してくれている人に「今あなたの髪は、巻き寿司に例えると細巻きの具と海苔しかありません。シャリがない状況です。パーマ液は寿司でいうシャリに作用します。これでは、かけろと言われてもかかりません!」「私は葉加瀬さんの髪型のことをずっと考えています。今、危機的な状況です。釣りの頻度が高すぎます!」と初めて叱られました。

 その呼び出された日に、今後の「ビジネスパーマ」について話し合いました。僕もだんだん白髪が出てきましたが、髪が傷むから染めるならパーマはかけられない。染めないならパーマはかけられる。つまり2択です。A:黒髪のストレート、B:白髪のもじゃもじゃ。いずれどちらかを選ばなければならない日が来ます。

 ということで、5000人のホールで「今悩みを抱えているから、皆に問いたい」と、AとBどちらがいいか拍手で答えてもらったら、これがまた微妙で…半々なんです(笑)。今後の課題ですね。

―こんなにエネルギーにあふれているのに、引退を考えたことがあるとお聞きしました。

 体力勝負の仕事でもあるので、それは考えていました。飛行機か新幹線で移動する日々が続いて、自分がどこにいるかが分からなくなってしまうこともある。音楽を作るには、スタジオにこもらなくてはいけない。移動の毎日か、同じ場所で創作活動をするかと迷いながら、結局両方続けているうちに、コンサートの規模もどんどん大きくなるし周りのこともあるし、「もう少しやってみるか」が続いて今に至ります。

 常に1年先のことを考えているので、今のコンサートが始まる前には翌年の千秋楽の打合せをしています。“たたむ”となれば2年前に言わなくてはいけない。大勢の人が動いているので、僕1人の気持ちでは決められないし、一緒に仕事をしている人たちの顔を思い浮かべると「やらないと」という気持ちになります。何よりお客さんの笑顔が一番のエネルギーで、ステージでヴァイオリンを弾いている間は本当に楽しいです。

―ツアーファイナル、今年の締めくくりは日本武道館(12/30、31)です。

 日本武道館は、日本で音楽をやっている者にとっては聖地です。その1年の締めくくりをやらせてもらえるのは楽しみでしかない。思い切りハジけたいし、特別な演出を考えています。

 その演出とは…40歳以上の人を募集してボディコンでセンスを派手に振ってもらって、若い人にはタオルをぐるぐる回してもらう、というスペシャルバージョンです。僕は、妻(高田万由子)とマネジャーに“ボディコン出演”をお願いしましたが、2人からは強い意志を持って断られました(笑)。今年最後は大いに盛り上がりたいと思います。

コンサートで拍手を浴びる葉加瀬さん  東海東京フィナンシャル・グループ presents 葉加瀬太郎 コンサートツアー2023「THE SHOW TIME」より
コンサートで拍手を浴びる葉加瀬さん 東海東京フィナンシャル・グループ presents 葉加瀬太郎 コンサートツアー2023「THE SHOW TIME」より

【編集後記】

「大阪出身なので」とおっしゃるとおり、出身地なのか持って生まれたものなのか、とにかく周りが笑いに包まれています。初めて葉加瀬さんのヴァイオリンを聴いた時は、感動で身体が熱くなりました。でも必ず演奏以外にも気持ちが高揚する、笑顔にしてくれる時間があるのです。今回も自虐的な話でこちらが笑うと「いいよね、面白いよね」とご自分も一緒に大笑いしています。インタビューの半分は笑っていた気がしますが、終わってみればとても大切なお話を聞けた、不思議な時間でした。

■葉加瀬太郎(はかせ・たろう)

1968年1月23日、大阪府生まれ。1990年、KRYZLER&KOMPANYのヴァイオリニストとしてデビュー。セリーヌ・ディオンとの共演で、世界に活躍の場を広げる。1996年、KRYZLER&KOMPANYを解散後、ソロでの活動を開始。2007年から原点回帰をテーマにロンドンへ拠点を移していたが、現在は帰国。自身のコンサートツアーに於いてはワールドツアーや全都道府県ツアー、オーケストラコンサートツアーを行うなど、1年を通して100本近い公演を毎年休むことなく開催し、日本全国、世界に向け葉加瀬太郎の音楽を発信し続けている。2022年4月1日付で、東京藝術大学客員教授就任。

■スーパーバンド

羽毛田丈史:Pf、大島俊一:Key,Sax.etc、柏木広樹:Vc、田中義人:Gt、天野清継:Gt、八巻誠:Manip、屋敷豪太:Dr、渡辺等:Ba、田中倫明:Per

■東海東京フィナンシャル・グループ presents

葉加瀬太郎 コンサートツアー2023「THE SHOW TIME」

2023年12月31日(日) 開場13:00 開演14:00 (※12/30公演は完売)

日本武道館(メトロ半蔵門線「九段下駅」)

チケット:全席指定9,900円(税込)

(問)キョードー東京 0570-550-799

https://taro-hakase.com/blogs/live_info/2023-theshowtime

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

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