Yahoo!ニュース

ゲームセンター経営をじわじわ圧迫する「100円玉の両替手数料」

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
※写真はイメージ(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

6月に拙稿、「コロナ禍でゲームセンターが瀬戸際 苦境の中で求められる支援とは」でも書いたように、新型コロナウイルスの流行で多くのゲームセンターが臨時休業を実施したり、客足が遠のいたことで売上が急落した。

大手オペレーター、イオンファンタジーのホームページによると、同社の9月の既存店売上高は前年同月の73.6パーセント。8月は前年の61.5パーセントなので、少しずつではあるが回復に向かっている。筆者も日々あちこちの店舗を見て回っているが、客足がまだ前年並みとは言えないまでも、だいぶ戻ってきている実感は確かにある。

だが、コロナ禍とは別に、ゲームセンターの経営を地味ながらも圧迫する、とりわけ個人経営の小規模店舗には深刻な問題が、ここ1、2年ほどの間に生じている。

その問題とは、銀行や信用金庫が両替時に手数料を徴収するようになったことだ。

今ではゲームセンターにも電子決済システムがかなり普及しているが、従来のコインオペレーション方式も並行して実施している(※「JAEPO2020」会場で筆者撮影。以下同)
今ではゲームセンターにも電子決済システムがかなり普及しているが、従来のコインオペレーション方式も並行して実施している(※「JAEPO2020」会場で筆者撮影。以下同)

けっしてばかにできない両替手数料のコスト

三菱UFJ銀行のホームページを見ると、両替機を使用した際は、両替後の枚数が11~500枚だと300円、501~1,000枚だと600円の手数料が発生すると書かれている。同じく、みずほ銀行では11~500枚で400円、501~1,000枚で800円と、さらに高い手数料が掛かる(※金額は、いずれも専用の両替カードを使用した場合)。

「何だ、大した金額ではないじゃないか」と思うかもしれないが、日々大量の100円玉が「必須アイテム」となるゲームセンターにとっては、極めて深刻な問題だ。

実は上記の金額とは別に、例えば、みずほ銀行のホームページを見ると「大量硬貨取扱手数料」として、1,001枚以上の場合は何と1,980円が徴収され、しかも「以降500枚ごとに660円を加算」と明記されているのだ(※ただし、ATMでの取引の場合は無料)。

逆に、銀行に売上金などを入金する場合も、枚数に応じた手数料が掛かることがある。三井住友銀行では、窓口での入金時は「硬貨入金整理手数料」の名目で、301~500枚は550円、501~1,000枚は1,100円、1,001枚以上だと500枚につき550円が加算されるとのリリースを昨年12月に出している。

今も昔も小銭、そして両替機はゲームセンターに必要不可欠な存在だ
今も昔も小銭、そして両替機はゲームセンターに必要不可欠な存在だ

ゲームセンターは両替金、つまり100円玉や千円札だけで、大きな店舗では数百万円という単位で常備する必要がある。よって、営業中に客の両替が繰り返され、両替機や金庫内の小銭が少なくなってきたら、その都度銀行に一万円や五千円札を持参して崩さなくてはいけない。

特に、銀行が休みになる年末年始や、連休前の時期はたくさんの両替金を準備するので、金庫は小銭でいっぱいになる。筆者も現場時代に何度も経験したが、100円玉のぎっしり詰まった重たい袋を持って店と銀行を日々往復するのは、肉体的にも時間的にも負担の大きい業務だ。集金に要する人員や時間を減らすなどの工夫をこらし、たとえ業務の効率化が実現できたとしても、もし手数料のせいでコストダウンにつながらないとなった場合は、経営者の気持ちはいかばかりだろうか……。

個人経営の小規模店舗では死活問題に

筆者の元同僚や、知人のゲームセンター店長、スタッフ数名に聞いてみたところ、やはり小規模店舗では手数料の負担が重くのしかかっているようだ。

ある地方のゲームセンター店員は、「コロナの臨時休業明けに、休業前からずっと店舗で持っていた100円玉を銀行に預けに行ったら、手数料がかなり高かったので困ってしまいましたね」と話してくれた。

ならば、「キャッシュを不要にできる、電子決済システムを導入すればいいのでは?」と思うかもしれない。だが、コロナが流行する以前から「お金がないから入れられません。もしオーナーなどから『キャッシュレス化するように』と言われたら即閉店です」とか、「何台か導入したのですが、100円玉での売上のほうがまだまだ多いですね」などの理由で、導入が進まない店がいくつもあるとの情報も耳にしている。

ただし店舗によっては、警備会社に両替や売上金の入金をしてもらう業務委託契約をしているため、手数料の影響を受けない所もあるそうだ。ほかにも「最近、取引銀行ではATMでの千円札の払い出し枚数が、1回の操作で上限が100枚だったのが19枚に減ったので、若干ですが不便になりましたね」との声も聞かれた。

消費税率のアップにコロナ禍、そして手数料という名のコストの増加。ゲームセンター経営者にとっては、頭の痛い問題が山積みだ。

ゲーム機が100台に満たないような小規模店舗では、1台ごとに電子決済システムを設置するだけでも大きな負担になる
ゲーム機が100台に満たないような小規模店舗では、1台ごとに電子決済システムを設置するだけでも大きな負担になる

金融機関、行政は早急のフォローを

せっかく店が必死になって稼いだ売上や両替金を、ただ「枚数が多いから」という理由で銀行に手数料を持っていかれる悲しい現実。金融機関が地域経済を元気にするどころか、かえって足を引っ張るようでは本末転倒だ。せめて機械を使用した場合は、一切の入出金の手数料をゼロにすべきではないだろうか。

政府や地方自治体には、経産省が6月まで実施していた「キャッシュレス・ポイント還元事業」の要領で、端末の導入コストを国と決済事業者が負担するなどの方法で、さらなる経営支援もお願いしたいところだ。ゲームセンターに限った話ではないが、今でもコインオペレーションが中心の店舗、とりわけ小規模の小売店に対する救済措置を早急に実施していただきたい。

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

鴫原盛之の最近の記事