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「客数が元に戻らない」2度目の緊急事態宣言で再び窮地に立たされるゲームセンター

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
※写真はイメージ(写真:アフロ)

生きるか死ぬか、瀬戸際に立たされる個人経営店

1月20日、都内の老舗ゲームセンターがひっそりと閉店した。

その店とは、東京都新宿区に居を構えていたゲームスポット21。個人経営による小さなゲーセンだが、90年代に大ブームを巻き起こした対戦格闘ゲーム「バーチャファイター」シリーズの聖地として全国的に有名になり、当時は週末になると地方からの遠征組も多数押し寄せていた。

しかし、近年は往時のにぎわいには程遠く、コロナ禍によって大きな打撃を受けたこともあり、昨年11月に閉店することを発表。そして昨日、42年の歴史にピリオドを打った。かつて、新宿駅の西口界隈にたくさん軒を連ねていた個人経営によるゲーセンは、これで残念ながら(同地域では)全滅となってしまった。

1月20日に閉店した「ゲームスポット21」(※筆者撮影。以下同)
1月20日に閉店した「ゲームスポット21」(※筆者撮影。以下同)

筆者もライターの仕事を始めた直後の90年代には、攻略記事のネタを集めるべく、対戦相手を求めてほぼ毎日通う時期があった。今でも仕事で新宿を通る機会が多いので、時折お邪魔していたなじみの店だったこともあり、閉店の報には本当に驚かされた。

閉店当日、同店のスタッフに話を伺ったところ、やはり閉店の決め手となったのは昨年から続くコロナ禍による売上の減少だった。昨年に緊急事態宣言がいったん解除された後も、「リモートで仕事をする人が多くなり、客数は元に戻らなかった」とのこと。

また、元セガの社員で「バーチャファイター2」などのプロモーションを担当した、Yahoo!ニュース個人オーサーのおひとりでもある黒川文雄氏からは、対戦格闘ゲームブーム期の貴重な証言をいただいたので、ご紹介させていただく。

<黒川文雄氏からのコメント>

90年代前半、ゲームスポット21をはじめとした都内各所を中心に、全国のゲームセンターで「バーチャファイター」ならびに「バーチャファイター2」で格闘ゲームブームが巻き起こったことは今も鮮烈に記憶しています。おそらく、青少年たちの中にある「俺が一番強い」という精神的なファイティングスピリッツにダイレクトに反応したものと思います。

同時に、そこに集うもの同士でしか感じることのできないシンパシーもあったことでしょう。それは現在のSNS全盛の時代とは異なり、リアルな出会いであり、よりリアルなゲーム上の技とパンチとキックを交わし、ぶつけ合ったものたちの快感に近い記憶なんだと思います。そのような場所が時代の移り変わり(=人の生き方に反映された)により、姿を消してゆくのは残念なことですが致し方ないと思います。

お店での格闘ゲームコーナーの熱気がとてもすごく、うまいプレイヤー(鉄人)たちの後ろにはギャラリーができ、場内を行き来することも大変だったことをよく覚えています。それでも、鉄人と呼ばれる著名なプレイヤーが来店すると、モーゼの十戒のように人がすうっと引いていくのを見て、おぉっと思ったことは何度もあります。

ゲームスポット21の経営会社が持つ店舗は同店だけであるため、閉店を機に会社をたたむそうだ。

なお、すでに新聞を含む複数のメディアが、店長のコメントを添えた記事をネット上に掲載しているが、筆者が改めて店長およびスタッフに確認したところ、客数や売上の減少を誇張したり、言った覚えのないコメントを載った捏造、誤報ともいえる内容が混じっており「うんざりした」とのこと。

閉店当日には、テレビの取材クルーも来店していたが、もしニュース番組で取り上げるのであれば、もうこれ以上コロナ禍に苦しむゲーセンをもてあそぶようなことはやめていただきたい。本稿の主旨とは直接関係ないが、このような事実があったことを追記させていただく。

閉店日に撮影したゲームスポット21の店内。すでに売却・撤去したゲーム機も多く、日中は閑散としていた
閉店日に撮影したゲームスポット21の店内。すでに売却・撤去したゲーム機も多く、日中は閑散としていた

ほかの都内の有名店も、たいへん厳しい経営状況に陥っている。

以前に拙稿「70年代のレトロゲームが遊べるゲームセンターがオープン 有名店『ゲーセンミカド』の新たな挑戦とは」で紹介した、多くのファンを獲得しているゲーセンミカドも、今月の緊急事態宣言が出された直後から、全店舗で営業時間の短縮(20時閉店)を実施している。

運営本部長の深町泰志氏によると、今月の緊急事態宣言後の客数、売上は例年よりも70パーセント減となり、昨年に引き続きクラウドファンディングの実施も計画中という。また同店のホームページでは、今後の状況次第では平日の休業を検討することも発表されている。

筆者も現場時代に、都心の駅前にある店で働いたことがあるが、ゲーセンミカドなどと同様に平日の売上は夕方以降がピークで、特に金曜日は会社や学校が休みとなる土日よりも売上がよかった日があったと記憶している。当時の経験から言わせていただくならば、都心の繁華街という立地で20時以降に営業ができないようでは、休業しているのと限りなく等しい。

