Yahoo!ニュース

橋本環奈・上白石萌音・川栄李奈・福地桃子 “4人の千尋”が競い合う『千と千尋の神隠し』

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
左から福地桃子、橋本環奈、上白石萌音、川栄李奈(写真:すべて東宝演劇部提供)

 宮﨑駿監督の不朽の名作『千と千尋の神隠し』が初めて舞台化されてから2年。今年は東京・帝国劇場を皮切りに、北海道から九州まで国内各地を回るほか、同時期に初の英ロンドン公演4ヶ月ロングランも予定されています。千尋役は、初演から演じている橋本環奈さんと上白石萌音さんに加え、オーディションで役を勝ち取った川栄李奈さんと福地桃子さんが新キャストとして登場。個性の全く違う4人が1つの役を演じたら、一体どうなるのでしょうか。

―開幕

 釜爺(かまじい)の場内アナウンスが流れると、もう『千と千尋…』の世界。舞台いっぱいにジブリのアニメとタイトルが流れ、自然とワクワクしてきます。アニメの世界観を全く損なうことなく映像で観ていたものが人力で行われ、セットが転換するたびにまるで飛び出す絵本のように、油屋のお風呂になったり部屋になったり、一瞬で『千と千尋…』の世界にいざなわれます。

 『千と千尋…』は、10歳の女の子が神々の世界に迷い込み、現実の世界ではありえない経験を重ねて成長していく物語。4人それぞれが全く違う千尋であるのは間違いありませんが、全員が千尋であることも確かです。

―橋本環奈の千尋

 まずは橋本環奈さん。環奈さんの演じる千尋は、例えるならばクラスの人気者で明るい小学生。華やかで楽しい千尋です。2022年の初演が環奈さんにとっての初舞台・初主演・初帝国劇場でありながら、怖いもの知らずで元気いっぱい、ハジけていたのが印象的でした。

 臆することなくその場にいられるのは今回も変わりませんが、経験を積んだことで、前回よりも何かを考えながらそこに立っているように見えました。環奈さんは、普通にいるだけで華があり目立つ存在でありながら、今回は一歩引いて他の人が“立つ”ための空気づくりをされているようにも感じました。

傷ついた竜に優しく接する橋本環奈さん
傷ついた竜に優しく接する橋本環奈さん

 カオナシに気に入られたり皆から可愛がられたりするのは、実際の環奈さんと重なり説得力があります。裸足で歩き回った後の靴下をはくシーンで、足の裏のホコリを払ってからはいていたのは、キレイ好きの環奈さんらしいところ。絶対的に千尋でありながら“橋本環奈の千尋”でもある。これは、スター性を持つ人の特権だと思います。舞台経験は同作品のみ…とは信じられないほど舞台上で生きています。

―上白石萌音の千尋

 上白石萌音さんは、一言で言って千尋そのもの。「千尋がそこにいる」としか思えません。前半だけで結構な運動量で、特に開始から15分くらいは走りっぱなし。どのシーンも全身を使って動いていて、運動神経の良さを感じます。

油屋で働きだした上白石萌音さん
油屋で働きだした上白石萌音さん

 “雨に濡れているカオナシを油屋に入れてあげる”“一緒にバスに乗って移動する”といったシーンでは、慈愛に満ちた深い優しさが伝わってきます。

 萌音さんの千尋は“愛と優しさ”の塊。萌音さんが本来持っているものが千尋を通してにじみ出ているようで、「おいで、いい子にしていてね」と言われただけで、母の大きな愛に包まれたような安心感を覚えます。子どもでありながら母性を持っているような雰囲気も、萌音さんの魅力です。

―川栄李奈の千尋

 新キャスト・川栄李奈さんは、不安に包まれた千尋。この世界に迷い込んでからは今にも泣きだしそうで、思わずこちらが「大丈夫、落ち着いて」と守ってあげたくなります。バタバタと動いて母親にしがみつく姿や、好奇心が押さえきれず周りが気になって仕方がない様子は、子どもそのもの。気になるものをじっと見る子どもの習性をよく表現しています。今回の千尋役の中では唯一のお母さん(私生活では2児のママ)なので、川栄さんの中から“お子さんのリアル”が出ているのかも、などと想像してしまいます。

