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コロナ禍でゲーセンはなくなってしまうのか? 生き残り戦略をタイトー社長に訊いてみた

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
タイトーステーション福岡天神店(※タイトー提供)

コロナ禍がもたらした、いわゆる「巣ごもり需要」で空前の利益を上げるゲームメーカーがある一方、同じゲーム業界でありながら、その恩恵をまったくと言っていいほど受けていないのが、多くの人が外出を控えるようになったことで客足が減ったアミューズメント施設、すなわちゲームセンターだ。

老舗メーカーであり、大手オペレーター(※ゲームセンターの経営会社)でもあるタイトーは、コロナ禍でアミューズメント事業が打撃を受けたことが響き、2021年3月期の決算で57億円の当期純損失を計上、極めて厳しい状況となってしまった。

拙稿「5年連続で市場拡大もビデオゲームは人気低迷 アーケードゲーム市場の実態は」でも紹介したように、市場規模は2015年から5年連続で拡大していた。しかし、昨年に緊急事態宣言が発令されて以降、各地のゲームセンターが臨時休業や営業時間の短縮などの対応を余儀なくされ、閉店も相次いだことから、2020年の市場規模は業界団体が統計を取り始めて以来、過去最低の数字になることは必至の情勢だ。

12日から東京都内に緊急事態宣言が再び発令されるなど、市場全体が未曽有の危機的状況のなか、タイトーはどのような経営方針を掲げているのだろうか? また、今後の業界全体の見通しをどのように見ているのだろうか? 5月20日付で同社の代表取締役社長に就任した岩木克彦氏に聞いた。

株式会社タイトー 代表取締役社長 岩木克彦氏(※筆者撮影)
株式会社タイトー 代表取締役社長 岩木克彦氏(※筆者撮影)

現在は地方を中心に回復基調に。新施設の運営にも次々とチャレンジ

withコロナの時代にあって、タイトーの店舗ではどのようなオペレーションを展開しようと考えているのだろうか?

「我々には、駅前の好立地の路面店から商業施設の中にいたるまで、さまざまな場所に出店して各地域のメインターゲットのお客様に来ていただけている強みがあり、JAIA(※筆者注:一般社団法人 日本アミューズメント産業協会)で作成したガイドラインをベースにタイトー本部で作成した安心・安全ガイドラインをもとに、店舗でしっかりとしたコロナ対策を指導したうえで展開したいというベースがあります。

 コロナ禍でリモートワークが増えたことで、コミュニケーションや運動が不足気味だと答える人が多いとのアンケート調査が出ております。生活様式が大きく変わっていくなかで、弊社でも時代に合った店舗展開を考えながら、しっかりとした遊び、体験ができるところが強みであることも示していく必要があると考えています」

前述の拙稿でも触れたが、現在ゲームセンターの売上の約半分をプライズ(景品)ゲームが占めている。とりわけ、ひと昔前は多くの店舗で大きな収入源だったメダルゲームの売上低下が著しい昨今の市場トレンドを、岩木氏はどのように見ているのだろうか。

「ここ4、5年の間は右肩上がりで市場が成長し、カードゲームなどの売上が伸びましたが、1年ほど前からその勢いがなくなりプライズにシフトしていったのは、弊社だけではない業界全体の傾向です。メダルゲームの対策もいろいろとやってはいるのですが、コロナ禍でメダルを扱うのは厳しくなっている面があるかもしれません。

 弊社としても、アプリ上でオンラインメダルサービス『タイトーオンラインメダル』のテスト運用を始めたりしていますが、メダルゲームはお年寄りのお客様がとても多く、外出を控えている方が多いことが響いているように思います。

 コロナ禍のずっと以前から、世の中のトレンドに合わせて店の中も変化してきた歴史がありますし、プライズゲームであれば店舗ごとに中身の景品をいろいろと変えることができますので、今のところはプライズゲームを増やすことが、お客様のニーズに最も合っているのではないかと思っております」

近年のゲームセンターはプライズゲーム中心のオペレーションになっている(※タイトーステーション府中くるる店にて筆者撮影)
近年のゲームセンターはプライズゲーム中心のオペレーションになっている(※タイトーステーション府中くるる店にて筆者撮影)

ほかにもタイトーでは、既存のアーケードゲームとは異なる遊びや体験ができる施設の運営も相次いで始めている。

「『あそんで!そだてる!らくがキッズ』という、デジタルとフィジカルを融合した新しい遊びを商業施設向けに展開しています。お子様が遊具で遊ぶ(運動する)とたまるガッツ(ポイント)を利用して、自分で描いたキャラクター(らくがき)を成長させたり、バトルをしてらくがきを進化せたりして楽しむことができます。

 お陰様で非常に好評で、満足度が高いとの調査結果も出ております。先日、私も現地(※筆者注:栃木県宇都宮市のベルモール)に行ったのですが『帰りたくない!』と泣いているお子様を見掛けました。まだ1号店を出したばかりの段階ですが、今後もデータを取りつつ、新たなニーズを探っているところです。

 駅前の複合店向けには、『地獄のタイトーステーション くらやみ遊園地』をタイトーステーション福岡天神店の地下1階にオープンしました。こちも好評で、特に新しい女性のお客様に多くご来店いただいております。今月からは、また新しいコンテンツを導入する予定で、今後も常に進化させていこうと思っております。

