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コロナ禍でゲームセンターが瀬戸際 苦境の中で求められる支援とは

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
岡山県倉敷市のゲームセンター「ファンタジスタ」(※大島店長提供)

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が解除された5月25日から、臨時休業を余儀なくされていた全国各地のゲームセンターが順次営業を再開している。唯一、「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」を独自に実施した東京都でも、6月12日から「ステップ3」へ移行したことにより、同日から都内のゲームセンターも営業が可能になった。

地域によっては約1か月半もの間、店舗の売上がゼロになった影響は当然ながら極めて大きな打撃となった。全国各地に店舗を構えるイオンファンタジーでは、3月度の売上概況(※国内のみ)を見ると、同月の売上は前年同月比の32.1パーセント、同じく4月度は前年の16.8パーセントにまで落ち込んだ。

また、バンダイナムコホールディングスは、2020年3月期決算短信でリアルエンターテインメント事業の売上高は前期比の90.4パーセントに減少。同じく、セガサミーホールディングスのアミューズメント施設部門(国内既存店舖)の売上高は前期比の97.7パーセント、スクウェア・エニックス・ホールディングスのアミューズメント事業の売上高も、前期比98.8パーセントでいずれも前年割れとなった。

さらに残念なことに、臨時休業を続けている間に営業再開を断念し、そのまま閉店となった店舗もいくつか出てきてしまった。2006年をピークに市場規模が急減し続け、2015年から緩やかながらもようやく右肩上がりに転じたアーケードゲーム業界だったが、今年度は大幅に落ち込むのは必至の情勢だ。

営業を再開できず、閉店となった都内のゲームセンター(※筆者撮影)
営業を再開できず、閉店となった都内のゲームセンター(※筆者撮影)
「ファンタジスタ」の大島店長。背後のキャラクターは同店のマスコットキャラクターである「ジスたん」(※ご本人より提供)
「ファンタジスタ」の大島店長。背後のキャラクターは同店のマスコットキャラクターである「ジスたん」(※ご本人より提供)

緊急事態宣言こそ解除されたが、前代未聞の厳しい状況におかれたゲームセンターは、はたしてコロナ禍以前の活気を取り戻し、今後も生き残ることができるのだろうか? 店舗の現況を伺うべく、岡山県倉敷市にあるゲームセンター、「ファンタジスタ」を経営する店長の大島幸次郎氏にお話を聞いてみた。

「ファンタジスタ」は2002年にオープンして以来、現在まで大島店長がほぼ1人で切り盛りを続ける、今ではすっかり珍しくなった個人経営の店だ。約100坪の店内には、ビデオゲームを中心に130台の筐体が稼働している。

店名の由来は、オープンした年にサッカーのワールドカップが開催されたことと、大島店長が大ファンだったというストイコビッチ選手にあやかったもの。華麗なテクニックで見る者を魅了する同選手のように、お客様を楽しませることができるお店でありたいという思いが込められている。

臨時休業を自主的に実施

実は「ファンタジスタ」のある岡山県では、緊急事態宣言下でも行政側からゲームセンターの営業自粛を求められることはなく、営業を続けようと思えば続けられた。しかし、大島店長は4月20日から5月17日まで、約1か月間の臨時休業を自主的に決断した。「営業を続けた店よりも、逆に休業したうちのほうが目立つほどでした」(大島店長)

では、なぜ大島店長は臨時休業を決めたのか?

「マスクを着用しなかったり、店内で大きな声を上げるお客様がいらっしゃいましたので、これでは感染予防ができないなと。万が一にも、地域の皆さんにご迷惑をお掛けするわけにはいきませんので、思い切って休業することに決めました」(大島店長)

休業中の大島店長は、ゲーム機のメンテナンスをこなしつつ、18年以上休みなしで働いていたので、この機会を利用して体調を整えたりしつつ、再開に向けての準備をしていたそうだ。

また、「休業中は、中国製の部品が届かなくなった影響だと思いますが、パーツ類の入荷が普段よりも遅れるようになりました」(大島店長)という。中国からの輸入が止まったせいで、ゲームメーカーが新製品の開発や発売を延期するとの情報はいくつか聞いていたが、その影響はこんなところにも及んでいたのだ。

さらに、営業再開後はどのようなコロナ対策を実施しているのかを大島店長に尋ねると、「店の入口とカウンターに消毒液を用意しました。お客様には、入店時に必ず手指の消毒をしていただき、店内ではマスクの着用と、大声禁止をお願いする貼り紙を出しました。初めのうちは、ゲーム中にマスクを下ろす方もいましたが、注意をしたらほとんどいなくなりましたね。お客様がセルフで使える、ゲーム機用の消毒液とダスターも用意しています」とのことだった。

