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「通販もせざるを得ない」売上が前年比80%まで回復しても赤字、苦境のゲーセン

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
岡山県倉敷市のゲームセンター「ファンタジスタ」の店内(※大島店長提供)

コロナ禍による2度目の緊急事態宣言で、ゲームセンターがますます厳しい状況に追い込まれている。

昨年に拙稿「コロナ禍でゲームセンターが瀬戸際 苦境の中で求められる支援とは」でも取材した岡山県倉敷市のゲームセンター、ファンタジスタでは、今月からチャリティグッズの通販を開始した。

同店は、昨年もチャリティキーホルダーの通販を実施しており、グッズ通販は今回が2度目となる。また、同店では昨年4月20日から5月17日まで自主的に臨時休業したが、営業再開後も現在に至るまで売上が回復しないことから、グッズ通販の再実施に踏み切った。

本業とは別に通販もせざるを得ない、現在のゲームセンターの経営状況とは? ファンタジスタの大島幸次郎店長と、同店の通販に協力した株式会社eGCの平川聡憲氏にお話を伺った。

「ファンタジスタ」の外観(※大島店長提供)
「ファンタジスタ」の外観(※大島店長提供)

融資の返済と新たな投資に迫られ、チャリティグッズ販売を再実施

大島店長によると、現在のファンタジスタの売上は例年の80パーセント。現状では、この水準を維持するのが精一杯で、昨年からコロナ禍によって増えた赤字は1,000万円を超えたとのこと。

しかも、昨年はコロナ禍直前のタイミングで大きな投資を実施したため、「売上が前年比の110~120パーセントでも満足できない状態なんです」(大島店長)というのだから、極めて深刻な状態だ。

大島店長によると、現在の状況は年明け早々から予測できていたそうだ。だが、ここに来てさらに大きな支出が、つまり新作ゲームに予想以上の投資を強いられる、実に頭の痛い状況が発生したのも、通販を再開するきっかけにつながった。

「今年の夏にまとまった支出があることが確定し、ますます先の見通せない状況になってしまいました。昨年、コロナ禍の影響で売上が下がることを見越して受けた融資も底を突き、これから返済が始まるのですが、この融資はもともと今年3月まで経営を続けられるという計算で出した金額なんです」(大島店長)

ファンタジスタのチャリティグッズ、バッジとキーホルダー(※大島店長提供)
ファンタジスタのチャリティグッズ、バッジとキーホルダー(※大島店長提供)

ファンタジスタのチャリティグッズの販売は、eGCの平川氏が制作したECサイト「ゲーマコネクト」を利用して行っている。

実は平川氏の前職は、中国・四国地方を中心に多くのゲームセンターを経営するアミパラで、自身も店長を務めた経験を持つ。だからこそ、ファンタジスタが厳しい状況にあることを熟知しており、「ゲーマコネクト」を3月7日より先行オープンさせる形で、同店のグッズ通販の支援を買って出た。

「ファンタジスタさんでは、すでに『ジスたん』というマスコットキャラクターを使った商品をお持ちでしたので、弊社のサイトで委託販売をすることにしました。今後は弊社でライセンスをいただいたうえで、複数のオリジナルグッズを制作・販売し、チャリティではなく通年販売の定番商品にする予定です」(平川氏)

昨年から、クラウドファンディングを利用して資金を募るゲームセンターがいくつも現れているが、ファンタジスタではコスト面を考慮した結果、クラウドファンディングではなく通販を選んだそうだ。

「支援に対する返礼品を用意するよりも、通販のほうが手数料も掛からずに済むという理由から、eGCさんに通販の委託が可能かどうか相談したところ、ご快諾をいただけたので通販を開始する運びとなりました」(大島店長)

ファンタジスタのマスコットキャラクターを描いた、チャリティグッズの色紙(※大島店長提供)
ファンタジスタのマスコットキャラクターを描いた、チャリティグッズの色紙(※大島店長提供)

チャリティグッズ販売の手段を「他のゲーセン経営者にも知ってほしい」

売上が例年の80パーセントまで回復したのは確かに朗報なのだが、この数字ではファンタジスタに限らず、どこのゲーセンでも極めて厳しい状況だ。

「ゲーセンは固定費が高い商売ですので、例年の80パーセントの売上では、たいていの店では赤字です。さらに次の新作が出てくることで、余計に経営が厳しくなってしまうんです」(平川氏)

「ならば、また融資を受ければいいのでは?」と思われるかもしれないが、ことはそう簡単ではない。まだコロナが完全に終息しておらず、政府から時短要請が再び出る可能性もゼロとは言えない状況では、店舗が新たに融資を受けたくても、そもそも返済計画が立てられないので融資を受けられないからだ。

また平川氏によれば、今では社会全体がコロナに慣れてきた感があり、最初のときよりもチャリティグッズ販売のスタートダッシュは良くないという。それでも、ゲーセンを支援したいという思いはなお強く、今後もチャリティグッズの販売を希望する店舗があれば協力は惜しまないそうだ。

「弊社でグッズを作ってロイヤリティをお支払いする形でも、あらかじめご用意いただいた商品の委託販売でも、どちらの方法でもご対応します。支援の方法はお店によって変わると思いますが、今後は特に小規模のお店にはコンサルも含めて、何かお手伝いできることがあればいろいろやっていきたいですね」(平川氏)

「実は、私のほうからeGCさんのお手伝いをしたい思いもありました。当店のチャリティグッズがきっかけで『ゲーマコネクト』の存在を知っていただければ、ほかの同業の方にも喜んでいただけると思ったからですね。去年もキーホルダーを販売したことがきっかけで、店同士で横のつながりができた経緯もありますので」(大島店長)

eGCが運営する通販サイト「ゲーマコネクト」(※筆者撮影)
eGCが運営する通販サイト「ゲーマコネクト」(※筆者撮影)

最近は大手オペレーターの店舗も含め、首都圏でも20時以降も営業を続ける店舗が目立つ感があり、どの地域のゲーセンも追い込まれている状況が見て取れる。特に今年に入ってからは、今春~夏にかけて発売予定の新作ゲームに投資ができなくなったため、閉店を決めたゲーセンがあったとの情報もいくつか耳にしている。

今月21日には、1都3県に発令中の緊急事態宣言が解除されるとの報道がすでに出ているが、現場では今すぐにでも通常の営業時間に戻し、売上を例年またはそれ以上に稼ぎたいと思っていることだろう。

チャリティグッズの通販を機に、1軒でも多くのゲーセンの経営状況が好転することを願ってやまない。

(参考リンク)

・「ファンタジスタ」公式情報ブログ

・「ゲーマコネクト」

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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