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はしか(麻疹)の流行で気をつけてほしい、妊娠・出産にまつわること

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

はしか(麻疹)の流行が懸念

今月(2024年3月)に入り、東京都が2日連続で、はしか(麻疹)感染者が確認されたと発表しました。東京都の発表によれば、2名ともに海外から帰国したのちに発熱や頭痛などの症状が出て、診断がついたということでした。

世界的に流行している「はしか(麻疹)」が、国内でも今後広がっていく可能性が懸念されます。

まず、はしか(麻疹)について以下が重要な点となります。

【はしか(麻疹)の特徴】

・接触感染や飛沫感染だけでなく、空気感染もする(感染が広がりやすい)
・潜伏期間が10〜12日程度と長く、感染初期に気づきにくい
・肺炎や中耳炎を合併しやすく、中には重症化して脳炎など重篤な合併症を引き起こしたり死亡したりする可能性がある

国立感染症研究所の情報ページでは、罹患した後に平均7年の期間を経て発症する「亜急性硬化性全脳炎(SSPE)」(10万人に1人程度)などの重篤な合併症が存在することや、先進国であっても麻疹にかかると約1,000人に1人の割合で死亡する可能性があること、などが書かれています。(文献1)

1963年に麻疹に対するワクチンが認可される前は、米国では毎年約300~400万人が麻疹に感染したと推定され、そのうち48,000人が入院し、500人が死亡しました。(文献2)
麻疹の恐ろしさがわかります。

しかし、はしか(麻疹)の怖い点は上記だけではありません。

妊娠中の感染で流産や早産のリスクが上昇

妊娠中に感染すると、母体死亡率や産科合併症(流産、早産、死産など)のリスクが上がることがわかっています。

妊婦自身への影響

これまでの研究では、妊娠中は麻疹の罹患率および死亡率が上昇することが示されています。

1988年から1991年の期間にロサンゼルスで発生したアウトブレイクで、麻疹を発症した妊婦58人を非妊婦748人と比較すると、妊婦は入院しやすく、肺炎を発症しやすく、死亡しやすかったことがわかっています。また、1993年にサウジアラビアで行われた別の研究では、麻疹に感染した妊婦は非妊婦よりも入院しやすかったと報告されています。(文献2)

やや古いデータではありますが、妊娠中の感染には注意が必要だと考えるべきでしょう。

胎児への影響

厚生労働省のページには、「妊娠しているのですが麻しんの流行が心配です。どうしたらよいでしょうか?」というQ&Aが掲載されており、そこには「妊娠中に麻しんにかかると流産や早産を起こす可能性があります。」と書かれています。(文献3)

サウジアラビアの研究では、麻疹に感染した女性から生まれた新生児は、麻疹のない女性から生まれた新生児よりも早産率が高く、新生児集中治療室(NICU)に入院する可能性が高く、集中治療室での滞在時間も長かったことが報告されています。(文献2)

他の研究でも、麻疹に罹患した妊婦では、罹患しなかった妊婦よりも、自然流産、子宮内胎児死亡、低体重出生児の割合が高かったと報告されています。(文献2)

はしか(麻疹)の予防方法

上記のような合併症を避けるためにも、感染予防がとても重要となります。

まず、過去に麻疹にかかったことが確実である(検査で麻疹の感染が確認された)場合には、免疫を持っていると考えられることから、予防接種を受ける必要はありません。

ワクチン接種

予防に最も効果的なのはワクチン接種です。2回のワクチン接種により、麻疹の発症のリスクを最小限に抑えることが期待できます。ワクチン接種後2週間後から麻疹の抗体が血液中に出現し、予防効果を発揮します。(文献1)

ワクチンの1回接種で約93%の効果が得られ、2回の接種で約97%の効果が得られます。(文献4)

妊娠前であれば未接種・未罹患の場合、ワクチン接種を受けることが可能ですので、感染流行の可能性がある状況では積極的に接種を検討すべきでしょう。なお、原則として接種後2ヶ月程度の避妊が必要とされています。(文献3)

ただし、既に妊娠している方はワクチン接種を受けることが出来ません(生ワクチンという種類のため)。よって、流行時にはなるべく外出を避け、人込みに近づかないようにするなどの注意が必要です。もし発熱や発疹などが出てきたら、かかりつけの産婦人科にまず電話で相談しましょう。

手洗いやマスク

麻疹は空気感染するため、手洗いやマスクでは基本的に予防ができません。(文献1)

パートナーや同居家族も感染予防をしっかりと

妊活中の方や妊婦のパートナー、そして同居家族の方も、感染予防することが大切です。

平成12年4月2日以降に生まれた方は、定期接種として2回の麻疹含有ワクチンを受ける機会がありましたが、それ以前に生まれた方は、定期接種として1回だけワクチン接種の機会があった、もしくは定期接種の機会がなかった方となります。(文献3)

そのため、過去に麻疹にかかったことがなく、2回の予防接種を受ける機会がなかった方で、特に麻疹に感染することで周囲への影響が大きい場合には、ワクチン接種について近医やかかりつけ医にぜひご相談ください。

今回は、流行拡大の懸念があるはしか(麻疹)について、産婦人科医の視点から妊娠・出産にまつわるポイントを解説しました。

最大の予防策であるワクチンを接種できない妊婦さんは、きっと大きな不安を抱いてしまうことと思います。ご家族だけでなく、社会全体で妊婦さんたちを守っていくという意識を、皆さんに持っていただけたら幸いです。

参考文献
1. 国立感染症研究所. 麻疹とは.
2. Rasmussen SA, et al. Obstet Gynecol. 2015;126(1):163-170.
3. 厚生労働省. 麻しんについて.
4. CDC. Measles (Rubeola). For Healthcare Providers.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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