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ティーネイジャーの女性にも産婦人科の知識や受診が大切な21の理由(後編)

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

10代のうちから産婦人科へ気軽に相談してみましょう

産婦人科というと、なんとなく恥ずかしい、診察されるのに抵抗を感じる、妊娠もしていないのに受診する必要はない、というイメージを持っている女性も少なくないかもしれません。

特に10代(ティーネイジャー)の女性にとっては、さらに心理的抵抗が大きい存在だと思います。

ところが、実は10代の女性にとっても産婦人科の受診や相談はとてもメリットが大きいのです。

米国産婦人科学会の推奨をベースとして、その理由を21個に分けて説明します。(文献1)

今回は後編として、後半の9個を解説します。

なお、前編の記事はこちらからご覧ください。

性と対人関係を学ぶため(No.13〜17)

皆さん一人ひとりが抱く性の価値観や性的行為、また他者との健全な関係性について学ぶことは非常に大切です。

No.13 健全な恋愛関係を築く方法を学ぶ

No.14 合意の上での関係とは何かを理解する

No.15 レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィア(LGBTQ)について知る

No.16 安全なセックスとは何かを学ぶ

No.17 生殖器の仕組みについて学ぶ

No.13 健全な恋愛関係を築く方法を学ぶ

恋愛関係とは、これまでの家族や友人との関係とは異なるもので、誰もが知識・経験不足からのスタートです。

しかし、思春期になると急速に恋愛について関心が高まり、自分自身の気持ちや感情、相手の気持ちや言葉に大きな影響を受けて当然ですし、振り回されてしまうこともあるでしょう。

そのような中で、恋愛関係にも「健全なもの」と「不健全なもの」があることをきちんと知っておく必要があります。

米国産婦人科学会では、【健全な関係性に必要な5つの要素】として「尊敬しあえる」「良いコミュニケーションを保つ」「誠実である」「相互に自立している」「平等な関係である」の5つを挙げています。

詳しくは以前に書いた以下の記事をご覧ください。

人との関係性や性教育について学ぶ機会が乏しい日本、知っておいてほしいこと

No.14 合意の上での関係とは何かを理解する

友人や家族でも、何かをお願いするときや希望を伝える際には、自分の意見と相手の了承を確認することが必要です。

恋愛関係でもこれは当然同じなのですが、特に性行為(ハグやキスなども含む)に及ぶ際にこの双方の同意が軽視されてしまうことがあります。

性的同意という言葉が最近注目されていますが、好きな人との関係性において非常に重要なものです。

自分自身と相手を大切にするために、「合意の上での関係」を10代のうちから理解しておきましょう。

また、これは性被害から身を守るためにも役立ちます。

No.15 レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィア(LGBTQ)について知る

ジェンダーを学ぶ/知る上で、LGBTQについてもきちんとした情報が提供されるべきでしょう。

LGBTQとは、Lesbian(レズビアン:女性同性愛者)、Gay(ゲイ:男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル:両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー:性自認が身体的性別とは異なる人)、Queer(クィア:流動的な性自認を表す)の頭文字をとった言葉です。

なお、米国では女性100人のうち6人がバイセクシュアル、2人がレズビアンに該当すると言われています。また、多くの人が自分は100%ゲイでもストレートでもバイセクシャルでもないと感じており、上記のどれにも当てはまらない人もいますが、それも全く問題ありません。また、性的な魅力を他人から感じないという人もいます。(文献2)

人はみなグラデーションを伴った感性や好みを持っていて当然なことを偏りなく理解するためには、社会的な固定概念にさらされる前にきちんとした知識・情報を知っておくことが大切でしょう。

No.16 安全なセックスとは何かを学ぶ

10代からセックスを経験する女性もだんだん増えてきます。

「寝た子を起こすような性の話をするべきではない」という考えは全く現代にそぐわず、早期からの性教育によってむしろ性的安全性が高まることは研究でも検証済みですので、いつ訪れるか自分にも保護者にもわからない「初めてのセックス」の前にしっかりと知識を持ってもらうことが非常に重要です。

安全なセックスには、

・避妊(妊娠を希望していない全ての人)

・性感染症予防

・心理面(信頼と安心)

・痛みへの配慮

などが求められます。

若者どうしのセックスが初めから完璧なことはもちろんありませんが、自分と相手の心身や人生に大きく影響しうるトラブルを避けるために、十分な準備をしておくことに越したことはありません。

No.17 生殖器の仕組みについて学ぶ

いわゆる狭い意味での性教育として「生殖器の名称や機能、必要性などを知る」ことももちろん重要です。

産婦人科であれば女性の身体的構造や機能について詳しくお話しすることができます。月経痛や月経不順、ピルの相談で受診された際に、ぜひ外陰部や腟、子宮や卵巣などについて学ぶきっかけにしていただければ嬉しく思います。

やはり、正確な知識を持って自身の体をイメージすることができれば、身体に関わるさまざまな情報を理解しやすいですし、異常の早期発見にも役立つものと思います。

妊娠について学ぶため (No.18〜21)

