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新型コロナウイルスの影響はゲーム業界にも 大型イベント開催に海外ファンも「本当に大丈夫?」

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
2019年開催の「台北ゲームショウ」(写真提供:加藤賢治氏)

新型コロナウイルスの影響により、筆者が近々取材を予定していたゲーム関連イベントやeスポーツ大会が相次いで延期、または中止になってしまった。相応の売上になると見込んでいた仕事が立て続けにキャンセルとなり、もし今後もイベントの中止が続いたらどうなるのかと、日々頭を抱えている。

日本だけでなく、海外のゲーム業界にもすでに大きな影響が出ている。あるゲームメーカーのプロデューサーによると、外注をしていた中国のメーカーでは、社員がしばらく出勤できなくなったなどの理由で事業がストップし、計画が遅れるリスクが生じたことから、外注先を他国のメーカーに切り替え始めているという。

また、3月16日~20日にアメリカで開催予定のゲーム開発関係者向けイベント、「Game Developers Conference」では、ソニー・インタラクティブエンタテインメントやフェイスブック、コジマプロダクションが相次いで参加取り消しを発表。2月6日~9日にかけて台湾で開催される予定だった「台北ゲームショウ」は、本番直前の1月31日になって延期が発表された。

「台北ゲームショウ」とは、世界中から毎年約30万人もの人が訪れる、世界でも有数の規模を誇るゲームの展示イベントだ。日本のゲームメーカーも出展し、筆者の仕事仲間やクライアントの方々も多数取材に出掛ける恒例のイベントが延期となり、予定変更を余儀なくされたのは、筆者としてもたいへんショッキングな出来事であった。

(※その後、6月25日~28日に開催されることが決定した)

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昨年開催された「台北ゲームショウ」会場の様子(上下2点とも加藤賢治氏提供)
昨年開催された「台北ゲームショウ」会場の様子(上下2点とも加藤賢治氏提供)

そんななか、当初の予定どおり台湾に出掛け、2月5日~11日に滞在して現地の方々と交流を深めていた人物がいる。webニュースサイト「SQOOL.NETゲーム研究室」を運営し、台湾、中国のゲームメーカーやプラットフォーマーとのビジネスも手掛ける、株式会社SQOOL代表取締役の加藤賢治氏だ。

加藤氏によると、新型コロナウイルスの影響によって、海外から日本を訪れるゲーム業界関係者、および日本製ゲームのファンの足がすでに遠のいているという。そこで、加藤氏が台湾や中国の方々から聞いたお話をもとに、日本のゲーム業界は今、海外からどのように見られているのかをまとめてみた。

※筆者注:加藤氏への取材は2月22日(土)に実施した。

SQOOLの加藤賢治氏(※6月に開催延期となった、「台北ゲームショウ」会場の台北南港展覧館にて撮影。加藤氏提供)
SQOOLの加藤賢治氏(※6月に開催延期となった、「台北ゲームショウ」会場の台北南港展覧館にて撮影。加藤氏提供)

「日本が心配でしようがない」海外のファンからも敬遠される現状

加藤氏によると、2月5日の時点では台湾での入国審査はさほど厳しくなかったが、11日以降は非常に厳しくなったそうだ。さらに、台湾のゲーム業界関係者や日本ゲームファンの人たちは、日本でもウイルス対策がきちんと行われているのか、とても心配しているという。

「台湾では、かつてSARS(重症急性呼吸器症候群)で多数の死者が出たことがあったので、ウイルス対策への意識がすごく高いんです。先日、私が出掛けた際には現地の方々から、『日本は大丈夫なのか?』と何度も聞かれましたし、『日本では、まだリモートワークが浸透していないし、相変わらず満員電車が走っているし』と言われたこともありました。

『ダイヤモンド・プリンセス号』の集団感染のニュースは、台湾でもテレビのニュース番組で放送されたので皆さんよく知っているんですよ。ですから、余計に日本のことを心配しているんですね。日本のウイルス対策の状況が海外まで十分に伝わっていないのは、非常に大きな問題だと思います」(加藤氏)

