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消費税増税だけではない、問題が山積みのゲームセンター経営

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
ゲームセンターの明日はどっちだ?(画像はイメージ)(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

消費税率が10パーセントにアップした10月1日前後のタイミングで、「ゲームセンターの経営がたいへんになったらしいですね」などと知人からたびたび聞かれたり、メディアでもアーケードゲーム業界が危機的状態にあると報じた記事が散見されるようになった感がある。

筆者の現場経験から推測すると、確かに現状は厳しいと思われる。4月に掲載した拙稿、「ゲーセンの数は5分の1に減少、歴史に残る作品が続々誕生:数字で振返る『平成アーケードゲーム30年史』」でも触れたように、ゲームセンター側は旧来のコインオペレーション方式のままだと料金に消費税を転嫁できないことや、売上に応じた回線接続料をメーカー側に支払うなどの経費がかさみ、以前よりも割が良くないビジネス構造になっていることなどがその理由だ。

はたして、本当に今のゲーセンは危機的な状況なのだろうか? 年中無休で営業を続けている、店舗の現役スタッフにお話を伺った。

客足が遠のいたわけではないが

今回の取材にご協力をいただいたのは、福島県福島市にあるゲームセンター「スーパーノバ福島店」と、岡山県倉敷市にある「ファンタジスタ」の2軒。まず初めに、消費税率がアップした10月以降の売上は前年比で上がったか、それとも下がったのかを単刀直入に伺うと、いずれの店舗でも「昨年と同水準です」という。

増税で客足が遠のいたり、財布の紐が堅くなっていないのは確かに朗報だ。ただ、以前と同水準ということはコインオペレーション、すなわち税込みで1プレイ100円などの料金で運営している機械がある以上、実質的には増税分だけ売上がやや目減りしたことになる。

では、店舗側では新たな増税対策を何か打ったのだろうか?

ファンタジスタの大島店長は、「電子マネーのプレイ料金の値上げを行いました」と答えれば、スーパーノバ福島店の宮下店長も、「集客イベントを増やし、スマホ決済を導入しました」とのことで、やはり電子マネー決済システムを利用した対策を行っていた。1円単位で料金設定が可能な電子マネー決済システムがあれば、増税分を料金に転嫁できるメリットがあるので、これを生かすのは至極当然だろう。

ところが、実は両店とも全台に電子マネー決済システムを完備していない。システムを導入した割合は、ファンタジスタでは店舗全体のゲーム機のうち約15パーセント、スーパーノバ福島店では3分の2程度だという。

福島県福島市にあるゲームセンター「スーパーノバ福島店」(同店スタッフ提供)
福島県福島市にあるゲームセンター「スーパーノバ福島店」(同店スタッフ提供)

なぜ、全台に電子マネー決済システムを導入しないのだろうか? 大島店長は、「手数料と導入費用の面から見て、費用対効果が割に合わないんです。短期的には、増税分を負担するほうがお店側の投資が少なく済むと思います」と、導入コストが負担になることを指摘した。

一方の宮下店長は、「(消費税対策には)有効だが、100円でも遊べる以上は難しい」という。スーパーノバ福島店に限らず、現行のアーケードゲームのほとんどは、電子マネー決済システムを導入した機械であっても今までどおりに100円玉、つまり現金決済も併用する形で稼働している。このため、電子マネー使用時は料金を1プレイ100円を110円に設定できたとしても、客はより安く遊べる100円玉のほうを選んでしまうという難しさがあるわけだ。

実は以前、大手ゲーム会社のタイトーがタイトーステーション神田店において、全台電子マネー決済だけで稼働させ、現金を一切使わないオペレーションを実験的に行っていたことがある。だが、現在に至るまで全台システム完備の店が主流になっていないのは、両店長が示したような理由があるからなのだろう。

ヒット商品もなく、経費・投資の負担も重くのしかかる

現在の人気機種やタイトルも両店長に伺ってみた。

ビデオゲームのオペレーションが中心のファンタジスタでは、「ゲームセンターでしか遊べないタイプのオンラインビデオゲームが好調です」(大島店長)とのことで、具体的には「ボンバーガール」「機動戦士ガンダム エクストリームバーサス2」「艦これアーケード」「三国志大戦」などのタイトルを挙げた。一方、スーパーノバ福島店では、プライズゲーム全般と、大型マスメダル競馬ゲームの「スターホース」シリーズのほか、同じく「機動戦士ガンダム エクストリームバーサス2」と「艦これアーケード」が人気とのことだった。

だが、前述したようにオンライン対応ゲームは、売上に応じた回線接続料をメーカーに支払う必要があるため、客が投入した金額が売上とイコールにはならない。この費用を宮下店長は「高い」と話す。また大島店長は、「接続料は適正だと思いますが、機械や基板更新の価格が高すぎかなと……」と、投資コストの負担が重さを指摘した。減価償却が終わったかと思いきや、すぐに新バージョンが登場して投資がかさむ繰り返しとなり、メーカーは儲かっても店舗側が儲からないという、近年のアーケードゲーム業界における問題点はずっと変わっていないようだ。

