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消滅しそうな懐かしゲーム、「保存」から「利活用」へ ゲームアーカイブ最新レポート

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
「ゲームアーカイブ推進連絡協議会カンファレンス」のサイト(※筆者撮影。以下同)

文化庁は「令和4年度 メディア芸術連携基盤等整備推進事業分野別強化事業」の一環として、ゲームアーカイブと、その利活用に関する展望をテーマとしたオンラインカンファレンス「ゲームアーカイブ推進連絡協議会カンファレンス:日本のゲームアーカイブの現在と未来」を1月21に開催した。

「ゲームアーカイブ推進連絡協議会」は、国内のあらゆるゲーム所蔵館と連携し、アーカイブのノウハウ共有やデータベース活用などの連携強化、およびアーカイブを進めるための対外的な窓口の構築などを目的に、2019年から文化庁の支援を受けて活動を始めている。

協議会には、ゲームのアーカイブや研究を実施する大学、NPO法人や関連企業が参加している。本カンファレンスでは、参加メンバーによりゲームアーカイブの進捗や今後の課題など最新状況が明らかにされたほか、分野横断企画としてマンガ・アニメのアーカイブ従事者による発表も行われた。

以下、本稿では下記発表プログラムの中から特に注目に値する、ゲームアーカイブのトピックをまとめてお伝えする。

(参考サイト)

・ゲームアーカイブ推進連絡協議会カンファレンス(ゲームアーカイブ推進連絡協議会)

(発表プログラム)

・STAGE1:ゲームアーカイブ推進連絡協議会団体の活動

 「ゲーム保存協会」ルドン・ジョゼフ

 「ナツゲーミュージアム」徳田直人

 「立命館大学ゲーム研究センター」毛利仁美

 「日本PBMアーカイブス」中津宗一郎

・STAGE2:国内外のゲームアーカイブの射程

 「海外におけるゲームアーカイブの取り組み」井上明人(立命館大学)

 「国内ゲームアーカイブと、合法的に取れそうな手筋」松田真(松田特許事務所)

 「ゲーム展示からみるアーカイブの課題と展望」小出治都子(大阪樟蔭女子大学)

・STAGE3:アニメ・マンガ分野におけるアーカイブの諸相(分野横断企画)

  辻壮一(アニメ特撮アーカイブ機構)

  大石卓(横手市増田まんが美術館)

  司会:細井浩一(立命館大学)

収集、保存から利活用のフェーズへと徐々に進展

「STAGE1」では、2019年に掲載した拙稿「コレクションは何と10万点! 有志の熱意と技術を結集したゲーム保存協会の取り組み【ゲームアーカイブ】」でも取材したNPO法人、ゲーム保存協会のルドン・ジョセフ理事長が活動状況などを発表した。

同協会は、ゲーム研究のためのライブラリの構築、つまり研究者が必要とするゲームソフトや参考資料を、図書館のようにいつでも提供できる環境を作ることを目的として日々活動している。2011年に設立され、いち早くゲームアーカイブを始めた組織ということもあり、同協会は今回の発表を通じて着々と成果を上げている印象を受けた。

具体的には、フロッピーディスクや磁気テープなどを使用した古いゲームソフトのマイグレーション(※経年劣化による消失を防ぐため、別メディアへ移行すること)を順次実施しており、今後はFPGAエミュレーション(※)なども行う計画があるとのこと。ライブラリの実現が実に待ち遠しい。

※FPGAエミュレーション:プログラムによって任意に回路を設計できる、ハードベースでのエミュレーションのこと。「FPGA」は「Field Programmable Gate Array」の略称。

ルドン氏が明らかにした「ゲーム保存協会」の今後の計画
ルドン氏が明らかにした「ゲーム保存協会」の今後の計画

「STAGE2」の発表で、とりわけ筆者が注目したのは、弁理士の資格を持つ松田真氏が、以下の3点を根拠にゲームアーカイブがさらに促進する可能性を示したことだった。

  1. 著作権法第67条で定められた、権利者不明の著作物を供託金を払うことで使用できる「裁定制度」を利用した、権利者が不明のゲームの「複製して販売」の実例、および裁定申請前の「広告」が、使用目的を「ゲーム実況」としたものも含めて増加傾向にある 
  2. 文化庁が、著作権等の利用の可否や条件に関する、著作権者の意思が確認できない著作物等を、使用料相当額を払うことで著作権者等からの申し出があるまで、時限的な利用を認める「新制度」を目下検討中であること
  3. 図書館法に定められた規定により、司書を置くなどの方法で大学やNPO法人などのゲーム収蔵館を「図書館等」とみなされる組織にすれば、図書館資料の保存に必要な範囲でマイグレーションが合法的にできるのではないか

