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根本的な少子化対策としては、デジタル化(DX)等による「労働生産性の上昇」が必要である

柴田悠京都大学大学院人間・環境学研究科 教授
(写真:アフロ)

少子化対策としては、即効性の期待できる策として「児童手当の拡充」「保育定員の拡充」「高等教育の学費軽減」が期待できるが、根本的には、デジタル化(DX)・働き方柔軟化・労働移動等による「労働生産性の上昇」を通じた「賃金の上昇」と、その結果としての「(生活水準の低下を伴わない)労働時間の減少」が必要だ。

内閣府の有識者懇談会で公開した筆者の分析によれば、一人当たりGDP(生活水準)が減らない形で平均労働時間が「年間400時間」(週平均約8時間)減ると、出生率は「0.75」上昇すると見込まれる(この試算の最新版はこのPDFの「7」を参照)。

ここから計算すると、出生率を例えば「0.1」高めるには、一人当たりGDPを減らさずに平均労働時間を「年間54時間」(週平均約1時間)減らす必要がある。

日本政府の将来予測によれば、2100年の日本社会が持続可能であるためには、2040年頃までに出生率が「人口置換水準2.06」にまで到達する必要があるという。

以前の記事で提案した少子化対策案によって、出生率「1.83」が実現するとしても、さらに出生率が2040年までに「2.06」に到達するには、出生率がさらに「0.23」上がる必要がある。ただし、2040年までの17年間で、(価値観の多様化や核家族化の進行などによって)出生率は「0.21」下がると予想される(このPDFの「6」の表1の※2を参照)。それを考慮すると、(0.23+0.21=)「0.44」の上昇が必要となる。そのためには、一人当たりGDP(生活水準)を減らさずに平均労働時間を「年間235時間」(週平均約5時間)減らす必要がある。そのためにも、DX等による「労働生産性の上昇」を通じた「賃金の上昇」が必要なのだ。

もちろん、この「労働生産性の上昇」は、「児童手当の拡充」や「保育定員の拡充」のように、政策によって短期的に実現できるものではない。それでも、DX推進政策は最大限実施していくべきであり、中長期的には、それが「労働生産性の上昇」「賃金の上昇」を通じて、「労働時間の減少」につながり、出生率の上昇につながると期待できるだろう。

京都大学大学院人間・環境学研究科 教授

1978年、東京都生まれ。京都大学総合人間学部卒業、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。専門は社会学、幸福研究、社会保障論、社会変動論。同志社大学准教授、立命館大学准教授、京都大学准教授を経て、2023年度より現職。著書に『子育て支援と経済成長』(朝日新書、2017年)、『子育て支援が日本を救う――政策効果の統計分析』(勁草書房、2016年、社会政策学会学会賞受賞)、分担執筆書に『Labor Markets, Gender and Social Stratification in East Asia』(Brill、2015年)など。

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