学校の先生になるには、通常は教員免許が必要です。その免許をとるには、幼稚園や小中学校では3~4週間、高校では2週間程度の教育実習が必要となっていますが、文部科学省は、おととい(8/11)、今年度に限った特例として、大学の模擬授業などで代替してもよいことを決めました。

 きょうはこのニュースに関連した解説をしますが、新人教師の養成と育成には、もともと重要な問題が山積みであることをお話しします。

■実習なしで現場に出て大丈夫?

新型コロナウイルスの影響で、学校側が学生の受け入れが難しいとして、(引用者注:教育実習が)実施できないケースが出ています。

このため文部科学省は、今年度に限った特例措置として、大学での模擬授業などの実習や、各教科の指導方法や生徒指導などの講義で代替できるようにすることを決めました。

出典:NHKニュース2020年8月11日

 あくまでも特例措置であり、教育実習ができる場合はやってもらうというものです。文科省は、教育職員免許法施行規則等の改正をして、この特例を認めることにしました。「文科省によると、教員免許法が施行された1949年以降、教育実習なしでの免許取得に道を開く制度改正は初めて」とのこと(朝日新聞2020年8月11日)。

 教育実習では、受け入れる側の負担は相当なものです。実習生の指導案(授業計画)や授業にアドバイスやフィードバックをしたり、相談にのったり。受け入れ校の教員にとっては、自分の授業準備や事務作業などは後回しになりがちで、ただでさえ、忙しい学校としては、実習の必要性を感じてはいても、負荷は相当重いと言えます。その上、コロナ対応で先生たちのやることは増える一方です(消毒、清掃、検温など※)。

※参考:妹尾昌俊「学校で過度な消毒、清掃は不要、文科省がマニュアルを改訂【#コロナとどう暮らす】」

 今回の特例は、そうした受け入れ側に配慮した措置であり、評価できる部分もあると思います。

 しかしながら、「実習もなく、いきなり学校現場に出て、大丈夫か?」という心配の声も、現役の先生や保護者たちからは聞かれます。学生さんにとっても不安は高まることでしょう。

 上記の朝日新聞も「今回の措置により、教員の質の低下も懸念される」と言及しています。萩生田文部科学大臣は、記者会見で「将来を担う『教員の卵』の質が低下したというそしりを受けないよう、教育現場と連携していきたい」(同NHKニュース)と述べています。

 「新人の先生の質が心配」などと言うのは簡単ですが、この問題、表面的な部分だけを捉えても、不十分だと思います。もう少し深層には深刻な問題があるからです。以下では、3点に絞ってお伝えします。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

■問題1 大学等での教員養成の質は高いのか?

 まず考えたいのは、大学等での教員養成の状況です。たとえ教育実習がなくなったとしても、ほかの授業や講座などで教師としての力量が高まっているなら、それほど心配する必要はない、と考えられるからです。

 大学等にもよると思いますし、学生さん自身にもよるとは思いますから、一概にどうこう言える問題ではありません。その断り付きですが、いくつか心配なデータがあります。

 ひとつは、愛知教育大学等が2015年に現役の教員に調査したデータです。全国の小学校教員1,482人、中学校教員1,753人、高校教員2,138人が回答(管理職は対象外)した、かなり規模の大きな調査です。

 大学での授業が役立ったと感じている割合は、次のとおりです(「とても役に立っている」、「まあ役に立っている」の合計)。

愛知教育大学・北海道教育大学・東京学芸大学・大阪教育大学(2016)『教員の仕事と意識に関する調査』
愛知教育大学・北海道教育大学・東京学芸大学・大阪教育大学(2016)『教員の仕事と意識に関する調査』

 実習・演習をのぞいて、大学の授業が役だったという感触は、4~7割。これをどう解釈するかは、コップに水が半分ほどあるとき、「半分しかない」と考えるのか、「まだ半分もある」と捉えるのかに似ているかもしれません。とはいえ、すごく役立っているわけではない、とは言えそうです(※)。

(※)参考記事:妹尾昌俊「学力に不安があっても教師になれる時代に!?【先生の質は低下しているのか?(2)】」

 もうひとつは、小学校の校長に対して、若い教員を見て、大学卒業時に必要な能力が身についていると思うか、2009年にアンケートしたものがあります(諏訪英広ほか(2011)「小学校教員の資質能力の形成と養成カリキュラムに関する研究―小学校長の意識調査を中心に―」、有効回収数465)。

 

 「身についている」「少し身についている」「どちらともいえない」「あまり身についていない」「身についていない」の5択で、順に5から1で点数化したものですが、学習指導力の平均は3.01、学級経営力は3.02、子ども理解力は3.20などで、高い評価とは言えない結果でした。

 校長から見れば、若い教員の力量に不安があるということです。期待が高いから低い評価となっている、と解釈できる余地もありますが。

 また、そうした教師に必要な力を形成する場として、教育実習・体験を挙げる校長の意見が多数ある一方で、大学での授業(講義・演習)を挙げる意見は少数でした。

 コロナに始まった問題ではありませんが、大学等での教員養成で反省点はないのかどうかを、よく検証していく必要があると思います。

■問題2 配属後の育成は機能しているのか?