さらに大島店長によると、「家庭用でも遊べるタイトルの売上は、ここ数年で急激に落ちています」という。今や家庭用でも、世界中のプレイヤーとオンライン対戦・協力プレイができるのは当たり前の時代であり、同じものをわざわざゲーセンに行ってまで遊ぶ動機が見出せないのがその一因だろう。これは店舗側だけでなく、双方のプラットフォーム展開によるシナジー効果を十分に出せていない、メーカー側にも問題があるかもしれない。

岡山県倉敷市にあるゲームセンター「ファンタジスタ」(写真提供:大島店長)
岡山県倉敷市にあるゲームセンター「ファンタジスタ」(写真提供:大島店長)

消費税の増税を見越して、今年度のゲーム機類への投資額は、前年度に比べて高くなったのか、それとも低く抑えたのかも尋ねてみた。

スーパーノバ福島店では、大型かつ高額な「スターホース4」を導入したこともあり、投資額は前年度よりも増えたそうだ。逆にファンタジスタでは、「必要最低限に抑えました。投資に見合った売上が期待出来るタイトルが出てこないことも問題です」(大島店長)と、節約路線を継続するとともに、タイトル不足にも問題があると指摘した。

それにしても、近年は業界全体でビデオゲームの需要、売上が特に減少し続けているとはいえ、多くのゲームファンの間で話題になるような新作タイトルが、なかなか出てこないのはあまりにも寂しい。

ちなみに、11月にはShow Me Holdingsが開発した、回線接続料が発生しない新ゲーム基板「exA-Arcadia」が発売されているが、筆者が調べた限りでは、東京近郊でも導入した店舗はかなり少ないようだ。なぜこの基板を買わないのか、何人かの店舗スタッフに尋ねてみると、「基板が高額だから」と口をそろえていた。せっかく出た新作に投資をしたくてもできない、苦しさやもどかしさがあることがうかがえる。

客が店に集まる仕組み作りが喫緊の課題

最後に、来年度以降は店舗の売上が上向く見通しがあるかどうも聞いてみた。

宮下店長によれば、「『スターホース4』次第です」とのこと。実際、筆者が見た限りでは、東京近郊で本作を導入した店はどこもにぎわっている印象があり、今後も大いに期待ができると言えそうだ。

大島店長は、来年度以降も「厳しい」と予測する。

「うちのような個人店の場合、実際に消費税増税の影響を強く受けるのは納税のタイミングなので、来春に資金繰りが厳しくなりそうです。ほとんどの場合、新作は稼働開始時が売上のピークですので、新作に投資できない現状では、うちを含めてビデオゲーセンの売上は下降していくと思います。投資の必要がない配信基板に登場するタイトルに期待していますが、ゲームセンターが続々閉店し、プレイ環境がゲームセンターから家庭用へ移行している状況では、売上に結びついてくれるかどうか不安があります」(大島店長)

また、大島店長は「来年からは健康増進法(※)の影響も出てくると思います。ビデオゲーム中心のゲーセンは、よくても現状維持が精一杯で減少傾向、ファミリー向け大型店舗はある程度好調が維持されるのではと予想します」との見解も示した。経営規模が小さく、ビデオゲームの筐体ばかりが並ぶ昔ながらのゲーセンには、来年以降もオリンピック需要とは無縁の厳しい未来が待っているようだ。

(※筆者注:2020年4月から、飲食店や商業施設は原則屋内禁煙となる法律)

間もなく、各店舗では書き入れ時となるクリスマス、正月商戦を迎える。ビデオゲーム系では、「ジョジョの奇妙な冒険 ラストサバイバー」が近々リリースされるが、ほかに目立った新作はない。業界全体では当分の間、これまでと同様にプライズゲームに依存したオペレーションが続くことになりそうだ。

とりわけ、ビデオゲーム中心の店舗では新作に頼れない以上、宮下店長が増税対策として「集客イベントを増やした」ことを挙げたように、今後は店舗ごとに客数を増やすための努力がますます求められる。「店に行けば何か楽しいことがある」とか、「店に行けば誰かと会える、一緒に遊べる」などというように、店舗に日々人が集まる仕組みを作り、一種の地域コミュニティとして機能させることで生き残る道を見出すしか、現状ではほかに手がないだろう。

また、おりしも業界団体の日本アミューズメント産業協会(JAIA)では、業界内での電子マネー決済システムの仕様を統一すべく、「電子マネー決済端末統一に向けた現在の取り組みについて」と題したリリースを出している。これを機に、時代のニーズに合致したシステムの構築、および導入コストの低減を実現させ、ゲームセンター側の高収益化につながる仕組みが出来上がることを願ってやまない。

今後もこの場をお借りして、アーケードゲーム業界の新たな動きや課題、今後の展望などを出来得る限りご紹介していきたい。

ゲームセンター側が挙って飛び付くような、ヒットが見込める新作がなかなか出てこないのも大きな問題だろう(「JAEPO2019」会場にて筆者撮影)
ゲームセンター側が挙って飛び付くような、ヒットが見込める新作がなかなか出てこないのも大きな問題だろう(「JAEPO2019」会場にて筆者撮影)

(取材協力店舗)

・スーパーノバ福島店

http://www.supernova-web.com/fukushima

・ファンタジスタ

https://www.amfantasista.com/

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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