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井上芳雄『行列のできる相談所』司会就任1年、次に狙うは“プロ野球ニュース風”!

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
今年の多忙ぶり、今後の夢を語る井上芳雄さん(撮影:すべて島田薫)

 言わずと知れたミュージカル界のセンターポジション、井上芳雄さんは過去一番の繫忙期を迎えています。舞台は大作が目白押し。『行列のできる相談所』(日本テレビ系)司会就任からは1年が経ち、レギュラーはテレビ3本にラジオ2本。そして、新番組はまさかの生放送!さらに初のオリジナルアルバムリリースまで。今これだけの仕事を抱える理由とは?

―最近、司会の仕事が増えていますね。

 やはり、コロナの影響が大きいです。舞台ができない時期が長くて、舞台1本でやっていくことに危機感を覚えました。家族もいますし、ミュージカルのことも発信しないと、という思いからですね。

―『行列…』の司会は驚きました。生放送でサプライズ発表されましたが、本当に知らなかったんですか?

 本当に知らなかったです。だから、未だに自分では良くも悪くもしっくりきてないというか(笑)。普通、大きな決断は熟考の末に決めるものだと思っていたのに、『行列…』に関してはそういう段階がすべてすっ飛ばされていますからね。

 確かに、事務所で『行列…』の司会の話をした気はしますが、「できたらすごいね」という雑談でしたから。もちろん、もし正式にお話が来ても挑戦させていただいていたと思いますが、未だになぜ司会ができているのか分からないままです。

―しかも次回の放送から登場のスケジュールが組まれていましたが、予定はどうしていたんですか?

 うちのマネジャーは、嘘が得意な人じゃないんです。いつもサプライズの際は怪しい動きを見せちゃって、この時も「この日は何か入りそう」みたいなよく分からないことを言っていました。あの不穏な動きから何かあるとは思っていましたが、まさか『行列…』の司会だとは思わなくて、予想以上に事は大きかったですね。

―実際に1年やって思うことは?

 まさに、バラエティの司会の最高峰だと思います。島田紳助さんから始まり、東野幸治さん、後藤輝基さん、明石家さんまさんもスペシャル回では司会に入られますし、そんなトップ芸人さんたちの中に僕が入るのは、未だに意味が分からないです。

 ただ、残念ながら努力のしようがないというか、準備のしようがないんです。できることといったらゲストのプロフィールをじっくり読み込むくらいで、それすらあまり意味のないような気もしますし。

―見ている分には自然です。

 皆さんのフォローと編集の力です。番組プロデューサーは「芸人さんと違う流れの人が入るのもいい、井上さんは井上さんでいい」と言ってくれましたけど、ほとんど何も細かい説明がなく、初回も「きょうはこの流れだけちょっと違うのでよろしく」と言われただけで「噓でしょ?」と思いましたもん。鍛えられますよね。

―東野さん、後藤さんを見て思ったことは?

 お二人の司会の仕方は全然違います。東野さんはどんなゲストが来てもあらゆることをご存知です。でも「間違えてもいいんですよ。間違ったら、そこからまた膨らむからいいんです」と仰ってました。それは僕の中にはなかった考え方でしたね。正確な情報を言わないといけない、失礼があってはいけない、と気を張っていましたから。確かに東野さんを見ていると、適当なことを言っている時もあるんです(笑)。

 後藤さんは、話の流れを膨らませて笑いを生み出すことができる方で、その‟例えツッコミ”は超一流。スゴい武器・力を持ってらっしゃる。僕は何でしょう。お二人を見て学ぼうとしていますが…僕は芸人じゃないから自分で笑いを作ることはできない。自分ができることを提示するしかないです。

 実は最初の頃に東野さんが「ミュージカルはどんなもんなんですか」と聞いてくれて、まずキャラクター作りというか、立ち位置を作るところから始まりました。(ファンには浸透している)毒舌キャラも、やり過ぎると「何だ、あいつ口悪いな」と思われるし、ミュージカルのことをぶっちゃけすぎるとミュージカルファンからは「痛々しい」と見られるだろうし、バランスが難しい。

―今年は舞台の出演数も凄まじいですね。瘦せましたか?

 1月の『エリザベート』のためにマイナス4kg。実は、4年前の公演時より体重が4kg増えて衣装が入らないかも…というか、透ける素材の衣装もあったので隠し切れない可能性があって、頑張って戻しました。地方公演のホテルに炊飯器を持ち込んで、玄米を食べてデトックスしたんです。ちゃんと努力もできます(笑)。

 3~4月が『ジェーン・エア』、6・7・8月が『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』で9月が『ラグタイム』、実はそのあともあります。

 『ムーラン・ルージュ!…』だけで3ヵ月と結構長めなので、今年はやはり多いです。しかも全部ミュージカルで、『エリザベート』以外は僕にとってすべて初演。そのうちほとんどが日本初演になります。