 次に、実習ができないまま、あるいは中途半端な期間だけ体験して、教員になったとしても、配属後、成長できていれば問題はそう深刻ではない、と考えられますよね。ところが、教育実習の受け入れも困難と言っているほど、学校現場は多忙で疲弊しつつあるのですから、採用後の育成がしっかり機能している、と考えることは難しい状況です。

「授業で勝負できる人材を育成できていない。」

 少し前に、国の審議会の場で、全国の小中学校の副校長・教頭を代表するかた(全国公立学校教頭会)がこう訴えました(中央教育審議会・学校における働き方改革特別部会2018年5月18日)。

 どういうことかと言えば、それは「本来、教頭は職場の人材育成に時間を割きたいが、事務作業やトラブル対応などが膨大でそこに時間を割けていない。若手も増えて、育成が必要な人はたくさんいるのに。」というのが大筋の意味です。その結果、授業や学級づくりなどの力量形成が学校では十分にできていない、という趣旨だと思います。

 わたしが教員向けに、勤務校の様子についてアンケート調査をしたところ(※)、「授業の力量や指導力に不安がある人もいるが、研修や職場のサポートが大いに不足している」、「やや不足している」という回答は多く寄せられました(次のグラフ)。小学校の約6割、中学校、高校の7割以上がそう答えています。「研修や職場のサポートは十分」、「問題や不安なことはほとんどない」という回答は少ないです。

(※)2019年12月~20年1月に実施

出所)妹尾昌俊『教師崩壊』(グラフのカラー等は修正)
出所)妹尾昌俊『教師崩壊』(グラフのカラー等は修正)

 これは新人の育成にかぎった設問ではありませんが(ベテランでも授業力などに不安もある人もいますので)、学校でのOJTと教育委員会等によるOff-JTが十分な成果をあげていない側面があることを示唆します。

■問題3 新人にいきなり学級担任を任せる、無茶ぶり

 さらに、事態をより深刻にしているのは、新人(新任教員)であっても、学級担任などの重責を4月当初から任されるということです。企業でいうと、配属されて数日しか経っていない新人に、一人で重要顧客にプレゼンに行かせるようなものです。普通は、あり得ないと思います(※)。

(※)もっと正確に述べると、新人には指導者役の教員がつきますが、1人の指導者が複数校をかけもちをする場合も多く、1人の新人に常に伴走しているわけではありません。また、一部ではありますが、この指導者役や校長がパワハラや過度の叱責等により、新人を潰してしまう例も起きています。

 ところが、学校、とりわけ小学校では、いきなり担任がスタンダードです。学級担任を受け持つ新任教員は、小学校95.9%、中学校57.6%、高校19.1%、特別支援学校61.8%です(次のグラフ。調査項目が変わったらしく、直近で確認できるデータは平成28年度時点のもの)。

文科省「初任者研修実施状況調査結果(平成28年度)」をもとに筆者作成
文科省「初任者研修実施状況調査結果(平成28年度)」をもとに筆者作成

 小学校では100%に近いですね。しかも、中学、高校のように教科担任制ではないので、相当の責任を新人が受け持ちます。中学校は、不登校や生徒指導案件などもあって、担任の負担は大きいですが、約6割の新人が当初から担任です。

 今年はコロナの影響で休校となりましたから、新人の先生は相当準備はできたうえでのスタートだったかもしれません。ですが、学校再開後は、子どもたちの心のケアも、学習面でも、難易度は通常よりも上がっています。そうした難局でも、がんばってくださった初任の先生は多いと思いますが、バーンアウトや精神的にまいる人が出ないか、過労で体調を崩す人が続出しないか、とても心配です。

 「無茶ぶり」とも言える、いきなり学級担任になる仕組みは、各学校が悪いわけではありません。国の教員定数を決める制度で、とりわけ小学校では少ない人員しか充当されておらず、「級外」と呼ばれる学級担任をもたない教員が多くは出ない計算式になっているからです。また、教員の給与等を負担する都道府県、政令市の予算や政策も関係します。学校現場からすれば、人が少ないので、新人にも担任になってもらわざるを得ない、というわけです。

 仮に、もう少し教員数が増えて、新人は副担任にしたり、あるいはチーム担任制(複数人で担任をもつ、あるいは、学級担任とはせずに学年ごとに複数人の担任を置く)にできたりすれば、新人の負担はだいぶマシになりますし、現場で授業や学級経営を学びながら、成長できると思います。ただし、この方式には予算と人手が大きくかかるものとなりますので、なかなか国も都道府県等もできていないのです。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

■新人の先生が元気に子どもたちに向き合えるために

 こうしてみると、新人教師が、もっと安心して、いきいきと子どもたちと向き合えるためには、教育実習なしでいいかどうかといった話だけでなく、いくつかのフェーズで問題が山積みである、ということがお分かりいただけるかと思います。

 少なくとも、次の点をもっと対処していく必要がある、とわたしは考えています。

■問題1 大学等での教員養成の質は高いのか?

各大学等のカリキュラムや教育内容、また国の政策として、反省点、改善点はないのか、探っていく。

■問題2 配属後の育成は機能しているのか?

各学校と教育委員会等で、学校の業務負担軽減(とりわけ教頭職)と働き方改革を進める必要がある。

国にはそのための財政的な支援等がもっと必要。

■問題3 新人にいきなり学級担任を任せる、無茶ぶり

国では、教員定数を決める制度(義務教育標準法など)と予算について、新人教師の負担や成長という側面でももっと考える必要がある。都道府県・政令市も大きな予算はかかるが、工夫できる余地はある話なので、よく検討してほしい。

各学校では、新人に任せたまま放置せず、ケアできるようにしてほしい。

 もう少ししたら、例年より短めの夏休みが終わり、二学期がスタートする学校も多いと思います。また学校はとっても忙しい日々に戻りますし、新人の先生には大きな負荷がかかります。コロナ前からの積み残しの重要な問題、放置してはいけないと思います。

※この記事は、拙著『教師崩壊』(PHP新書)の一部を抜粋、再構成、加筆して作成しました。

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