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「18歳成人」「結婚年齢引き上げ」による10代女性へのリスク 妊娠でひとり親、高額な美容医療

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

2022年4月1日から、成人の年齢が20歳から18歳に引き下げられました。明治9年(1876年)、太政官布告に成人年齢が20歳と初めて明記されて以来、146年ぶりに成人の定義が見直されたのです。

日本財団が実施した17〜19歳を対象とした意識調査(文献1)によると、18歳時点で「成人」にふさわしい大人になったと自覚している人は約半数であり、18歳で成人となることを不安に感じている若者も多くいるのではないでしょうか。

ある民間企業による意識調査(文献2)では、18〜19歳男女の成人年齢引き下げに伴う最も関心のあるものは「クレジットカード申請」で約4割を占めていました。

しかし、18歳成人への制度変更は「女性の健康」にも影響を与える可能性があるのです。

結婚と妊娠

これまで、結婚可能年齢は男性が18歳以上、女性が16歳以上と男女差がありました。この男女差は、身体面や精神面の成熟度の違いを重視して決められたと考えられています。しかし現代においては社会的な成熟度に男女差はなく、今回の成人年齢の変更に伴い、女性の結婚年齢が引き上げられました。

18歳未満の女性は結婚が認められなくなる一方、18歳以上20歳未満の男女は、これまで必要であった親の同意がなくても結婚することが可能となりました(注:2022年4月1日に満16歳以上の女性は例外)。

10代女性の結婚については、「若年女性の妊娠」に伴う問題をまず知っておくことが非常に重要でしょう。

厚生労働省の統計(文献3)によると、2019年度の10代女性の第1子出生件数は約6900件ありました。そして、15〜19歳では「結婚期間が妊娠期間より短い出生」(いわゆる、できちゃった婚での出生)の「嫡出第1子出生」に占める割合が8割と、他の年齢層と比べて明らかに高かったのです(文献4)。つまり、10代女性は妊娠をきっかけに結婚をする割合が高いと考えられます。

しかしながら、今後18歳未満の女性が妊娠・出産に至っても、18歳になるまでは法律上結婚が認められず、ひとり親として子どもを養育せざるを得ません。未成年の女性が予期せぬ妊娠により大変な生活となってしまう可能性を減らすためにも、若い年代への幅広い性教育や緊急避妊薬へのアクセス向上をおこなっていく必要があると考えられます。

なお、10代の妊娠・出産についてはこちらの記事もご参照ください。

ティーネイジャーの女性にも産婦人科の知識や受診が大切な21の理由(後編)

性同一性障害の性別変更

性同一性障害とは、身体の性別と本人が自覚する性別が一致せず苦しい思いを抱えている状態のことです。2004年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が施行され、日本でも20歳以上の成人では法律上の性別変更が可能となりました。戸籍上の性別を変更した人は年々増加し、2019年度には過去最多の948人に上りました。今回の成人年齢引き下げに伴い、18〜19歳の人も性別変更の申し立てをおこなうことが可能となり、門戸が広がったと言えます。

しかし、この法律では、戸籍上の性別を変更するためには性別適合手術を受けていることが必要条件であり、大きな障壁となっています。

性同一性障害の身体的治療には、ホルモン療法と性別適合手術(性転換手術)があります。諸外国でおこなわれている思春期初期からのホルモン療法により、将来の社会適合度が高くなり生活の質が上がるという知見をもとに、「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第4版)」(文献5)では、これまで18歳とされていたホルモン療法開始可能年齢が条件付きで15歳に引き下げられました(2012年)。性別適合手術に関しても、2018年から保険適用となりましたが、1年間で保険適用となったケースはわずか4件でした(文献6)。これは、性別適合手術を保険適用外であるホルモン療法と併用すると、混合診療とみなされ、手術費用も全額自己負担となってしまうためだと考えられます。性別適合手術は自費で70〜200万円程度かかり、実際には認定施設でない国内の医療機関や安価な海外で手術を受ける人が多いとのことです。

成人年齢引き下げにより、より若い人たちに性別変更の権利が与えられた一方、性別適合手術が必須である現行の法律の下では、経済的に未熟な10代の若者が保護者の支援なしに手術を受けるのはあまり現実的ではありません。性別変更の必須条件の緩和についても、さらなる議論が求められています。

美容医療

新成人となった18〜19歳が巻き込まれやすい消費者トラブルは、医療機関でも遭遇する可能性があります。近年の10代女性にとって美容医療は身近なものになりつつあり、SNS等から様々な情報や広告にさらされやすいです。保護者の同意なしに高額な治療を契約してしまっても、「未成年者取消権」が行使できないことを政府や消費者庁などが啓発しています。最近では明確に10代をターゲットにした美容広告も見受けられます。

神奈川県の消費生活センターに寄せられた「エステティックサービス」「美容医療」に関する相談件数は、19歳と比べて20歳で約2.5倍でした(文献7)。国民生活センターの報告(文献8)によると、20代の美容医療サービスに関する相談件数は10代の10倍以上に上り、契約購入金額の平均も約42万円から約66万円と高額化する傾向がありました。保護者の同意なしで契約することのできる新成人を狙った美容医療にまつわる消費者トラブルが増加すると予想されます。

違法な誇大広告がある可能性を念頭に置く、その場で契約や施術をしない、事前にリスクや副作用を確認する、などの対応を知っておくことが大切です。

また、消費者トラブルに巻き込まれた場合は、早めに消費者ホットラインなどの相談窓口に相談しましょう。消費者庁のウェブサイトにも美容医療を受けるにあたっての注意事項や相談窓口が掲載されています。

自分の健康を大切に、新成人として新しい人生の一歩を

今回は、成人年齢の引き下げによる女性の健康への影響について解説しました。

18〜19歳の若者に様々な権利が与えられることのメリットは多くある一方で、成人としての社会的責任が課され、健康を害するリスクにさらされやすくなる可能性もあります。ぜひ自分の健康を大切に、新成人として新しい人生のステップを楽しく歩んでください。

専門知識が必要なことはやはり専門家に聞いたり相談したりするのがベターです。月経の辛さやピルなどの相談や、ジェンダーとしての悩みなど、自身の健康について気軽に相談できるかかりつけの産婦人科医も持ってもらえたら嬉しいです。18〜19歳で産婦人科を受診することは、何も恥ずかしいことではないですからね。

文献:

1. 日本財団 2022年3月24日 18歳意識調査「第45回 18歳成人・18歳の価値観」要約版.

2. 株式会社エイチームライフデザイン「ナビナビ」 2022年3月2日 成人年齢引き下げによるクレジットカード利用への意識調査.

3. 厚生労働省 令和元年(2019)人口動態統計(確定数)の概況.

4. 厚生労働省 令和3年度 出生に関する統計の概況.

5. 精神経誌(2012)114巻11号1250-1266頁 「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第4版)」.

6. 日本経済新聞 2019年6月24日.

7. 神奈川県 18歳・19歳が狙われる消費者トラブルに注意!

8. 独立行政法人国民生活センター 令和3年5月13日 報道発表資料.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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