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「ゲームセンターはなくならない」SEGAブランド経営トップが語る未来像

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
東京都立川市にあるゲームセンター、クラブセガ 立川(※筆者撮影。以下同)

アーケードゲーム機のレンタル、オンラインクレーン(景品)ゲーム事業などを手掛けるGENDA(以下、ジェンダ。本社:東京都千代田区)は、昨年12月30日にセガ エンタテインメントの株式の85.1%を取得。社名をセガ エンタテインメントからGENDA SEGA Entertainment(以下、ジェンダ セガ エンタテインメント)と改め、新たにセガブランドのゲームセンター経営を担うことになった。

昨年11月、老舗メーカーがゲームセンター経営から撤退するとのニュースは、普段はあまりアーケードゲームの記事を載せないゲームメディアでも盛んに報道されたこともあり、多くのゲームファンにとって驚きのニュースとなったことだろう。

今のところ、同社が全国各地に持つ約200店舗は、以前と同じ店名、オペレーションのまま営業を続けている。だが、コロナ禍で再び緊急事態宣言が出る地域が相次ぐなか、今後も同社は旧セガ エンタテインメント時代と同じ方針を継続するのだろうか? あるいは、既存店のスクラップアンドビルドを推進し、オペレーションや機種構成、サービス内容をガラリと変えてしまうのだろうか?

業界関係者や株主だけでなく、ゲームファンにとっても大いに気になるであろう今後の経営方針について、ジェンダ セガ エンタテインメント代表取締役会長の片岡尚氏に話を伺った。

片岡尚会長(※筆者撮影。以下同)
片岡尚会長(※筆者撮影。以下同)

セガブランドをそのまま継承、オペレーションも当面は継続路線

片岡氏によると、旧セガ エンタテインメントの株式取得のきっかけは、昨夏にセガグループから「今後について相談に乗ってほしい」と連絡を受けたことがきっかけだったという。

「弊社を設立した当初から、いずれ店舗経営にも参入したいという思いはずっと持っていました。株式取得の可能性について議論をしたうえで、我々から条件等を提示させていただいた結果、株式を譲渡をしていただくことができました」(片岡氏)

ゲームファンにとっては、セガのゲーセンが今後も現行のまま営業を続けるのかどうかが、最も気になることだろう。片岡氏の答えはズバリ、継続路線だった。

「これからも、セガブランドは継続して使用したいと思っており、今までどおりに営業を続ける予定です。ネット上でのセガファン、あるいはお客様の反応も見ていましたが、セガのブランドが残るのかどうか、心配する声がすごくありましたね。それだけ多くの反応があったことで、セガのブランド力、魅力の高さを改めて感じました」(片岡氏)

なお、今後もセガ製の新作アーケードゲームのロケテスト(※試作版のテスト稼働)やセガ公式全国大会など、各種イベントの実施も継続するのかを伺ったところ「協力できるところは最大限の協力していきます」とのお答えだった。

セガのシンボルキャラクター、ソニックも引き続き店舗で使用されるそうだ(写真はセガワールド大森の看板)
セガのシンボルキャラクター、ソニックも引き続き店舗で使用されるそうだ(写真はセガワールド大森の看板)

セガサミーHD出身ではない、片岡氏が会長に就任したことで「儲からないゲーセンをどんどんつぶしたり、リストラを進めるのかな?」と不安に思うゲームファンも少なからずいるかもしれない。だが、コロナ禍によって厳しい市場環境にありながらも、旧セガ エンタテインメントの役員、現場スタッフともに全員そのまま残している。

「先日から、都内の店舗を順番に訪問していますが、コロナの被害を最も受けている地域なのに、どの店長も士気は全然下がっていませんでした」(片岡氏)と意気軒昂だ。

実は片岡氏自身も、根っからのゲーセンおよびアミューズメント施設好きで、以前は国内最大手のオペレーターであるイオンファンタジー、およびシネコンを運営するイオンエンターテイメントの代表取締役社長を兼務した経験を持っている。

「私は1995年に新卒でイオンに入社したのですが、そもそも入った動機はアミューズメント事業部で働きたいと思ったからです。最初は別の仕事をしていましたが、97年から希望がかなってイオンから出向する形で、現場の店員として制服を着て、メリーゴーランドを回したりする仕事をするようになりました。それ以来、アミューズメントビジネスにずっと関わっています」(片岡氏)

 前職では、現場スタッフから社長まで、十分な実績を持った人物が会長だと聞けば、ゲームファンもひとまず安心できるのではないだろうか。さらに、筆者が片岡氏のSNSを調べてみたら、下記のようなツイートもしていたので正直びっくりしてしまった。

「セガは1番であるべき」店舗数を増やし業界トップ奪還を目指す

雇用も含めた継続路線を進める一方で、将来の目標や計画、具体的には新業態の店舗を作ったり、出店数を増やす方針などを持っているのかも気になるところ。

例えば、現在のアーケードゲーム業界ではプライズ(景品)ゲームが大きな収益源になっているが、先日クレーンゲーム機の最多設置台数のギネス記録を更新した、セガ 新宿歌舞伎町のようなプライズゲーム重視の方針にシフトするなど、新たなオペレーションやショップブランド作りを目指す構想があるのだろうか?