ススワタリをじっと見つめる川栄李奈さん
ススワタリをじっと見つめる川栄李奈さん

 川栄さんは間の取り方が非常に上手く、半拍の絶妙さで笑いにつなげます。バラエティ番組での経験も、会話のテンポに生かされているのでしょうか。私たちが思っている以上に研究熱心な方だと思います。

―福地桃子の千尋

 もう1人の新キャスト・福地桃子さんはリアクションNo.1です。4人の中で一番、イマドキの子どもに近い気がします。細い手足をバタバタさせて走り回る姿は、アニメから飛び出した千尋の動きそのまま。透明感のあるまっすぐ上に向かって出る声が心地よく、まるで鈴の音を聴いているかのよう。福地さんの声は、独特なのに癖がなく気持ちがいい。声は彼女の大きな魅力です。

河の神様の不思議な泥団子を見ている福地桃子さん
河の神様の不思議な泥団子を見ている福地桃子さん

 スタッフさんからは時折「桃子さーん、のんびりしていますよ」と言われるほど、ある意味自分の世界を持った方。落ち着いて自分のペースで物事を進められるのは、この世界に必要なスキルと言えます。

―演出家 ジョン・ケアード

 演出家のジョン・ケアード氏は、セリフに音程をつけているのではないかと思わせるところがあります。4人の千尋は同じことをしているのに、それぞれが全く違います。でも全員がしっかり千尋に見えるその理由は、音程にあるのではないかと。セリフの言い回しの音が同じなので、誰の千尋を聞いても「千尋だ」と思える。『千と千尋…』は歌はないけれど、ミュージカルの演出をする同氏ならではの手法ではないかと気になっています。いつか機会があれば聞いてみたいことの1つです。

―4人の千尋にインタビュー

 最後に、取材のこぼれ話を。本当に4人の雰囲気が素晴らしく、お互いのことを「直感型の橋本環奈」「人をよく見て感じる上白石萌音」「せっかちな川栄李奈」「のんびり屋の福地桃子」と評していました。

 川栄さんは、舞台稽古中にドラマ撮影も重なるとあって不安がる中、稽古場に行くと萌音さんが、川栄さんの分からないことを背中でやって見せてくれたそうです。そして環奈さんは、「大丈夫だよ、できるよ!」と明るく励ましてくれて、本当に2人に助けられたと言います。実際会って2日目には、心を開いて環奈さんに悩みを相談していたとか。福地さんの悩み相談にも乗っていて「スナック環奈」と呼ばれていたそうです。実は環奈さん、4人の中では一番年下なのですが、完全にお姉さんの役割です。

 黙々と作品に向かい合う上白石萌音さんの背中と、何があっても「大丈夫」と言ってくれる橋本環奈さんの大きな器に、川栄李奈さんと福地桃子さんが新しい風を吹き込んで、新たな4人の千尋の誕生です。

 最後に言えることは、どのキャストの上演でも千尋の世界観にどっぷり浸れることは間違いなく、客席にいながら、油屋の一員になれます。

『千と千尋の神隠し』公演が行われる英ロンドン・コロシアム (撮影者:Guy de Laubier)
『千と千尋の神隠し』公演が行われる英ロンドン・コロシアム (撮影者:Guy de Laubier)

■舞台『千と千尋の神隠し』

2024年3月11日(月)~30日(土)【東京】帝国劇場

2024年4月7日(日)~4月20日(土)【名古屋】御園座

2024年4月27日(土)~5月19日(日)【福岡】博多座

2024年5月27日(月)~6月6日(木)【大阪】梅田芸術劇場メインホール

2024年6月15日(土)~6月20日(木)【北海道】札幌文化芸術劇場 hitaru

2024年4月30日(火)~8月24日(土)【ロンドン】ロンドン・コロシアム

詳細は公式 HPにて

https://www.tohostage.com/spirited_away/

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

島田薫の最近の記事