―『ムーラン・ルージュ!…』(6月~8月)から『ラグタイム』(9月)までの期間が短いですね。

 『ムーラン・ルージュ!…』で演じるのは、これから成功しようと思っている若い作家の役で、Wキャストが甲斐翔真くん。本当は甲斐くんぐらいの年齢やキャラクターの人が役には合っていて、僕がやるにはちょっと年を取りすぎている感がある。年齢を感じさせないぞ!という自信はないですけど(笑)、できないとは思ってないからやるんです。今回は多少無理をしてでもあの作品の世界に入ってみたくて、(3年続いた)オーディションを受けました。

 ただそれを長期間演じる分、テイストの違うタイプの役をやりたいという気持ちがあって。『ラグタイム』という作品は、ブロードウェイのヒット作でトニー賞も受賞した名作です。日本で上演するには難しい類の内容で、黒人のピアニスト役は自分でも全然想像できないんですけど、やりたい気持ちが先立って、あまりスケジュールのことを考えませんでした。自分で責任を取って、きちんとお見せできるものにしないといけないと思っています。

―今、次世代の俳優さんたちがどんどん出てきていますね。

 気持ちのいい人たちが多いです。男性は爽やかで見目麗しい。素敵なことだし、皆さんが楽しくやれているといいなと思います。ミュージカル界は特殊というか、今までは初めての方だととっつきにくく感じる人もいたみたいですけど、皆自然で無理しているようにも見えないからスゴいと思います。「ずっと目指してて、実力で来たぜ!」みたいな人もいれば「思ってもみないところから来たぜ!実力は今追いつかせてるぜ!」みたいな人もいて、いろいろな人がいるということが重要なんです。

―アルバムもリリースするんですね。オリジナル曲のアルバムは初めてだとか。

 ミュージカル以外のアルバムは初めて出します。まず、リズムの取り方が違いました。ミュージカルは演技しながら歌うから、基本的にはリズムには乗らないです。今回の歌は台詞のように言葉・気持ちを伝えるだけではなくて、雰囲気・グルーヴみたいなものを含めて自分のオリジナルとして届けるもの。自分の曲なら自由に乗ってもいいし、そこが全然違います。

―まだやってないことでやりたいことはありますか。

 ミュージカルをプロ野球ニュースみたいに伝えること。4月から始まるWOWOWの番組でも目指しているところではありますが。WBCのことを報じる際に「きょう大谷選手が打った」とか、「アメリカからすごい大リーガーがやってきた」と言うように、「ラミン・カリムルー(日本でも人気のあるブロードウェイの俳優)が来た!」みたいな。

 「きょう井上芳雄は大失敗したらしい」とか「『太平洋序曲』は一幕ものだって」とか「『ムーラン・ルージュ!…』はチケット1万7000円するらしいけど、何に費用がかかってそうなったか?」とか。皆で考察したり分かち合いたいんですよ。自分がそういう話、好きなんだと思います。そんなことを、ミュージカルにしっかり足をつけながらやりたいですよね。

 もう1つはボランティア活動です。小児がんなどの子どもや家族が、病院以外のところで遊べる施設「こどもホスピス」を全国各地に作ろうという活動を応援しています。『十二番目の天使』(2019年)という作品に出た際、小児がんで子どもを亡くされた方に出会って教えてもらい、妻と一緒にクリスマスコンサートで子どもたちと一緒に歌ったりしました。気持ちはあっても何をしたらいいか分からなくて、なかなかできなかったんですけど、ようやく少しずつできるようになってきたので、続けていけたらと思っています。

 今年が一番忙しいと毎年思うし、もう更新しないだろうといつも思うんですけど…本当に今年は忙しいですね。自分の中に「まだまだ」と渇望しているものがあるのだと思います。

■インタビュー後記

今年1月に観た『エリザベート』のトートが、これまでより格段に素晴らしくて鳥肌が立ちました。今回書ききれませんでしたが、苦手意識のあったお芝居に果敢に挑み続けてきた成果が、じわじわと作品に染み出しているようなのです。いつもどこからかフワッと舞い降りてきたような安定した佇まいで、これだけのスケジュールをどう消化しているのか不思議でたまりません。本気でミュージカルの真中にいる人だからこそできることを、たくさんしてほしいです。

■井上芳雄(いのうえ・よしお)

1979年7月6日生まれ、福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。2000年、ミュージカル『エリザベート』皇太子ルドルフ役でデビュー。高い歌唱力と存在感で数々のミュージカルや舞台の主演を務める。近年は司会業など活動の場を広げている。読売演劇大賞、菊田一夫演劇賞、松尾芸能賞など受賞多数。WOWOW「生放送!井上芳雄ミュージカルアワー『芳雄のミュー』」は4/26スタート(毎週水曜・午後10時から生放送予定)。3/22、初の全曲オリジナルアルバム『Greenville』をリリース。ミュージカル『ジェーン・エア』は3/11~4/2、東京芸術劇場プレイハウス、4/7~13、大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて。『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』は6/29~8/31、プレビュー公演は6/24~28、東京・帝国劇場にて。『ラグタイム』は9月、東京・日生劇場にて上演予定。

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

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