「そもそも、私が外から見ていたときから、セガ エンタテインメント自体が立地、品ぞろえ、接客、ブランドのすべての要素で良い会社だと思っており、今でもその認識は変わっていません。

 今はコロナ禍でダメージを受けているのは確かですが、いずれは元の状態に必ず戻ると思っていますので、抜本的な改革の必要はなく、現在の路線を踏襲しつつチューニングをしていけばいいだろう、というのが私の考えです。ですから、どこの店舗も歌舞伎町のようにしてしまおうとか、すべてを劇的に変えるつもりはありません」(片岡氏)

いずれは店舗数を増やしていくのか、それとも不採算店をどんどん減らしてスリム化を図るのか? 将来の出店計画についても聞いたところ、古くからのセガファンも大喜びするであろう、実に威勢のいいコメントをいただいた。

「長期的には、店舗数はもっと増やしていきたいですね。ビジネスとしてやるからには、やっぱりアミューズメントの世界では1番になりたい。国内では、なるべく早いうちにトップの座を奪還したいと思っておりますので、どこかのタイミングで出店を加速させます。M&Aの実施や、海外進出も視野に入れています。

 やっぱり、セガは1番であるべきだろうと。それは早急に実現したいです。イオンファンタジー時代の仲間には、こんなことを言うと怒られるかも知れませんけど(笑)」(片岡氏)

アーケード界隈、特にビデオゲームに関しては、昨今のゲーム業界では大きなトレンドとなっているeスポーツをうまく取り込めていないのが現状だ。ジェンダ セガ エンタテインメントでは、eスポーツへの参入も考えているのだろうか? 

「もし参入するのであれば、我々としてはどういう形でビジネスをするのがベストなのか、ちょうど今メチャクチャ勉強をしているところです。個人的に重要なテーマであると考えており、参入できるかどうかを日々模索しています」(片岡氏)

こちらの動きが出てくるのは、残念ながらまだまだ先のことになりそうだ。

前掲の「ソニック看板」同様、セガワールド大森の店舗外観も以前と変わっていない
前掲の「ソニック看板」同様、セガワールド大森の店舗外観も以前と変わっていない

クレーンゲームと言えば、もうひとつ気になるのがPCやスマホで遊べるオンラインクレーンゲーム事業だ。ジェンダ セガ エンタテインメントが誕生した結果、以前からジェンダが運営している「LIFTる。」と、「セガキャッチャーオンライン」の2種類のオンラインクレーンゲーム事業を、同じジェンダグループ内で手掛けることになった。

今後、これらの事業を統合するのかを片岡氏に尋ねたところ、「現段階では統合する予定はありません」という。

「景品、あるいは遊びのあり方など、UI/UXデザインがそれぞれまったく異なる別のサービスになっていますので、お客様にとって統合するメリットあまりないだろうと。ただ、例えば倉庫を共通化するとか、あるいはデジタルマーケティングをいっしょに実施する可能性は十分にあると思っております」(片岡氏)

なお片岡氏によると、「セガキャッチャーオンライン」は名称を近日中に変更する予定があるそうだ。ほかにも新サービスなどのアナウンスがあるかもしれないので、こちらの動向にも注目したい。

「セガキャッチャーオンライン」のトップページ(※1月22日撮影)
「セガキャッチャーオンライン」のトップページ(※1月22日撮影)

ゲームセンターは今後もなくならない

コロナ禍という未曾有の逆風が吹き荒れるなか、新生ジェンダ セガ エンタテインメントを率いる決断を下した片岡氏は、将来のアーケードゲーム市場をどのように予測しているのだろうか? 同氏の見解をもって、本稿のまとめとしたい。

「私からゲームファンの皆様にまず申し上げたいのは、ゲームセンターは10年後も20年後も、少なくとも現在の規模のまま存続していると思っており、業界全体の見通しもけっして悲観はしていないということです。市場規模がピーク時の6割ほどに下がった時期もありましたが、その間にスマホゲームなどとの置き換え、入れ替わりは終わったので、今後も一定の市場規模を維持し続けると思います。

 入れ替わりが終わって必要なものだけが残り、ファンの皆様のご協力もいただいた結果、リアル店舗でのエンタテインメントとして確立したゲームセンターが作れたのだと考えております。中身のあり方はやがて変わっていくと思いますが、ゲームセンター自体は日本エンタテインメント産業における、ひとつの大きな遊びのカテゴリーとして存続し続けるでしょう。これからも皆様とともに、より楽しいゲームセンターをご提供していきたいですね」

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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