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「コロナ禍は推しの活動を起点に生活する人が増えた」――超学生が語る、ネットカルチャー×音楽の今と未来

柴那典音楽ジャーナリスト
超学生(提供:ポニーキャニオン)

ネット発のアーティストが活躍を広げ、音楽活動のあり方も多様化する現在。それを体現している一人が、2001年生まれのボーカリスト、超学生だ。小学生の頃に「歌ってみた」動画の投稿を始め、現在も「歌い手」として週1本のペースでコンスタントに新作動画を公開。YouTubeの公式チャンネルの登録者数は69万人を超え、総動画再生数は3億回を超える。“超絶ガナリヴォイス”と称される歌声と、レコーディングやミックスなどのエンジニアリングも自ら手掛けるDIYな制作スタイルが特徴だ。

2月15日にメジャー1stアルバム『超』をリリースした超学生に、そのユニークな来歴と発想について話を聞いた。

「趣味だから続いてきた」

――そもそも、小学生の時に最初に「歌ってみた」動画を投稿した時のモチベーションはどういうものがあったんでしょうか?

いまだにそうなんですけれど、自分の声がひとつの完成した音源になるという感覚が楽しかったんだと思います。当時はクオリティも全く高いものじゃなかったんですけれど。

――そこからずっと続けてきた理由は?

飽きなかっただけだと思います。本当に飽き性なんですけど、「歌ってみた」のレコーディングとかミックスは楽しくて。ちょうどフィットした趣味だったということだけですね。

――最初から自分でレコーディングして自分でミックスするという投稿スタイルを続けてきたんですね。

基本的にはそうですね。中学生くらいになると別の方に音作りをお願いしたり、プロの方にミックスをお願いしたりしていたんですけれど、ここ2、3年くらいの「歌ってみた」は全部自分でミックスしています。逆にオリジナル曲は「けものになりたい!」のボーカルのミキシングだけやらせてもらったんですけど、それ以外は全部エンジニアさんにお願いしました。

――超学生さんは、現在はメジャーレーベルに所属しているわけで、スタッフもいる今の環境なら、全てをプロのエンジニアの方にお願いするという選択肢をとることもできるんです。それでも自分でミックスした「歌ってみた」を投稿し続けている。

そうですね。ありがたいことにたくさんお仕事いただいてるんで、月1回2回くらいのペースの投稿になったりもするんですけど、基本、毎週の動画は自分でミックスしています。

――なぜそういうスタイルでの活動を続けているんでしょう?

趣味だからですね。やりたいんですよ。録音と同じくらい、もしかしたら最近はそれ以上にミックスが好きなんです。機材をいじるのも好きだし、自分で音を作るのも好きだし。当然自分でミックスするほうが時間はかかるんですけれど、他の方にお願いしたものをチェックして判断するのが大変で。だったら自分でやったほうが楽しいんですよね。

――ミックスが楽しい?

そうですね。というか、じゃないと無理だと思います。たぶん、ゲームをするとか、車やバイクをいじるとか、そういう趣味と同じ感じなんですよ。いろんな方に「毎週投稿して、ミックスも自分でやってすごいね」って言われるんですけど、自分としては皆さんが趣味で何かされていたりするのと同じ感覚です。

――毎週投稿するというのはどういう理由で?

一応、木曜日に投稿するというのを決めているんですけれど、でも、これも趣味なんですよ。僕の「歌ってみた」動画って収益化されてないからお金にならないんです。他の動画も収益化をオフにしてるから、動画単体ではお金にならない。逆に「お金のために」ってなったらつらくなっちゃいます。動画ごとにどれだけ再生回数が伸びたかとか収益率とかが見れるんで。それを見て「前回よりウケなかったな」と思いながらやるのはイヤじゃないですか。今はそういうのは関係ないし、全部趣味だから、基本的に僕は再生回数とかあんまり見てないんです。それよりも自分のやりたいことがちゃんとできたかどうかを優先しています。

「プッシュ通知が習慣になる」

――超学生としての活動を振り返って、ターニングポイントになったのは?

「ダーリン」とか「ホワイトハッピー」という曲をあげた時ですね。基本的にいろいろやってウケなかったことはどんどんやらなくなっていく気質なんですけど、すごくウケたんです。沢山見てもらえるようになっただけじゃなく、コメントで「ここの歌い方が好き」とか「今回のミックスがすごく好き」という反応もいただけるようになった。そこから、これはやったほうがいいな、ウケると勉強になるところが増えるんだと思って、あのスタイルでいまだにやらせてもらっている感じです。反応が増えることが目標というよりは、いただける評価が増える、評論の視点が増えることが、今の僕にとってかなりありがたい感じですね。

《【超学生】ダーリン @歌ってみた(2019年3月23日投稿)》

《【超学生】ホワイトハッピー @歌ってみた(2020年1月23日投稿)》

――コロナ禍に突入した2020年の頃って、世の中のムードもガラッと変わりましたよね。ライブができなくなってエンタメ全般がストップした一方で、ネットを拠点に活動していた方はそれまでと変わらずに活動していた印象があります。そのあたりを振り返って、どんな記憶がありますか。反響が増えた実感はありましたか?

