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「異次元の少子化対策」の提案と効果試算――希望出生率1.75の実現方法

柴田悠京都大学大学院人間・環境学研究科 教授
(写真:アフロ)

エビデンスに基づく効果試算

日本での少子化対策の効果については、「現金給付の効果」の因果推論(田中・河野 2009)、「保育定員拡大の効果」の因果推論(Fukai 2017)がある。いずれも査読論文である。

そこで、それらで示された推定結果と近年の政府統計を用いて、「児童手当上乗せの効果」(時間割引率を年5%と仮定)と「保育定員拡大の効果」を試算した。

また、「高等教育の学費軽減の効果」を試算するために、筆者の既発表資料に示された推定結果を用いた。この推定は、先述の2つの研究のような「日本国内データによる因果推論」ではなく、「OECD諸国の国際比較時系列データによるパネルデータ分析」(しかも未査読)であるため、エビデンスとしては極めて弱いが、参考までに用いて試算した。

(なおこの分析は、主に、高等教育の学費がかなり安価になっている欧州諸国のデータ変動が反映される分析であるため、この分析結果から試算した高等教育学費軽減の費用対効果は、日本で高等教育学費軽減を実施する場合よりも、小さめに見積もられていると考えられる。)

目安:希望出生率1.75の実現

少子化対策のめざす目安としては、「少子化対策により育児の負担が減って結婚や出産のハードルが下がることで、出産したい人の希望が叶う」ことをめざし、最新の希望出生率「1.75」の実現を目安とした。

試算結果と予算規模

結果は以下の通りである(数字は概算)。

  • ① 児童手当の全員上乗せ(「手当をもらえない人がいる」という意味での狭義の所得制限はは無くなる):「月額3万円上乗せ」(ただし所得上位50%の世帯には所得に反比例して「月額3~1万円上乗せ」)をする(追加年間予算4.3兆円)→出生率0.31上昇。
  • ② 保育の「質向上」:民間の保育士・幼稚園教諭の賃金を全産業平均にし、保育士の配置基準を先進国平均にする(追加年間予算1.7兆円)。
  • ③ 保育の「定員拡大」0〜2歳児保育利用の就労要件を撤廃した上で、1~2歳児保育の定員を人口比100%にする(追加年間予算0.4兆円)→出生率0.13上昇。
  • ④ 高等教育の学費軽減:大学・短大・専門学校の全学生に一律で年間61万円(国立大学学費相当)の学費を免除する(追加年間予算1.8兆円)→出生率0.09上昇。

結論

以上①〜④の対策(追加年間予算は計8.2兆円)により、出生率(2021年1.30)は計「0.53」上昇して「1.83」に到達し、「最新の希望出生率1.75」が実現すると見込まれる(また政府が目標としている「希望出生率1.8」も実現することになる)。

政府の「異次元の少子化対策」の検討において、少しでも参考になれば幸いである。

付記

以上の試算の方法などの詳細は、このPDFを参照されたい。

京都大学大学院人間・環境学研究科 教授

1978年、東京都生まれ。京都大学総合人間学部卒業、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。専門は社会学、幸福研究、社会保障論、社会変動論。同志社大学准教授、立命館大学准教授、京都大学准教授を経て、2023年度より現職。著書に『子育て支援と経済成長』(朝日新書、2017年)、『子育て支援が日本を救う――政策効果の統計分析』(勁草書房、2016年、社会政策学会学会賞受賞)、分担執筆書に『Labor Markets, Gender and Social Stratification in East Asia』(Brill、2015年)など。

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