入口には消毒液を設置。店内ではマスクの着用をお願いしている(※大島店長提供)
入口には消毒液を設置。店内ではマスクの着用をお願いしている(※大島店長提供)

なお、マスクは2週間ほど前から近隣のドラッグストアでも手に入るようになったそうで、マスクの確保については今のところ心配はないようだ。さらに店内では、換気を良くするための対策も新たに始めている。

「工業用の扇風機を3台購入しました。営業中は排煙窓を開放し、エアコンも全開で動かしていますので、電気代が以前よりも掛かるようになってしまいしたね。今は経費削減のため、22時半~23時ぐらいになったら、お客様がいないコーナーはゲーム機の電源を切るようにしています。ですが、電源を切るとほかのゲームを遊んでいるお客様が、『このまま遊び続けたら申し訳ないかも?』と気まずくなってしまい、すぐに帰ってしまうこともあるのですが……」(大島店長)

扇風機を設置して換気にも気を配っている(※大島店長提供)
扇風機を設置して換気にも気を配っている(※大島店長提供)

赤字が続き、融資を受けて運転資金を調達

大島店長によると「ファンタジスタ」の売上は、新型コロナウイルスが深刻な社会問題となり始めた3月の時点で、前年同月比で60パーセントに急落。さらに、4月の売上は前年の40パーセントまで落ち込み、5月に営業を再開した直後の数日間は、1日あたりの売上は例年の60パーセントだったものの、それ以降は再び40パーセントまで下がったそうだ。

「毎年3月~5月はイベントをいろいろ実施する稼ぎ時なのですが、ちょうど新型コロナウイルスの流行と重なり、非常に深刻なダメージを受けてしまいました。3月~5月の間だけで、合計すると約400万円の赤字です。おそらく、ほかの店でも同じような状況で、『今はもう我慢するしかない』と必死に耐えているところですね」(大島店長)

「ファンタジスタ」では、毎年3月に実施し、多くの集客が見込める定番イベントの参加者が例年の半分程度となり、4月以降に予定していた各種ゲーム大会もすべて中止を余儀なくされた。とりわけ、同店のようにビデオゲームを中心に稼働させている店舗では、3密の状態を必然的に作り出してしまう、集客イベントが一切実施できなくなったのはあまりにも痛い。

しかも同店では、3月に人気のゲーム機を増設し、数百万円規模の投資をしたばかりのタイミングだったこともあり、大きな打撃を受けてしまった。小規模の個人経営の店舗では、これほどの赤字を計上する事態となれば即閉店する状態だと言えば、いかに危機的な状況かがおわかりいただけるだろう。

「今回のところは、コロナの影響だからということで我慢ができていますが、もし通常時にこれだけの赤字を出したら閉店しなくてはいけない状況です。今年度の新製品導入のための資金を取り崩しながら何とか耐えている状況ですので、今すぐ閉店ということはありませんが、新製品が出るときにお金がないという状況になるので非常に厳しいです」(大島店長)

ファンタジスタのビデオゲームコーナー(※大島店長提供)
ファンタジスタのビデオゲームコーナー(※大島店長提供)

そこで大島店長は、持続化給付金を受け付け開始初日にいち早く申請し、さらに緊急小口資金と政策金融公庫の融資も受けることで、当面の運転資金を確保した。また一部のメーカーでは、休業した日数分だけ諸費用の支払いの減額に応じてくれるそうだ。しかし、それでもまだ不十分だという。

「赤字をカバーするにはまだまだ足りません。私のような個人事業主でも、最高で100万円がもらえる持続化給付金は確かにありがたいのですが、複数の店舗を経営するような大きなオペレーターには焼け石に水の金額でしょう」(大島店長)

ちなみに、ゲーム業界において昨今のトレンドである、eスポーツによる恩恵を受けているのかも大島店長に伺ったが、その波及効果は現状まったくなく、eスポーツに使用されるような対戦格闘ゲームも人気はあまりないという。

「今は家庭用のほうが先行して発売されますし、後からアーケード版を出したところで盛り上がらないんです。プロゲーマーの方々も、主戦場は家庭用ですし」(大島店長)

また、4月からは大島店長の発案で、売上の一部が店舗に還元されるチャリティーキーホルダーの通信販売を、大阪府のグッズ制作会社を通じて始めている。その後、このアイデアにほかのゲームセンターも次々と相乗りし、現在では北海道から九州まで、合計28店舗のキーホルダーが販売されている。

「ファンタジスタ」のチャリティーキーホルダー(※筆者撮影)
「ファンタジスタ」のチャリティーキーホルダー(※筆者撮影)

近々の売上回復の見込み無し

コロナの感染を防ぐため、苦渋の決断を下した「ファンタジスタ」。営業再開後、元の水準まで売上が回復するのはいつ頃になると大島店長は見込んでいるのだろうか?

