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妊娠中・授乳中もつらい花粉症 安全に使える薬はある?産婦人科医が解説

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:イメージマート)

花粉症のピークが近づきつつありますね。妊娠中や授乳中の多くの女性も、花粉症に悩んでいることでしょう。

ただ、妊娠中や授乳中の場合には、薬の使用は慎重に検討しなければなりません。不安や疑問を抱える妊産婦さんにとっては、医学的に正確な情報が大切です。

本記事では、産婦人科医の視点から妊娠中や授乳中に花粉症の薬が安全に使用できるかどうかについて、具体的な薬の種類も含めて解説します。

妊娠中の薬:基本的な考え方

妊娠中に薬を服用すると、胎児にも臍の緒を通じて薬の成分が影響してしまう可能性があります。ただ、実際には妊娠時期によって影響は異なります。中でも妊娠初期(〜妊娠15週頃)は胎児の体が細胞レベルで作られている時期ですので、さまざまな薬剤の影響を最も受けやすいことがわかっています。

また、妊娠初期のうちでも細かく分けると時期によって影響は異なります。ここでは「妊娠4週未満」、「妊娠4〜7週」、「妊娠8〜15週」に区分して、その違いをお伝えします。

妊娠4週未満

この時期は、薬の影響の結果、「流産となるか、全く問題ないか」のどちらかになります。つまり、薬の影響が大きく及ぶと流産となってしまいますが、そうならなければ、胎児のその後の発育に影響が残ることはない、ということですね。

妊娠4〜7週

胎児の体の基礎が作られる時期で「器官形成期」と呼ばれます。体の異常のおこりやすさに関して最も敏感な時期であり、薬剤の影響には特に注意すべき時期です。

妊娠8〜15週

胎児の重要な体(器官)の形成はほぼ終わっている時期なので、薬剤の影響で体の異常が起こる可能性はだいぶ低くなってきています。ただ、もちろん「薬の影響を心配しなくても良い」というわけではありません。

なお、妊娠中期(妊娠16~27週)や後期(妊娠28週〜)でも薬剤の影響で胎児の体に異常が生じることはあるので、誤解しないようにしましょう。

授乳中の薬:基本的な考え方

ほぼ全ての薬剤は、服用したり塗ったりすることでその成分が血液中に吸収され、母乳中にも成分が移行します。ただ、その移行する量は非常に少ないことがわかっています。そして、一部の危険性の高い薬(一部の抗不整脈薬や医療用麻薬など)でなければ赤ちゃんに悪影響をもたらす可能性はとても低いということを理解しておくことが重要なポイントです。

また、「薬を使う」こととは逆の「薬をやめる」ことにも注意は必要です。なぜなら、何らかの持病等により薬剤を継続的に飲んでいる場合には、勝手に服薬をやめることでお母さん自身の健康に大きな悪影響が生じる危険があるためです。

それぞれの薬剤とお母さんの状況を総合的に考慮し、薬剤を継続するかどうか、母乳をあげても良いかどうか、などを主治医とともに決めることが大切です。

花粉症の薬は妊娠中や授乳中に使えるの?

それでは、花粉症の薬について考えていきましょう。
まず、花粉症の薬は一般的に「抗アレルギー薬」と呼ばれる種類の薬で、多くの場合は「抗ヒスタミン薬」に分類されます。ただ、他にも「ステロイド」「ロイコトリエン受容体拮抗薬」などの薬もあります。

妊娠中

鼻水や鼻詰まり、くしゃみなどの鼻炎症状に関しては、抗ヒスタミン薬を使用することが妊娠中でも可能です。市販薬でも処方薬でも入手できます。

基本的に、内服薬よりも点眼薬や点鼻薬の方が血液中に吸収される成分は少ないので、点眼薬や点鼻薬だけで症状が落ち着くのであれば内服薬は使わないに越したことはありません。

具体的には、以下のような抗ヒスタミン薬は産婦人科でもよく処方されます。処方された薬と同じ成分のものを市販薬で購入したい場合には、薬局で処方薬の情報を伝えて探してもらうと安心でしょう。

【妊娠中でも安全性の高い抗ヒスタミン薬】
・ロラタジン(薬剤名の例:クラリチン、ロラタジン錠)
・セチリジン(薬剤名の例:ジルテック、セチリジン塩酸塩錠)
・レボセチリジン(薬剤名の例:ザイザル、レボセチリジン塩酸塩錠)

一方で、以下の薬には注意点もあるので自己判断で安易に使うことは避けましょう。まず、かかりつけ医に相談することをお勧めします。

【妊娠中に勝手に使用するべきではない薬】
・ステロイド点鼻薬
・ロイコトリエン受容体拮抗薬(薬剤名の例:オノン、シングレア)

なお、抗ヒスタミン薬は使うと眠気が出ることがあるため、運転や転倒には注意しましょう。

授乳中

抗ヒスタミン薬の点眼薬や点鼻薬は、成分が母乳へ移行する量は非常に少なく、授乳中でも安全に使用できると考えられています。

花粉症の症状や皮膚のかゆみが強い場合は以下のような内服薬も有効で、こちらも授乳中に安全に使用できると考えられています。

【授乳中でも安全性の高い抗ヒスタミン薬】
・抗ヒスタミン薬(薬剤名の例:アレグラ、トラベルミン、クラリチン、ベナなど)

ただし、抗ヒスタミン薬はお母さんの眠気や赤ちゃんの鎮静を引き起こす恐れがあるため、お母さん自身も注意が必要ですし、特に生後1ヶ月以内や早産児の時期は医師に相談して使うようにしましょう

薬に関して、成育医療研究センターのウェブサイト(授乳中に安全に使用できると考えられる薬)もご参照ください。

薬以外にできる対策もしっかりと

薬を使わずに可能な基本的な花粉症対策を徹底することも大切です。以下のような対策をしっかりしておくことで、症状を抑えやすくなるでしょう。

・外出時にマスクやメガネなどを装着する
・ツルツルした素材の上着を着る(花粉が服につきにくくなる)
・帰宅したら服などについた花粉を家に入る前にしっかり払い落とす
・帰宅後に手洗い・うがいをしっかりする

いかがだったでしょうか。

妊娠中や授乳中だと花粉症対策に不安を感じるかもしれませんが、使用できる薬もあります。ぜひ、かかりつけ医や薬剤師に相談しながら、乗り切っていきましょう。

【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサーが企画・執筆し、編集部のサポートを受けて公開されたものです。文責はオーサーにあります】

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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