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なぜアメリカで「パックマン」の巨大施設を譲り受けた? GENDAの勝算は

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
4月にオープン予定の「ENTERRIUM」の店内(※GENDA提供。以下同)

株式会社GENDAは、アメリカにあるグループ会社のKiddleton Inc.が、ナムコUSAの複合エンターテインメント施設「PAC-MAN ENTERTAINMENT」を4月27日に譲り受け、一部改修をしたうえで5月下旬に「ENTERRIUM」と名を変えリニューアルオープンすると発表した。

「PAC-MAN ENTERTAINMENT」は、2015年にナムコUSAの旗艦店舗としてイリノイ州のウッドフィールドモールにオープンし、アーケードゲームのほかボウリングやレストラン、バーなども運営し、営業面積は41,000Sqf(約1,152坪)を誇る複合型のエンターテインメント施設。バンダイナムコホールディングスは、3月1日にナムコUSAが保有する店舗や固定資産を3社に譲渡し、北米のゲームセンター運営事業から3月内に撤退すると発表していたが、そのうち1社がKiddleton Inc.であることがこれで明らかになった。

・参考リンク:「北米におけるアミューズメント施設事業からの撤退に関するお知らせ」(バンダイナムコホールディングスのプレスリリース ※PDF形式)

GENDAは拙稿、「『ゲームセンターはなくならない』SEGAブランド経営トップが語る未来像」でもご紹介したように、昨年12月にセガブランドのゲームセンターの経営権を取得し、新たに大手オペレーターとなった会社。日本国内だけでなく、海外でもグループ会社を通じて有名店を譲受し、攻勢に出る同社の狙いを取材した。

コロナ禍でも既存店、新店舗ともに勝算あり

GENDA広報によると「PAC-MAN ENTERTAINMENT」の事業譲受は、ナムコUSA側からの打診がきっかけで実現した。なお、店名の由来は「ENTERTAINMENTと、商業の中心地という意味を持つENPORIUMを掛け合わせた造語です。エンターテインメントを発信する中心地になればとの思いを込めています」(同社広報)とのことだった。

同店は、Kiddleton Inc.としては昨年7月にオープンしたキッズ向け店舗「Kiddleton Hulen Mall Branch」に続き、アメリカ国内では2店目の出店となる。だが、新型コロナウイルスの患者数が日本よりもはるかに多いアメリカで、はたして勝算はあるのだろうか? その答えは明快かつ自信にあふれていた。

「当社としては、現在のコロナ禍でのAM・レジャー産業の落ち込みは一時的なものだと考えています。現に『Hulen Mall Branch』では、コロナ感染者の減少とともに、日を追うごとに客数・売上ともに上がってきており、やはりエンターテインメント施設は国を問わず人々に必要とされていると実感しておりますので、コロナ後もまだまだ伸びていく産業であると確信しています。

 旧『PAC MAN ENTERTAINMENT』も、コロナ禍での影響を受けておりましたが、全米トップクラスのショッピングモールへ出店していること、非常に優れた店舗設備やオペレーションを有していることから、コロナ後に確実にお客様は戻るだろうと判断し、この度の決定をいたしました」(GENDA広報)

「ENTERRIUM」のボウリングコーナー
「ENTERRIUM」のボウリングコーナー

日本の景品がアメリカでも切り札に?

熱心なゲームファンであれば、店名から「PAC-MAN(パックマン)」が消えたことで、今まで店内にあった「パックマン」シリーズのゲームや、コラボメニューの提供を続けるのかも気になるところだろう。

GENDA広報に確認したところ、

「『PAC-MAN ENTERTAINMENT』だけのオリジナルのゲーム機械はありませんので、ゲーム機械についてはすべて残ることになります。一部『パックマン』が登場するゲームなどはありますが、こちらは通常販売されている製品のため、特別に撤去する予定はございません。また、レストランの『パックマン』とのコラボメニューは事業譲受後になくなります」

とのこと。また「パックマン」に変わり、新たにアメリカでもセガの看板キャラクターである「ソニック」を使用した新作やサービスを展開する計画があるのかも尋ねてみたが、今のところ一切ないそうだ。

では、新生「ENTERRIUM」は、どんなオペレーションに注力するのだろうか?

「まずはコロナ禍での落ち込みからの回復に注力するため、現状のオペレーションを大きく変える予定はありませんが、現在Kiddletonの店舗でも好調なプライズ機や、日本の景品は拡大していく予定です」(GENDA広報)

アメリカと日本とではオペレーションが異なるので単純に比較はできないが、昨今の日本で人気のプライズゲーム、および景品を「ENTERRIUM」でどのように展開するのかが注目ポイントとなりそうだ。

「パックマン」とのコラボメニューはなくなるが、飲食コーナー自体は継続して営業を続ける
「パックマン」とのコラボメニューはなくなるが、飲食コーナー自体は継続して営業を続ける

目指すは業界世界一

前掲の記事の取材時に、GENDAの片岡尚会長は「アミューズメントの世界では1番になりたい」と話していた。「世界で1番」とは、国内の業界シェアでトップを目指す意味だろうと筆者は解釈したのだが、アメリカでも積極的に事業拡大を図っていることから、もしかしたら海外でもトップの座を狙っているのだろうか? 改めて尋ねたところ、衝撃のコメントが返ってきた。

「アミューズメント業界においては、グローバル市場のNo.1を目指します。米国においては、当初は子ども向けアミューズメント施設を同時期に3物件出店する予定でしたが、コロナウイルスの拡大のため出店を見合わせておりました。今後はコロナウイルスの収束の状況を見ながら、新規店舗を出店する予定です」(GENDA広報)

ナムコUSAに限らず、これまでに北米市場に進出した日本のオペレーターは長らく苦戦を続けてきた。はたしてGENDAは「ENTERRIUM」を機に、その歴史を覆せるのかにも大いに注目したい。

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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