また、上記「3」に付随するゲームアーカイブの手段として、国立国会図書館では絶版等資料を許諾不要で合法的にデジタル化、および配信ができることを利用して、パッケージが存在しないオンラインゲームをアーカイブ化できる可能性を示したことも大きな注目ポイントだ。

なお、この国会図書館によるゲームアーカイブ実現の可能性は、昨年8月に開催された「CEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス)2022」で、松田氏ほか2名の共同発表「復刻できないあのゲームを、合法的にプレイできるようにするために、今できること」でも紹介されていた。本発表の動画は下記リンクより視聴できるので、興味がある方はぜひご覧いただきたい。

(参考リンク)

・【CEDEC2022】復刻できないあのゲームを合法的にプレイできるようにするために、今できること(ゲーム寄贈協会のYouTubeチャンネル)

(※同協会は松田氏が設立したNPO法人)

松田氏の発表資料より。ゲーム収蔵館を「図書館等」にすることで、マイグレーションが実施できる可能性などをわかりやすく解説していた
松田氏の発表資料より。ゲーム収蔵館を「図書館等」にすることで、マイグレーションが実施できる可能性などをわかりやすく解説していた

「STAGE3」では、特定非営利活動法人ATAC(アニメ特撮アーカイブ機構)の辻壮一氏と、横手市増田まんが美術館の大石卓館長がアニメ、特撮、マンガのアーカイブ状況を発表した。

辻氏によると、特撮の分野ではミニチュアの修復やセットのデジタル化のほか、中間制作物も含めたうえで資料を保存し、アニメは資料作成の一環として、OCRを駆使してスタッフクレジットの情報収集も実施しているとのこと。

また、ATAC理事長でもある庵野秀明氏の巡回作品展「庵野秀明展」や、円谷英二記念館などの企画協力のほか学術、各種文化事業にも協力するなど、アーカイブの利活用事例も併せて発表された。

これらの取り組みは、とりわけゲーム開発資料のアーカイブを実施する際には、大いに参考になるだろう。

ATAC辻氏の発表では、特撮資料の保存の取り組みなどが紹介された
ATAC辻氏の発表では、特撮資料の保存の取り組みなどが紹介された

大石館長からは、館内では収蔵庫との仕切り壁を文字どおりガラス張りにして、来場者がマンガの原画やアーカイブ作業の様子を見られるようにしているほか、同館が国内で唯一のマンガ原画保存の窓口となり、2021年からは漫画家の遺族が処理に困った原画などの資料をプール(一時保管)する取り組みを始めていることなどが発表された。

現在、超党派の国会議員によるMANGA議連が「メディア芸術ナショナルセンター」の法制化を進めているが、もしセンターの建設が実現した際には、同館の取り組みはゲーム分野にも広く応用できるように思われる。

さらに大石館長によると、同館が今までに多くのアーカイブ活動や、 展示などによる利活用の実績を積み上げたことで、対外的に「横手市=まんが美術館」の認識ができたとのこと。ゲームメーカー、あるいは地方自治体が、地方でゲームの博物館を作って「地域おこし」を計画する際の先行事例として、こちらも非常に参考になる素晴らしい発表だったように思う。

収蔵庫の仕切り壁をガラス張りにした、「横手市増田まんが美術館」のアイデアはまさに秀逸
収蔵庫の仕切り壁をガラス張りにした、「横手市増田まんが美術館」のアイデアはまさに秀逸

上記で紹介した発表以外にも、「ナツゲーミカド」などゲームセンターへの運営協力のほか「遊ぶ!ゲーム展」「日中文化交流協定締結40周年記念 特別展『三国志』」「徳川美術館×刀剣乱舞-ONLINE-2021」などの展示イベントに、ゲームを利活用した事例が数多く発表されたのも朗報だった。

関連資料も含め、ゲームはアーカイブするだけでも大変な労力を必要とするが、各収蔵館の努力が少しずつ実り、収集したゲームを利活用するフェーズに移行しつつあるのは、将来に向けて非常に明るい材料のように思えた。今後も文化庁など行政による支援の継続と、各収蔵館の活動を大いに期待したい。

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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