さらに、今月20日からは首都圏の各鉄道会社が終電繰り上げを実施しており、状況はますます厳しくなる一方だ。

     東京・高田馬場にあるゲーセンミカド
     東京・高田馬場にあるゲーセンミカド

大手オペレーターも極めて厳しい状況に

豊富な機種をそろえた大型店、あるいは大手オペレーターが経営する店舗の状況も非常に厳しい。都内では、新宿の歌舞伎町にあったプレイランドカーニバルをはじめ、シルクハット池袋、アドアーズ秋葉原などの大型店舗が、ここ数か月の間に相次いで閉店となった。

セガブランドの店舗を経営する、ジェンダ セガ エンタテインメント(※旧:セガ エンタテインメント)に聞いたところ「緊急事態宣言の対象地域での売上は、通常の60パーセント台となっています」とのことで、対象地域の各店舗では営業時間の短縮も実施中だ。

同じく、タイトーも「ゲームセンターは夕方~夜にかけて、学校やお仕事帰りにお越しいただくお客様も多い業態ですので、お客様の数・売上ともに例年より減少しております。一部店舗をのぞき20時までの営業としており、母体施設がある店舗については、母体施設の指示に従って営業をしております」とのことだった。

時短営業で20時閉店となったゲームセンター
時短営業で20時閉店となったゲームセンター

政府、対象地域の自治体は早急に支援を

飲食関連の業種とは異なり、ゲームセンターは今回の緊急事態宣言にともなう時短営業を実施しても、行政からは協力金も何の支援も受けられない。

業界団体も、まだ目立った動きを見せていない。JAIA(日本アミューズメント産業協会)に電話で話を伺ったところ、対象地域に店舗を持つ加盟各社に、時短営業の協力の要請は行ったが、行政に支援を要請する活動は今のところしておらず「2月8日以降も緊急事態宣言が続くようであれば、対策を何か検討したい」とのことだった。

もし緊急事態宣言の対象地域が拡大、あるいは期間が延長されれば、休業や閉店に追い込まれる店がますます増えるだろう。政府や対象地域の地方自治体は飲食業に限らず、時短営業に協力したすべての店舗にも協力金の支給など、早急な支援をお願いしたい。

また、これは東京都に限ったことだが、来月には第2回となる東京eスポーツフェスタの開催が予定されている(※今回はオンライン開催)。拙稿「なぜ、東京都はeスポーツの予算を計上したのか? 担当者に聞いてみた」でも書いたが、もともと本イベントは都の産業振興を目的として始まったものだ。

eスポーツには予算(※ちなみに第1回の予算は5,000万円)を計上しているのに、長らく風営法などの法令を遵守し、税金を納め続けてきたゲームセンターを助けない理由はないように思えるのだが、いかがだろうか。

昨年1月、東京ビッグサイトで開催された東京eスポーツフェスタ
昨年1月、東京ビッグサイトで開催された東京eスポーツフェスタ

改めて考えたい、今後ゲーセンが生き残るためのオペレーション

当面はコロナ禍をどう生き延びるかが、ゲームセンターの最重要課題だ。だが、仮にコロナの流行が抑えられ、元どおりに営業できるようになった後も、現行のゲームセンターのオペレーション(運営)を続けるだけでよいものだろうか。

前出の黒川氏からは、今後のオペレーションを考えるうえでヒントになりそうなコメントもいただいたので、併せてご紹介する。

<黒川氏のコメント>

当時のセガAM2研パブリシティ・セクションのマネージャーだった私としては、各地のゲームセンターで日夜繰り広げられる彼らの熱量を刺激し、さらにそれを広く伝播することを目標にしていました。

そのためには、お店側から問い合わせや要請があれば可能な限りの協力を惜しまなかったと思います。店が独自に展開する大会へのデザイン・キャラクター素材の貸し出しはもちろんのこと、『バーチャファイター』の鉄人たちがその腕を競い合う『バーチャ道場』(※)などを支援しました。

※筆者注:販促活動の一種。プレイヤーのゲームの腕を、店舗側が段位によって認定し、名前を店内に掲示したり、認定証の発行などをしていた。

筆者が某ゲーセンで1995年にもらった「バーチャファイター2」の「バーチャ道場」段位認定証
筆者が某ゲーセンで1995年にもらった「バーチャファイター2」の「バーチャ道場」段位認定証

「バーチャファイター2」が大ヒットしたのは、ゲーム自体のクオリティの高さだけでなく、メーカー側がゲーム機の販売だけにとどまらず、店舗の販促活動を支援し、プレイヤーコミュニティの形成に貢献していたことも大きな要因となっていたハズだ。今回の取材で、筆者も改めて気付かされた。

取材当日、ゲームスポット21のスタッフからは「最近のオフラインイベントの参加者は、毎回どのゲームでも20人程度なのですが、以前にメーカーさんのご協力をいただき、公式の配信番組に出演しているタレントさんもお呼びしたレースゲームのイベントには、50人ほど集まりました」とのお話も伺った。

昨今のアーケードゲーム、とりわけビデオゲームは目立ったヒット商品がなかなか出てこないこともあり、仮にコロナが終息したとしても、とりわけ個人経営のゲームセンターは、今後も厳しい状況に変わりはないように思われる。

これからは、メーカーが自社製品を稼働させている店舗に対し、今まで以上にオペレーションを支援する仕組みを、とりわけ人的にも金銭的にもリソースの限られた小規模店舗を助けられる、新たな支援およびビジネスモデルを構築する必要があるのではないだろうか。

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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