昨日、今日あたりから、子どもたちは夏休みという地域も多いのではないでしょうか。夏休みの期間は、教育委員会(たとえば、A市立小学校の場合は、A市)の規則などで通常決めるので、地域や学校によってもマチマチです。休校が長引いた昨年度は2週間程度と短くした例も多かったなか、今年は例年通り7月下旬から8月いっぱいまでなどとする地域も多いようです。

 さて、子どもの夏休みって30日超(40日前後)も必要なんでしょうか?

 きょうはこの疑問について考えてみます。

■賛否分かれる、夏休みの必要性、長さ(福祉の論理と教育の論理)

 今年の夏休みは35~40日前後のところが多いようです。

(参照)

https://jpnculture.net/natsuyasumi/

https://hugkum.sho.jp/145993

 昨年度は新型コロナの影響で4月~5月あるいは6月と休校になったこともあって、約95%の自治体で夏休みをカットしました(20年6月23日時点の文科省調査、予定を尋ねたもの)。なかには、1週間~10日にカットしたところもありました。今年は、休校が一部の学校にとどまったので、夏休みの大幅カットの動きは聞こえてきません。

 夏休みはやっぱり30日超あったほうがよいのでしょうか。保育園は夏休みはありませんよね?小学校や中学校、高校などで夏休みは必要なのでしょうか。

 次の図は、いくつか視点、論点をリストアップしてみたものです。

図 夏休みをめぐる賛否、論点

出所)妹尾昌俊『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』をもとに一部加筆修正
出所)妹尾昌俊『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』をもとに一部加筆修正

 タテには、「福祉の論理」と「教育の論理」と書きました。両者は重なる部分もありますが、ひとまず、アタマの整理として、子どもや保護者の福祉を重視する視点と、教育上のことや学習に焦点をあてる視点とに分けて考えましょう。

 まず、夏休みは短くていい(もしくは、なくてもいい)派について考察すると、家庭任せでは、子どもの健康・福祉が危ういという理由があります。

 給食のない夏休み中には痩せてしまう子がいます。村山伸子教授(新潟県立大学)らが2017年に発表した研究によると、「学校給食のない日は、世帯収入によって食品群や栄養素の摂取量に明らかな差がみられた」そうです(朝日新聞2019年7月26日)。

 保育園(保育所)の場合は、給食もあって、夏休みはないところが多いのではないでしょうか。小学校では学童保育があるとはいえ、毎日お弁当をもたせて、腐りやすい時期に、保護者もたいへんですよね。学童に行かない場合は、おうちで看ておける人が必要です。保護者の負担から言っても、学校の夏休みは短くていい、なくてもいい、と考える人もいるでしょう。

 ほかにも図に書いたように、子どもの福祉、安全の観点から、長い夏休みはマイナス影響が大きいのでないか、と考えることもできます。

写真:アフロ

 一方で、これには反論、疑問もあります。

 図の右側、夏休みは一定の長さがあったほうがよい派について見ると、学校は保育所など福祉施設ではないのだから、家庭任せではしんどい子がいると言っても、そのための負担を学校が丸抱えする必要があるのか、という疑問が出てきます。

 また、夏休みがある理由として、最も深刻に捉えるべきかもしれない理由は、登下校中や授業中の熱中症のリスクを避けることです。2018年7月17日には、豊田市で小学1年生が熱中症で亡くなる痛ましい事故がありましたが、このとき公園に校外学習に出かけたのが10時ごろでした。昨年も今年も、コロナ禍でマスクを着用していることが多いですし、各地で熱中症リスクを抱えたままの登下校となっています。

■学校で勉強を進めたい派 VS 学校の勉強だけじゃない派

 次に、教育の論理で見ていきましょう。

 昨年度、夏休み短縮の動きが多かった最大の理由が、「休校中の遅れを取り戻す」というものでした。加えて、休校がそれほど長引かなかった地域でも、学力向上策として、夏休みは短くして授業日を増やそうという動きがありました。今年は去年とは状況がちがっていますが、学力向上をめざして、補習をする小学校、中学校などもあります。その場合、実質的な夏休みは40日などよりも、少し短めとなります。

 教育の論理はこれで一定の理解ができる話ではありますが、疑問もあります。図の右側にも書きましたが、猛暑のなか授業をしても、子どもたちは大丈夫だろうか、学習効果は高いのだろうか、ということがひとつです。

 クーラーが付いた学校も増えてきましたから、ずいぶんこの心配は減っているかもしれません。ですが、コロナ対策で換気も必要ですし、夏休みを楽しみにしている子も多いなか、7月、8月に授業や補習をしても、学習へのモチベーションは下がっているかもしれません。