2月7~8日に幕張メッセで開催されたアーケードゲームの展示イベント、「アミューズメントエキスポ」の様子。来場者も出展者も、マスクを着用する人の割合が例年にも増して非常に多かった(筆者撮影)
2月7~8日に幕張メッセで開催されたアーケードゲームの展示イベント、「アミューズメントエキスポ」の様子。来場者も出展者も、マスクを着用する人の割合が例年にも増して非常に多かった(筆者撮影)

さらに加藤氏は、海外に日本のウイルス対策が十分に伝わらない状況が続くと、今後は日本のゲーム業界全体がより深刻な状況になると警鐘を鳴らした。

「私がイベントの中止や延期が続くことよりも心配しているのは、今後もしばらくの間は、海外のゲーム業界関係者やゲームファンが全然来なくなるのではないかということです。海外の日本ゲームファンにとっては、日本はまさに聖地であり、機会があればぜひ行きたいと皆さん思っているんです。でも、日本ではウイルス対策がまだ十分にできていないと思われているので、『やっぱり、今は行くのをやめておきます』と、台湾にいる間によく言われましたね」(加藤氏)

また加藤氏は、知人の北京在住の中国人から、「今、東京は危ないと聞いています。ご参考までに、現在の中国で行われているウイルス対策の事例をお教えしますので、加藤さんも気を付けてくださいね」とWeChatで言われたそうだ。問題のウイルスが発生した、当の中国の方にまで心配されるようになっていたとは、これまたショッキングな話だ。

静まり返った台北南港展覧館。加藤氏は入館時にスタッフに体温をチェックされ、消毒薬を体に散布されたそうだ(加藤氏提供)
静まり返った台北南港展覧館。加藤氏は入館時にスタッフに体温をチェックされ、消毒薬を体に散布されたそうだ(加藤氏提供)

海外向けにもアナウンスの徹底を!

今後も日本国内では、各種eスポーツの大会をはじめ、数万人規模の来場者が見込まれるゲーム関連イベントの開催がいろいろと予定されている。

昨日、日本政府は「新型肺炎対策基本方針」をようやく発表し、「イベント等の開催について、現時点で全国一律の自粛要請を行うものではないが、専門家会議からの見解も踏まえ、地域や企業に対して、イベント等を主催する際には、感染拡大防止の観点から、感染の広がり、会場の状況等を踏まえ、開催の必要性を改めて検討するよう要請する。」との方針を示した。

一切合切のイベント中止要請ではなかったとはいえ、現時点ではまだゲーム業界全体でのイベントに向けたウイルス対策などの発表はない。このままでは各種イベントにおいて、海外からの来客が例年よりも減ってしまうのは致し方ないだろう。

「4月には『ニコニコ超会議』が、5月には『BitSummit』などのイベントが開催予定ですが、『本当にやるんですか?』って台湾の皆さんは思っているんです。私の知人が、ある日本のゲームイベントの主催者にメールで問い合わせたら、『大丈夫です。予定どおり開催します』と返答があったそうです。でも、本当に大丈夫なのでしょうか……。

海外の方々から、このような問い合わせがあること自体が、日本の信頼低下を招く一因につながっていると思います。日本のゲーム業界全体としての取り組み方が怪しまれ、実はイベントの開催自体も危ないのではないかと思われているわけです」(加藤氏)

そして今年の9月には、毎年20万人以上もの人が訪れる「東京ゲームショウ」が開催される予定だ。もし開催までに、WHOなどから新型コロナウイルスの終息宣言が出されなかった場合は、ゲーム業界全体で何か対策を打たなければ、海外からの出展社も一般来場者も、例年より大幅に減るのは必至だ。

開催者側は難しい判断を迫られることになるが、政府の発表をふまえ、速やかにCESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)などの業界団体が中心となり、近々開催が予定されている主だったゲームイベントにおいて、会場でのウイルス対策、入場の際に必要なもの、あるいは周辺地域の状況などを、加盟する各メーカーと協力しつつ、海外に向けてもアナウンスをすべきではないだろうか。

(参考記事:SQOOL.NETゲーム研究室)

・延期された台北ゲームショウ、開催されるはずだった会場に行ってみた 延期された台北ゲームショウ、開催されるはずだった会場に行ってみた

・台北のデジタルコンテンツ産業を支援する「Digi+デジタルコンテンツ産業推進オフィス」、日本企業との連携も積極的に推進

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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