女性にとって避妊・妊娠・出産を理解しておくことは、個々人の希望にかかわらずとても大切です。

No.18 避妊方法について学ぶ

No.19 家族を作るのに理想的な時期(年齢)を知る

No.20 妊娠の検査を受ける

No.21 妊娠した場合の選択肢を検討できる

No.18 避妊方法について学ぶ

ほとんどの10代の女性にとって、避妊は不可欠なものになります。

さまざまな調査や研究によって、意図しない妊娠や10代での妊娠は、人工妊娠中絶や妊娠・出産のトラブルを起こしやすいことがわかっていますし、学業や仕事の機会を得られないことによる長期的な影響も非常に大きなものとなってしまいます。

好きな人とセックスをしたい、というのはごく自然な感情ですし、それ自体が悪いわけではありません。また、愛情と「避妊をすること」は別問題(避妊をする=愛情が足りない、な訳がありません!)ですので、「お互いに好きだからこそ、しっかりと避妊をして楽しい関係性を続けよう」と考えてほしいです。

最近では避妊に関する正しい情報を得られるウェブ記事やSNSのコンテンツも増えてきていますが、もし月経のことやピルのことなどで産婦人科へ相談する機会があれば、ぜひ避妊についても疑問点を聞いてみましょう。

なお、コンドームは安価でとても使いやすい避妊手段の一つですが、きちんとした使い方を徹底しないと効果(避妊成功率)が落ちてしまうので要注意です。

コンドームについてはぜひこちらもご参照ください。

日本性感染症学会. コンドームの常識.

確実な避妊法については日本産科婦人科学会監修のこちらの記事も参考になります。

Human+. 確実な避妊法を教えて!

No.19 家族を作るのに理想的な時期(年齢)を知る

「将来は子どもを産んで、楽しい家族を作りたいな」と思っている方もいるでしょう。しかし、好きな人と妊娠を目的にセックスすれば、いつでもすぐに子どもを授かることはできるのでしょうか?

実は、そうでもないのです。

一番大事なのは女性の年齢で、年齢が20代後半、30代前半、30代後半と進むごとに妊娠率は落ちていってしまいます。40歳まではいつでも妊娠できるだろう、と考えるのは危険です。

現在の日本では、不妊で悩んでいる夫婦は全体の10~15%いると考えられており、「いつでも妊娠できるだろう」と考えておくのはリスクがあります。

また、不妊症の他にも、年齢が35〜40歳を超えると妊娠中や出産時のトラブル(合併症)が起きやすくなることもわかっています。例えば、妊娠中の高血圧や糖尿病、帝王切開となってしまう、また赤ちゃんの生まれつきの病気の可能性などです。

こういった観点からも、自身の価値観や希望を考慮したライフプランを早めに考えていくことが大切なのです。

*なお、男性の年齢も影響しますが、女性の年齢の方がより早く、より大きな影響を与えることがわかっています。

No.20 妊娠の検査を受ける

妊娠したかも、と気づく最初のサインを知っていますか?

それは、「月経が遅れている」ことです。

通常、妊娠すると月経が止まるため、性的活動のある女性が「月経予定日から1週間経ってもはっきりした月経が来ない」ときは妊娠していないか検査することが必要になります。

妊娠検査キットを薬局等で購入できますので、まずは自身で検査してみることが大切です。ただし、検査をするタイミングが早すぎる(月経予定日ちょうど、など)と妊娠を見逃してしまう可能性があるため、タイミングに注意しましょう。

検査で陽性(=妊娠している)と出た場合や、どうしても不安な場合は、ぜひ産婦人科を受診し相談してみましょう。

No.21 妊娠した場合の選択肢を検討できる

10代で妊娠した場合、その多くは「意図していなかった妊娠」だと考えられます。妊娠初期のうちに気づいた場合は、妊娠を継続して出産するか、人工妊娠中絶をして妊娠を終了させるかの選択肢がまず存在します。

また、もし出産を決意した場合も、自分で育てるのか、学校や仕事はどうするか、など考えなければならないことがたくさんあります。

もちろん、妊娠した際の相手(男性パートナー)の存在も重要です。

こうした選択肢は、できれば妊娠初期に検討しておくべきです。

妊娠22週以降は中絶処置を受けられないことをきちんと知っておく必要がありますし、出産をするにしても様々な準備をしておかなければなりません。

いずれにせよ、自分自身にとって最も良い選択肢を選べるよう、1人で抱え込まずに、ご家族や医師に相談することをお勧めします。

なお、思いがけない妊娠に困ってしまった場合には、一般社団法人全国妊娠SOSネットワークが提供する「にんしんSOS相談窓口」などの相談窓口の利用を検討してみて下さいね。

前編と後編で、ティーネイジャーの女性にも産婦人科の知識や受診が大切な21の理由を解説しました。

すぐに受診することが難しくても、まずはこの記事で「産婦人科の知識や受診が大切な理由」を知っていただければ嬉しいです。

参考文献

1. ACOG. 21 Reasons to See a Gynecologist Before You Turn 21.

2. ACOG. Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender, and Queer (LGBTQ) Teens.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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