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コレクションしたゲームを無料で貸し出し 「立命館大学ゲーム研究センター」の新たな取り組み

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
立命館大学ゲーム研究センター「オープンアクセスデー」の会場(※筆者撮影。以下同)

立命館大学ゲーム研究センター(京都市北区)は、所蔵するゲーム機やソフト、関連資料を無料で貸し出しする「オープンアクセスデー」を、2023年6月から期間限定で実施している。

同センターは2011年に設立された、日本国内では唯一のゲーム分野における学術機関。現時点でゲーム機とソフトを合わせて約1万点、書籍などの関連資料も含めると、およそ2万点もの所蔵品を保有している。

「オープンアクセスデー」に参加できるのは、現時点では同大学の学生と教職員に限られ、貸し出し品の外部への持ち出しは禁止されている。だが、古くはファミコンが登場する以前の1970年代に発売された物も含め、古今東西のゲームを自由に遊べるようにした試みは実に画期的だ。

なぜ、同センターは「オープンアクセスデー」を実施しようと思ったのか? 会場にはどんな人が集まり、どんな目的でゲームを利用するのか? 筆者は12月4日に、会場の立命館大学衣笠キャンパスに足を運んでみた。

懐かしのゲームに興じる学生たち。左側の学生はプレイステーションで「ファイナルファンタジーVII」を、中央の学生はスーパーファミコンで「トルネコの大冒険 不思議のダンジョン」をプレイ中
懐かしのゲームに興じる学生たち。左側の学生はプレイステーションで「ファイナルファンタジーVII」を、中央の学生はスーパーファミコンで「トルネコの大冒険 不思議のダンジョン」をプレイ中

新作よりもレトロゲームが圧倒的に人気

これまで立命館大学ゲーム研究センターでは、ゲームの収集と、その目録作成を中心に活動を続けてきたが、豊富なコレクションの利活用については、展示イベントへの散発的な協力にとどまっていた。

そこで同センターでは、ゲームの教育と研究への利活用を目的に、貸し出しのニーズや運営面で生じる課題などを探るために『オープンアクセスデー』を実験的に始めることになった。

立命館大学ゲーム研究センターの資料室。ファミコン以前の古いゲーム機も多数保有している
立命館大学ゲーム研究センターの資料室。ファミコン以前の古いゲーム機も多数保有している

立命館大学客員協力研究員の毛利仁美氏によると、過去3日間の利用者の大半は学生で、理系のキャンパスが近くにないこともあり、理系よりも文系の学生が多かったとのこと。

驚くことに、参加者の多くが若い学生であるにもかかわらず、人気が高いのは最近発売されたゲームではなく、ファミコンやスーパーファミコン、プレイステーション(初代)などの古い作品であることだ。

毛利氏によれば、今の学生はネットの実況配信を見てレトロゲームに興味を持つケースが多いという。子供の頃に親が遊んでいたものや、今までに一度も移植されていない、あるいは中古市場でプレミア価格が付いているため、現在では入手困難なゲームをオーダーする学生もかなりいるそうだ。

参加者の要望に応じ、NINTENDO64版「ピカチュウげんきでちゅう」をセッティングする学生スタッフ
参加者の要望に応じ、NINTENDO64版「ピカチュウげんきでちゅう」をセッティングする学生スタッフ

筆者が取材した12月4日の日中は、参加者のほとんどが20~23歳の学生であった。参加した動機を何人かに聞いたところ、そのほとんどが「ポケットモンスター」や「ファイナルファンタジー」など好きなシリーズの第1作、または最近発売されたリメイク作品のオリジナル版を遊びたいからと答えていた。

特に、ゲームボーイ版の元祖「ポケットモンスター(赤)」をリクエストした、大の「ポケモン」好きである20歳の男子学生が、実機を手に取りながら「テンションが上がります」と興奮気味に話していたのには、筆者も大いに驚かされた。

現時点では、研究よりも遊び目的の参加者が多く、中には「可愛いゲームがいい」「パズルゲームがやりたい」などと特定のタイトルを決めていない、または特に目的もなく会場に足を運び「どんなゲームが遊べるのか、スタッフに聞いたうえでタイトルを決める人がかなり多いです」(毛利氏)という。

会場には、遊びたいタイトルを決めない、またはゲーム自体に詳しくない人向けに「スタッフおすすめタイトル」があらかじめ用意されている
会場には、遊びたいタイトルを決めない、またはゲーム自体に詳しくない人向けに「スタッフおすすめタイトル」があらかじめ用意されている

とはいえ、卒業論文でゲームをテーマにする学生が増えているとの実感もあるそうだ。事実、筆者が取材した当日も、ゲームのローカライズの研究のためにNINTENDO64版の元祖「どうぶつの森」をプレイする学生がいた。

また「オープンアクセスデー」の会場内では、今まで面識がなかった参加者同士がゲームを通じて意気投合するケースが多々あり「コミュニティ形成につながる可能性も見えてきました」(毛利氏)ということも特筆に値するだろう。

誰でもゲームの利活用ができる施設の誕生に期待

次回の「オープンアクセスデー」は、来月の1月27日(土)に実施される予定で、立命館大学の関係者以外でも利用が可能となる。次回の参加希望者の受付は現在、立命館大学ゲーム研究センターのサイトで行っている(※)。

「オープンアクセスデー」の一般開放によって、新たにどんな成果が得られるのか、今後の動向にも注目したい。

※筆者注:本稿の掲載時点で、すでに募集定員に達している可能性もあるが、その際はあらかじめご了承いただきたい

会場にやって来た学生(左側の2人)に、参加動機などを質問、調査するスタッフ
会場にやって来た学生(左側の2人)に、参加動機などを質問、調査するスタッフ

すでに半世紀以上の歴史を重ね、長らく世界をリードしてきた日本製ゲームの利活用のニーズは、今後もますます高まると思われる。

だが、以前に拙稿「日本が世界に誇るゲームを後世に 国もバックアップを始めた保存活動【ゲームアーカイブ】」などでも再三触れたように、日本は海外に比べてゲームのアーカイブ活動が遅れているのが現状だ。

すでに海外では、日本製のゲームも豊富にコレクションを実施している教育、研究機関や施設がいくつも存在する。中にはアメリカのスタンフォード大学やストロング遊技博物館などのように、利用者にゲームの貸し出しをすでに実施している所もあるのだ。

まだ実験段階ではあるが「オープンアクセスデー」の試みをきっかけに、将来的には立命館大学ゲーム研究センターだけでなく、現在MANGA議連が建設の準備を進めている「メディア芸術ナショナルセンター」や町の図書館などでも、誰でも自由にゲームや関連資料を閲覧、プレイできる仕組みが出来上がることを望みたい。

・参考リンク:立命館大学ゲーム研究センターのホームページ

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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