 それから7月1日には、クラフトビール&ゲームバー『EXBAR TOKYO plus』をタイトーステーション新宿南口ゲームワールド店内にオープンしました。以前に銀座で『EXBAR TOKYO』を単体で展開したときのノウハウや知見を活かし、今度はアミューズメント施設の中でチャレンジしてみようと考えました。立地は最高ですし、今後もアミューズメント施設のコンテンツのひとつとして、いろいろな展開ができるのではないかと思っております。

 リモートワークが進んで在宅時間が多くなると、特に目的がなく店舗等に人が出掛けないことが増えると思いますので、弊社では目的を持って出掛けるような魅力的なコンテンツを導入した施設の展開が大事だと考えています」

栃木県宇都宮市のベルモールにオープンした「あそんで!そだてる!らくがキッズ」(※タイトー提供)
栃木県宇都宮市のベルモールにオープンした「あそんで!そだてる!らくがキッズ」(※タイトー提供)

「<<強刺激エンタメスポット>>くらやみ遊園地 丑の刻地下病院」(※タイトー公式YouTubeチャンネルより)

タイトーステーション新宿南口ゲームワールド店内にオープンした「EXBAR TOKYO plus」(※タイトー提供)
タイトーステーション新宿南口ゲームワールド店内にオープンした「EXBAR TOKYO plus」(※タイトー提供)

出店攻勢は控えるも新製品・サービスの開発は継続中

ゲームファンにとって気になるのは、コロナ禍以前から毎年のようにゲーセンの店舗数が減り続ける状況下にあって、今後タイトーは積極的に出店をするのか、それともスクラップアンドビルドを加速させるのか、そして新作ゲームを出す予定が近々あるのかどうかだろう。

岩木氏は「まだコロナ禍の状況が続いているので、今は積極的な展開はしておりません」と新規の出店には慎重な姿勢を示した。新作アーケードゲームの開発・販売も「積極的にするのは難しい状況ではないかと思っております」とのことだったが、水面下ではいくつもの案件が動いているそうだ。

「コロナ禍以降も、けっして何も開発をしていなかったわけではありません。昨年はメダルゲームの『ダイノキングビクトリー』や、キッズ向けの『わくわく♪ハンバーガー』を、今春にはプライズゲームの『ゲッタースピン』を発売しました。ほかにもメダルゲームの『星のドラゴンクエスト キングスプラッシュ』などをいつ、どの時期に出すべきなのか、タイミングを見計らっているものがいくつもあります。

 それから景品の開発も、今まさに強化を図っているところです。オンラインクレーンゲームのほうも競合がかなり増えましたが、こちらの市場はコロナ禍でも追い風で、まだまだ成長していくと思います」

昨今のゲーム業界の大きなトレンドであるeスポーツは、アーケードゲーム界隈では今のところほとんど取り込めていないのが現状だ。岩木氏によると、eスポーツのビジネス化にはまだ課題があるとのことだったが、将来的には取り入れていく計画があるそうだ。

「『闘神祭』(※筆者注:タイトーとNTT-eSportsが主催するeスポーツ大会の名称)を去年は実施できませんでしたが、今後も継続できるように準備を進めています。また弊社では、NTT-eSportsさんに出資している関係もあって、秋葉原で『eXeField Akiba(エグゼフィールド アキバ)』をご一緒にやらせていただいております。

 eスポーツは、現時点では事業として成り立たせるのが難しく、大きな課題になっていますが、タイトーステーション溝の口店にある『MEGARAGE(メガレイジ)』のスペースを使用して大会を実施すると、店舗全体でもかなりの集客がありますね。『MEGARAGE』では飲食をご提供したり、将来的にはeスポーツも楽しめるようにと作ったもので、今のところはいろいろな実験をして知見を集めながら進めているところです」

タイトーの新作プライズゲーム「ゲッタースピン」(※筆者撮影)
タイトーの新作プライズゲーム「ゲッタースピン」(※筆者撮影)

時代に合った新オペレーション技術の導入も検討中

コロナ禍で閉店が相次ぐゲームセンターだが、岩木氏は今後も市場がなくなるようなことはなく、長らく継続するとの見解だった。

「店舗は今後もずっと継続していくものであると私は思っています。過去にはファミコン、あるいはプレステが出たときに『ゲーセンはなくなる』と言われたこともありましたが、実際にはそうはならなかったですし、市場規模は今でも約5000億円ありますから、今後もお客様に必要とされる形で継続するでしょう」

最後に、withコロナという大変な時代に会社経営を託された岩木氏に、今後の抱負を語っていただいた。

「タイトーは『スペースインベーダー』を発売する以前から、長らくアミューズメント事業を手掛けてきた歴史を持ち、現在に至るまでいろいろなチャレンジを続けながら、業界の新しい流れを作ってきた会社です。また、弊社はゲーム会社として『モノ作り』をひとつのベースにしておりますので、その経験や知見を活かしつつ、特にアウトプットという面ではアミューズメント施設、およびオンラインクレーンゲーム事業を大きな柱として、ほかの事業も補完しつつ、会社を強くしていきたいと思います。

 今までは『お客様と積極的に接しなさい』と言っていたのに、コロナ禍で逆に距離を置かなければいけない状況になりましたので、これからはオペレーションにも新たな技術を取り入れて活性化する必要があると考えております。時代に合わせて自分たちも変化しつつ、成長していくことが今の大きな課題ですね」

タイトーステーションの看板を手にポーズをとる岩木氏(※筆者撮影)
タイトーステーションの看板を手にポーズをとる岩木氏(※筆者撮影)

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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