Yahoo!ニュース

なぜテイラー・スウィフトはここまでの巨大な人気を獲得したのか。来日公演を観て考えた。

柴那典音楽ジャーナリスト
テイラー・スウィフト「THE ERAS TOUR」来日公演特設サイトより

2月7日から10日の4日間、東京ドームにて開催されたテイラー・スウィフトの来日公演を観た。

直前の4日(日本時間5日)に行われた第66回グラミー賞授賞式にて、アーティストとしては史上初となる4回目の最優秀アルバム賞を受賞したばかりというタイミングでの公演だ。全45曲、3時間20分という比較的長い時間のライブだったが、そのパフォーマンスと演出はひと時たりとも観るものを飽きさせないものだった。

今回の来日公演は昨年3月にスタートし世界38都市で151公演を行うワールドツアー「THE ERAS TOUR」の一環として行われたものだ。キャリア最大規模のツアーはすでに10億ドルを超える興行収益を記録し「史上最も収益の高い音楽ツアー」としてギネス記録にも認定されている。

時代(ERA)という言葉を冠したタイトルが示すように、ツアーのテーマはグラミー賞を受賞した最新作『ミッドナイツ』だけでなく、彼女が辿ったすべてのキャリアと作品をそれぞれの時代ごとに総括して表現するということにある。

とは言っても、よくあるオールタイムヒッツのようなライブではない。これまでに発表してきた10枚のアルバムのうちのファースト・アルバムを除く9枚に収録された楽曲を、アルバムごとに衣装やステージセットや演出を変えながら披露していくという構成だ。

豪華なセットと練り込まれた演出にも目を見張った。ステージはアリーナの中央まで長く張り出し、その背後には巨大なビジョンがそびえ立つ。自在にアップダウンする可動式のステージには床面までLEDが仕込まれ、ライティングや観客が身につけたリストバンド型のライトと連動して、会場全体に統一したムードが生まれる。

扇のような巨大な布をまとったダンサーたちに導かれて登場したオープニングからカラフルでロマンティックな演出を貫いた『ラヴァー』のパートや、ステージに巨大な山小屋のようなセットが登場した『フォークロア』のパートなど、アルバムそれぞれの世界観にあわせてステージ演出も大きく変わる。テイラー自身もそのたびに衣装を着替えてステージに登場するのだが、転換にかかる時間も1〜2分程度がほとんどで、間延びするような瞬間は一切ない。テイラー自身はもちろん、ダンサーも、バンドも、そしてカメラや映像などのスタッフも含めて、全員が秒単位でパフォーマンスのタイミングをコントロールしているはずだ。もちろん歌の魅力が何より大きいのだが、それだけでなく「エンターテインメントの最高峰」を体感できるようなステージだった。

■勤勉さとタフネスの結実

なぜテイラー・スウィフトはここまでの巨大な人気を獲得したのか。音楽シーンのみならず「スウィフトノミクス」とも言われる経済効果を生み出し、政治や社会の領域にまで影響を与える存在となったのか。

筆者はその理由を、彼女が持つずば抜けた勤勉さとタフネスの結実と見る。それが話題を独占するスター性に結びついてきた。

テイラー・スウィフトはカントリーミュージックの聖地・テネシー州ナッシュビルのクラブで演奏しているところをスカウトされ2006年に16歳でデビューした。デビューアルバム『テイラー・スウィフト』から『フィアレス』、『スピーク・ナウ』という最初の3枚はカントリー路線の作品だ。

2012年の4thアルバム『レッド』や続く『1989』はカントリーを離れポップ・ミュージックの領域に進出した意欲作。「We Are Never Ever Getting Back Together」や「Shake It Off」など数々のヒット曲がこの時期に生まれている。

その後にカニエ・ウェスト(現在はYeと名乗る)との確執や騒動を受けての活動休止期間もあったが、これまでとガラリと作風を変えトラップやR&Bのビートも取り入れた攻撃的な作風の6thアルバム『レピュテーション』(2017年)でカムバック。続く2019年の7thアルバム『ラヴァー』はポップ回帰の方向性ながらLGBTQの権利向上など社会的なメッセージも込めた作品となった。

2020年のパンデミック期間は予定されていたワールドツアーが全てキャンセルとなったが、その間にも創作活動を続け、『フォークロア』と『エヴァーモア』という、フォークやアメリカーナの方向性にも通じる2枚のアルバムをリリース。さらに2022年には10thアルバムの『ミッドナイツ』をリリース。過去作の再録盤のリリースにも意欲的に取り組み、ここ数年は寡作になりがちなトップアーティストとしては異例なほどのペースで作品を発表し続けている。

『フォークロア』と『エヴァーモア』のプロデュースをつとめたアーロン・デスナーはテイラー・スウィフトのことを「今まで会った人の中で最も勤勉な努力家」と評している。

彼女のタフネスも相当のものだ。

これだけの規模のショーを連日行うツアーだけで身体的な負荷は相当なはずだが、東京での4日連続の公演を終えるとアメリカにとんぼ返りし、11日(現地時間)に行われたスーパーボウルを観戦。恋人のトラビス・ケルシーが所属するカンザスシティ・チーフスの勝利を祝福した。16日(現地時間)からはオーストラリアのメルボルンとシドニーで公演が行われる。

さらに、4月19日には約1年半ぶりとなる新作アルバム『ザ・トーチャード・ポエッツ・デパートメント』をリリース予定だ。

これまでもテイラーは大胆に方向性を変えた意欲作を短いスパンの中でたびたび発表し評価を集めてきた。数々のセレブリティとの交際も話題を集め、憧れの存在となってきた。

その結実としてのスター性をまざまざと感じた。

音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

柴那典の最近の記事