ありました。僕はまさにコロナ禍に観ていただけるようになった世代なんで。あの時期は、推しの活動を中心に生活を回す人が増えた期間だと思います。僕は毎週木曜日の19時に投稿していたんですけれど、それまでは「学校や塾が終わったら観ようかな」とか「会社帰りに観ようかな」という感じだった人が、推しの投稿を起点に生活してくれるようになった。「今日、超学生が投稿してるってことは木曜なんだな」みたいな感じになった。微妙な、伝わりづらい変化なんですけど、より僕に体重を預けてくれている方が増えた期間だと思います。僕自身も、芸人のジャルジャルさんが毎日18時に動画を上げていたので、それをいつも観ていました。

――学校が休みになったり、リモートワークが導入されたり、みなさんが自宅で過ごすことが増えた時期が追い風になった。

みなさん、YouTubeの通知をちゃんと活用されているみたいで。投稿が上がったらプッシュ通知がスマホに行くので、そこから習慣になる方が多かったらしいです。日曜日の夜は毎週サザエさんをやってる、みたいな感じで。コロナ禍は特にそういう方が増えた印象です。

――超学生さんにとって、自分のYouTubeチャンネルはどういう場所と言えますか?

自分が持っているテレビ局みたいなものだと思います。たとえば僕が地上波のテレビに出させてもらうとしたら、その枠はテレビ局が持っていて、企画構成は別の方が考えて、カメラマンさんがいて、照明さんがいる。でもYouTubeチャンネルは自分で全部できるので。

――自分専用の音楽番組を毎週発信できる、みたいな?

そうですね。特に「歌ってみた」が中心のチャンネルなんで、そこがいいんじゃないかと思います。少なくともYouTubeの規約にさえ則っていれば、スポンサーがいるわけでもないし、別に何してもOKという。それを習慣的に観にきてくれる方はテレビの視聴者と同じだと考えています。

「インターネット界隈以外の方と関わる機会が増えた」

――昨年10月に超学生さんはポニーキャニオンからメジャーデビューしました。これまで語っていただいたように、YouTubeを拠点に活動を続けてきた超学生さんのようなクリエイターやミュージシャンはメジャーレーベルに所属せずとも音楽活動を展開していくことができるわけですよね。そのうえで、メジャーデビューして具体的に変わったことには、どんなことがありました?

まさにこういうインタビュー取材を受けたりとか、ラジオに出させていただいたりする機会が増えました。『仮面ライダーBLACK SUN』の主題歌を担当したりもしましたし。インターネット界隈以外の方と関わる機会が増えたというのは、レーベルに入ってから変わったことだなって思います。

《【超学生】Did you see the sunrise? (『仮面ライダーBLACK SUN』主題歌)》

――2月15日にはメジャー1stアルバム『超』がリリースされました。出来上がっての感触は?

僕のずっとやりたかった活動の根幹でもあるんですけど、なるべく「超学生=〇〇」みたいなイメージを取っ払えるように、何でも歌うということを「歌ってみた」でやってきたんです。それをオリジナル曲でもやることができた。1曲1曲聴いていただいた方には分かると思うんですけど、かなり毛色が違う曲が集まっていて。「ルーム No.4」と「サイコ」は同じ作家さんでストーリーも繋がっているんですけれど、他は本当に1曲ずつやりたいことが全く違う。そういうアルバムを作ることができて、光栄だなと思っています。

――最初に発表したオリジナル曲は「ルーム No.4」でしたが、「歌ってみた」ではなくオリジナル曲を歌うということにあたって、まずやりたかったことは?

とにかく、まずは「歌ってみた」で、僕が一番やりたかったボカロPさんが、すりぃさん、syudouさん、柊キライさんの3人だったので。まずこの3人に曲をお願いしたいという。ボカロPさんありきだったかもしれないですね。特に「ルーム No.4」に関しては、すりぃさんの作るエレクトロスウィングというジャンルが大好きで、そういう曲を作っていただきたいというのが一つと、すりぃさんと一緒にストーリーを作りたいというのもありました。「ルーム No.4」が好評いただいて、「サイコ」という続編が出せることになったので、すごく良かったなと思っています。

《【超学生】ルーム No.4》

《【超学生】サイコ》

――ただ、発表してきたオリジナル曲の作曲陣はボカロPばかりではないですよね。いわゆるプロの作家が書き下ろした楽曲も多い。そういうアイディアは?

すりぃさん、syudouさん、柊キライさんとやって、しっかりウケてたんで、普通に考えたら「歌ってみた」で好評だった方にお願いして「ボカロP×超学生」という形でやっていくほうが安定感があるというか。普通に考えたらそっちになると思うんですけど、せっかくレーベルの力も借りられるし、個人の歌い手だったらなかなかお願いするのが難しかった方にもお願いできる環境なんで、せっかくそういうチャンスがあるんだったらやりたいことを全部やりたいということで、ボカロPではない方にもお願いしたという流れです。

――たとえば「Untouchable」や「Give it to me」のような曲は、EDMやK-POP、シティポップにも近い曲調ですよね。そこに関しても今おっしゃったようないろんなタイプの曲を歌いたいというチャレンジなんでしょうか。

そうですね、まさにその通りです。K-POPも大好きなのでそういうのをやりたいとか、洋楽っぽいものもやりたいとか、そういう相談を1曲ずつして実現していただいたという形です。同時に「歌ってみた」では自分でミキシングをしているので、その勉強にもなるんです。こういう曲を歌うとなると作家さんが作ったデモトラックをバラバラにして聴くことができるんです。それはミックスもする側としてはだいぶ貴重な経験で。実際にすごく勉強になったので、良かったなと思いました。

《【超学生】Untouchable》

――最後に聞かせてください。超学生としての長期的な目標やビジョン、こんな風に活動を続けていきたいという理想像はどんなものがありますか?

どんどん自分で作れるものが増えていくといいなと思います。いろんな人とやるのも好きなんですけど、できることの能力として、レコーディングとミキシングができて、最近は映像もちょっとずつできるようになってきて。こういう感じで作詞作曲とか編曲とか、どんどん自分でできることが増えていったらいいなと思います。そうしたら、コラボするにしても、いろんなことが誘いやすくなるなと思うんですよ。そういう風に、どんどんできることを増やしていきたいと思います。

音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

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