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女性の薄毛、脱毛…更年期の悩み、適切なケアや治療法は?

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:イメージマート)

閉経による毛髪への影響

閉経は、通常45〜55歳の間に起こり、卵巣内の卵子の減少によるエストロゲン(女性ホルモン)分泌の低下と関連しています。

閉経による心臓や血管、骨密度への影響はこれまで多くの知見が蓄積されてきましたが、髪への影響はあまり知られてはいません。

今回は、2022年に報告された研究論文(文献1)をもとに、更年期〜閉経時期に、ホルモンの変化が及ぼす毛髪への影響についてわかっていることを解説します。

更年期と毛髪:ホルモンの変化による影響

更年期とは、閉経をはさんだ前後5年間の約10年間を指します。この約10年間に女性ホルモンの分泌量が著しく変化するため、身体的・精神的にさまざまな症状が現れます。その中で、多くの女性が気にすることの一つが「毛髪」の状態ではないでしょうか。
更年期に入ると卵巣の機能が低下し、エストロゲンやプロゲステロンなどのホルモン分泌が減少します。これにより、毛髪の健康状態や成長サイクルに影響が及ぶことが知られています。

エストロゲンは皮膚や毛髪の健康に重要な役割を果たしており、更年期以前は卵巣が主にエストロゲンを合成しますが、更年期になるとその分泌量が減少します。エストロゲンの減少は毛髪の成長サイクルに影響を与え、髪のボリュームや質感に変化が現れることがあります。

一方、アンドロゲンと呼ばれる男性ホルモンも毛髪に影響を与えます。更年期においてもアンドロゲンの分泌量はあまり変化しないため、その相対的な増加(女性ホルモンに比べて男性ホルモンの量が多めになる)が、脱毛や多毛症の原因になることがあります。
このように、更年期のホルモン変化は毛髪に多岐にわたる影響を与えることがわかってきているのです。

女性の脱毛症:更年期の症状と治療法

更年期に多くの女性が気になる毛髪の変化が、脱毛です。女性の脱毛症にはさまざまなタイプがありますが、更年期に入るとその発症頻度が高まることが知られています。

女性に生じる脱毛症は、広く「女性型脱毛症(FPHL:Female Pattern Hair Loss)」と呼ばれ、更年期に生じる脱毛もこれに含まれます。FPHLのなかには女性男性型脱毛症や円形脱毛症、分娩後脱毛症なども含まれ、原因はさまざまです。

女性型脱毛症について、日本皮膚科学会のウェブサイトも参考になります。

更年期以降によくみられるFPHLは、主に前頭部や頭頂部の髪の毛が薄くなり、頭皮が透けて見える状態を引き起こします。更年期におけるエストロゲンやプロゲステロンなどのバランス変化がFPHLの発症に関与している可能性が示唆されていますが、そのメカニズムはまだ完全には解明されていません。

FPHLに対する治療法として使われる薬があります。例えば、スピロノラクトン(男性ホルモンを抑制する作用)、ミノキシジル(頭皮の細胞を活性化し発毛を促す)などが一般的に使用されます。ただし、確実に効果を期待できるわけではありません。他に、低出力の光・レーザー照射も選択肢となります。

女性型脱毛症への治療について、日本皮膚科学会のウェブサイトも参考になります。

また、女性の脱毛症に対するホルモン補充療法の効果が研究されています。ホルモン補充療法は更年期障害の治療に用いられており、女性ホルモンが補充されることで脱毛症の症状を軽減できる可能性があります。ただ、脱毛症への有効性はまだはっきり検証されておらず、副作用の可能性もありますので、かかりつけ医と相談して検討することが必要です。(文献2)

また、アイロンやカラーリングなどは髪や毛根へのダメージ源となります。年齢とともに髪はダメージを受けやすくなり、アイロンやカラーリングなどで毛髪が細くなってきてしまうこともあります。

普段のヘアケアや生活習慣について、日本皮膚科学会では以下のようなことを推奨しています。(文献3)

  • 髪に負担のかかるような髪型や極端に頻回のカラーリングを減らす
  • 自分にあったシャンプーやコンディショナーを使用する
  • 頭皮が乾燥しすぎたり油っぽくなったりしない頻度での洗髪を心がける
  • バランスのとれた食生活を心がける(髪毛の新陳代謝には各種のビタミン、ミネラルが関係するため)
  • 適度に休息し、規則正しい生活を送る
  • 脱毛症の原因となるような他の病気を見逃すことがないよう全身の健康にも気を配る