 夏休みを短縮して本当に学力上プラスになるのか。これはデータをとって検証していかないと、水掛け論になりかねません。日本とは状況は異なりますが、次のような研究も参考になりそうです。

 アメリカでのサマーバケーション(引用者注:約3カ月間)における学びの損失を扱った研究群のレビューが示すことは、サマーバケーションの間に子どもたちは、就学年の1カ月分に相当するものを損失し、その損失は読解力(リーディング・リテラシー)よりも数学で大きく、また、学年が上がるにつれて増大する。この損失はまた、低収入家庭の子どもたちほどより大きくなる。

OECD「2020年新型コロナウイルス感染症パンデミックへの教育における対策をガイドするフレームワーク(仮訳)」

 日本でも、家庭環境が厳しい子ほど、もともと学校の勉強を苦手とする割合は高い傾向にあることは分かっていますし、夏休み中、保護者が子どもの勉強をケアする余裕がないケースもあります。

 一方、夏休みの意義、意味を考えるうえで大事なことがあります。それは、なにも子どもの学びというのは、学校にいるときだけではない、という視点です。

 ある程度の休みがあって、ヒマな時間もあったほうが、体験活動をしたり、自分の好きなことにじっくり取り組んだりできる余地は広がります。たとえば、感染が収まれば、旅に出かけて、日常とはちがった体験をするのもいいでしょう。自由研究の宿題で、夏休みが終わる間際にやらされ感でやっても楽しくありませんが、子どもが好きなことに打ち込める、本当の意味での自由研究ができれば、それはすばらしい時間になりますよね。

写真素材:photo AC
写真素材:photo AC

 ただし、ここでも注意が必要です。図の左下にも書きましたが、豊かな体験などができるのは、家庭の状況にもよるところもあります。結果的には、教育格差が広がってしまうかもしれません。

■先生にとって、夏休みがある意味は大きい

 さらに、夏休みは教職員にとっても研修や研鑽の大切な時間です。たまに誤解されている方もいますが、子どもの夏休み=先生たちも休み、ではありません。

 夏休みを削って授業等を詰め込むと、先生たちの授業準備や研修に時間が取れず、結果的には授業の質や子どもへのケアが低下する事態を招きかねません。ただし、もちろん、研修等の質も問われないといけません。

 加えて、教員採用上も、夏休みを大幅にカットすることはマイナスに働きかねない可能性があります。ただでさえ、日本の先生たちは日常的にとても忙しいことが知られています。OECDの調査を見ても、日本の小中学校の教師の労働時間の長さは世界一。そんななか、多少じっくり教材研究や研修に取り組める夏休みを減らそうとするのは、人材獲得上もマイナスでしょう。

■結局、どっち?

 今回あげた論点以外もありますし、夏休みを1か月超とることについては、さまざまなメリット、デメリットがあり、賛否あります。

 では、どっちがよいのか。夏休みはやっぱり必要なのか、あるいは必要ではないのでしょうか。

 そこはもっと、各地で学校(教職員)、保護者、教育行政等がもっと議論していく必要があると思います。わたしが気になっているのは、昨年度あれほど夏休みを大幅カットしておいて、その功罪の検証や反省、総括はないまま、今年はまた例年通りに復活させている教育委員会が少なくないのではないか、という点です。

 次の検討は欠かせないと、わたしは考えます。

 ひとつは、福祉の論理からも、教育の論理からも、家庭任せではしんどい子たちを40日近く放っておいていいのか、という点が問われます。

 だからといって、必ずしも学校、教職員が丸抱えする必要はありませんが、たとえば、給食センター、給食調理室は開業を続けて食事が必要な子たちに届ける仕組みをつくったり(学校や福祉センターに取りに来てもらうなど)、各地の子ども食堂やフードバンクなどと給食センター等がもっと連携しやすくしたりすることは、重要ではないでしょうか。

 学習については、大学(大学生)や場合によっては学習塾などと連携して、低所得者層には公的な支援をしつつ、自宅でない場所で、学習できる場を設けることなども考えていくべきではないでしょうか。キャパにもよりますが、時間帯を決めて、もっと公立図書館で自習支援などができてもいいかもしれません。

 教職員は授業や補習を担うよりは、2学期以降の準備や研鑽に力を割いたほうがよいと、わたしは考えます。教科書をただただ教える、なぞるような授業が求められている時代ではありません。先生たちが知的な時間を過ごさなくて、あるいは探究しなくて、どうして子どもたちの好奇心が高まるような授業、学びができるでしょうか?

 夏休みのあり方をめぐっては、このように、学校や保護者だけでの問題ではなく、社会としても、学校任せ、あるいは家庭任せばかりにせず、どうしていくかが問われていると思います。

※この原稿は、拙著『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』をもとに、一部加筆して作成しました。

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