「もしかしたら、もう元に戻らないかもしれません。外出自粛期間は、多くの人が家の中でゲームをしていると思いますが、ゲームセンターで知り合った人同士でも遊んでいると思うんですよね。仲間と一緒に遊ぶのはとても楽しいことですが、もしそのまま店に帰って来なかったらという不安はあります。

 今はたくさん娯楽がある時代ですし、店に来る習慣が一度途切れ、ゲーセンのない生活に慣れてしまったお客様が、はたして帰って来てくれるのかどうか……そこが一番心配です。うちの店で一番稼いでいるのは『機動戦士ガンダム エクストリームバーサス2』ですが、もうすぐ家庭用の『機動戦士ガンダム エクストリームバーサス マキシブーストON』の発売が控えているのも怖いです。

 ゲームセンターというのは、昔からコミュニティがとても大事で、実際に顔を合わせて遊べるところに価値があるのですが、今はインターネットの進化もあって、自宅でもコミュニティの仲間同士で遊べるようになっていますしね」(大島店長)

筆者もゲーセン勤務時代に何度も経験したが、いったん何かしらの事情で店から足が遠のいた客を、再び戻って来るようにさせるのは非常に難しい。しかも異動や新学期シーズンという、客が入れ替わるタイミングでコロナの問題が起こったのだから、なおさら大変だ。元同業者の端くれとして、本当に胸が痛む。

「融資を受けられたことで、店のほうは今のままでも年内は持つと思いますが、それまでにはたして黒字転換するのかどうか……」と、大島店長は今後の見通しについても悲観的だ。今では前述のチャリティキーホルダーの販売だけでなく、クラウドファンディングを実施して存続を図る店舗が全国に相次いで現れており、「ファンタジスタ」以外にも瀬戸際に立たされている店が少なからず存在することがうかがえる。

ゲーム業界全体で見れば、コロナ禍による「巣ごもり需要」は確かに生まれただろう。だが、ことゲームセンター、アーケードゲーム業界に関しては、良いことなど何ひとつないのだ。

店内に設置された両替機(※大島店長提供)
店内に設置された両替機(※大島店長提供)

ゲームメーカー、行政のさらなる支援が必須

本当は営業を続けられたにもかかわらず、経営が苦しい状況にありながら臨時休業という苦渋の決断をした「ファンタジスタ」。誰もが予想だにしなかった新型コロナウイルスの流行を受け、感染拡大を防ぐべく、自らのふところを痛めてまで社会貢献を果たした店舗に対し、「蓄えを用意していないお前が悪い」などと批判することは誰にもできないし、このまま社会から見殺しにされていいわけがないだろう。

大島店長に、「各ゲームメーカーに、何か要望はありますか?」とお聞きしたところ、以下のようなお答えが返ってきた。

「もし店がつぶれることになったとしても、『メーカーに払うお金がないから』という理由で、閉店しなくてはいけないという状況だけは避けられるようにしてほしいです。具体的には、バージョンアップや新作の購入費用を、導入後の売上の中から払えるような配慮をしてもらえるとうれしいです。

 我々のほうでも、今までに遊んだことのない、お客様を呼び込める新作の登場を待っていますし、メーカーさんでもV字回復のための新作を供給したいと考えているとは思いますが、状況によっては新作がゲーセンを殺すことになりかねません。店側に新たな支出を求めず、V字回復できるようなご支援を期待しています。

 コロナの影響で、メーカーの皆さんも当然被害を受けており、その折り合いをつけるのはすごく難しいとは思いますが、営業を続ければ続けるほど赤字が膨らむ、そんな状況に耐えている店をぜひ助けてください。メーカーさんと店とは一心同体ですし、目に見える支援をお願いしたいです。今のままでは、何とか店を存続できても新作を買うお金は一切用意できません」(大島店長)

また、政府や県などの行政に対しては、「家賃など固定費用の減額や支払期限の延長ですとか、2回目の持続化給付金の実施をしていただけるとありがたいです」(大島店長)とのご意見もいただいた。ゲームセンターの店舗数は、1990年代の半ば頃から毎年減り続けているが、このままでは閉店ラッシュがさらに加速し、市場そのものが崩壊するという、日本のアーケードゲーム産業が始まって以来の危機的状況を迎えることになるかもしれない。

6月12日の参院本会議において、新型コロナウイルス感染症対策のための2020年度第2次補正予算が可決、成立した。本予算が各地のゲームセンターの支援にも活用され、経営状況の好転につながることを今は信じたい。そして、1日でも早くコロナが終息し、ゲームセンターに足を運んだ人たちが楽しい時間を享受できる、ファンタジーあふれる元の世界に戻ることを願うばかりだ。

(参考サイト)

・「ファンタジスタ」公式情報ブログ

・ゲーセン支援チャリティーキーホルダー通販サイト(いらすとぷらす)

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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