多毛症:男性ホルモンの影響と対処法

更年期には、脱毛だけでなく、顔の産毛が濃くなる多毛症と呼ばれる症状が現れることがあります。顔に生じる多毛症は、更年期の女性の約半数が悩んでいるというデータもあります。原因には、男性ホルモンであるテストステロンの相対的増加が関連しているのではないかと考えられています。

なお、多毛症の急激な発症、または症状が重度の場合、アンドロゲン産生腫瘍(男性ホルモンを分泌するタイプの腫瘍)が隠れていないかどうかの検査が必要となります。超音波検査やCT、MRI検査などの画像検査や、血液検査が実施されます。

多毛症にも、スピロノラクトンなどの抗アンドロゲン薬は有効な場合があります。また、局所的なレーザー脱毛などの美容医療処置も選択肢となります。腫瘍性病変など隠れた別の原因がなければ、こうした対処法が検討されます。

一方で、多毛症は精神面に悪影響を及ぼすことも少なくありません。よって、人によっては多毛症への治療とともに、カウンセリングを受けながら精神的負荷を軽減することも大切です。

瘢痕性脱毛症(はんこんせいだつもうしょう):原因と治療法

瘢痕性脱毛症(FFA:Frontal fibrosing alopecia)は、更年期の女性に生じることが多い脱毛症の一種です。前頭部や側頭部の毛髪が徐々に失われ、かつ皮膚に瘢痕(傷あと)が形成されるという特徴があります。
FFAは比較的新しい疾患であり、1994年に初めて報告されました。その原因はまだ完全には解明されていませんが、日焼け止めなどの環境因子がきっかけとなる可能性が示唆されています。

更年期とFFAの関連性はいくつかの研究で指摘されており、抗アンドロゲン薬の使用がFFAの治療に有効であることから、男性ホルモンが発症に関与していると考えられています。他の治療法としては、局所的なステロイドの使用などがありますが、効果は個人によって異なり、なかなか有効な治療法が見つかっていません。

更年期におけるホルモン変化による毛髪への影響

更年期は、女性の体内でさまざまなホルモンのバランスが大きく変化し、これが毛髪にも影響を及ぼすことを説明してきました。
最後にホルモンによる毛髪への影響を整理し、おさらいしましょう。

エストロゲンは主な女性ホルモンであり、毛髪の成長サイクルに影響を与えます。更年期以前はエストロゲンが体内に豊富にあり、健康的な毛髪の成長を促しています。しかし、更年期に入ると、卵巣の機能が低下し、エストロゲンの分泌量が減少します。これにより、毛髪の成長が遅くなり、薄毛や脱毛の症状が現れることがあります。

一方、アンドロゲンは男性ホルモンとして知られていますが、女性の体内でも少量が産生されています。更年期になってもアンドロゲンの分泌量はあまり低下せず、体内のエストロゲンとのバランスが変化することで、毛髪に影響を与えることがあります。特に、多毛症や脱毛症に関連します。

更年期障害に対する治療法であるホルモン補充療法は、女性ホルモンを補充する治療なので、脱毛症など毛髪のトラブルの改善効果があるのではないかと考えられており、研究が重ねられていますが、まだその有効性は確立されていません。(文献2)

今後の研究結果により、有効な治療法が見つかることが望まれます。

さいごに

更年期以降における毛髪の悩みは、多くの女性にとって切実な問題となりますが、多くの場合には適切なケアと治療法で改善することが期待できます。

医学の進歩や研究結果の蓄積により、毛髪のトラブルに対する理解が向上し、治療法が徐々に見つかってきています。更年期は人生における自然な過程の一つであるため、これ自体に抗うことはできません。ただ、それに伴う毛髪のトラブルにはある程度の対処が可能です。

前向きに考え、自分自身を大切にし、適切なケアと治療を行うことで、更年期以降に生じる毛髪の悩みをなくしていきましょう。

参考文献
1. Kamp E, et al. Clin Exp Dermatol. 2022;47(12):2110-2116.
2. Mirmirani P. 2013;74(2):119-122.
3. 日本皮膚科学会. 皮膚科Q&A. Q18抜け毛を防ぐ生活上の注意点はあるでしょうか?

【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサーが企画・執筆し、編集部のサポートを受けて公開されたものです。文責はオーサーにあります】

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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