Yahoo!ニュース

このままでは、メンタルを病む先生は確実に増える 【行政、学校は教職員を大事にしているのか?(3)】

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

 各地の学校が再開して、約1カ月が過ぎました。地域差はありますが、分散登校などを終え、本格スタートとなった学校も多いです。依然として新型コロナウイルスのことは油断できませんが、わたしもイチ保護者としては、小学校と中学校に通う娘と息子の給食がスタートして、ずいぶんラクになりました。

 子どもたちの様子も気になりますが、学校の先生たちの様子はどうでしょうか?

 やはり、先生は、子どもたちがいてこそ元気になる、という方は多いようです。休校(臨時休業)中とちがって、子どもたちの笑顔に接することができ、授業ができるという喜びは大きいようです。

 一方で、わたしは、先生たちの心の健康、メンタルヘルスをとても心配しています。コロナ前からも毎年5千人もの教員が精神疾患で病気休職になっていたのが、学校というところです。コロナ後、教員のメンタルヘルスの状況はさらに悪化している、とわたしは見ています。きょうはこの問題を解説します。

■メンタルを病んで休職する人はかつてより倍増+その予備軍はさらに多い

 次のグラフをご覧ください。全国の公立学校では、ここ10年ほど、毎年約5千人の教員が精神疾患(うつ病など)で休職しています。

グラフは妹尾昌俊『教師崩壊』より抜粋
グラフは妹尾昌俊『教師崩壊』より抜粋

 ここ数年、学校も日本社会も、人手不足が深刻です。(コロナで状況は変わるかもしれませんが。)そんななか、全国での話とはいえ、毎年5千人もの(10年では延べ5万人!)精神疾患者を出す業界がほかにあるでしょうか?

 精神疾患による休職者数は、2000年~2002年度(平成12~14年度)は毎年2,300~2,700人程度、1997~99年度(平成9~11年度)は毎年1,600~1,900人程度であったことを考えると、当時と比べて、ここ10年は倍増しています。

 しかも、これは氷山の一角である可能性が高いです。病気休職になる手前は、病気休暇といって、90日くらいまで休めます。(上限日数は各都道府県の条例等による。給与も支給。)また、休むと周りに迷惑がかかるからといって、休めないでいる教員も多いです。そのため、実際はメンタルを病んでいる教員はさらに多いと専門家も指摘しています。文科省や教育委員会の統計調査では、トータルでどのくらいの先生がしんどいのか、肝心のデータが追えない問題があるのです。

■with/afterコロナ 教員のメンタルヘルスが心配な5つの理由

 学校再開後の教員の心理的負担については、少なくとも、次の5つの理由で増えている可能性が非常に高いです。

 第1に、新型コロナによる不安とストレスが大きいことです。

 わたしが学校の先生にアンケートやヒアリングを行うと、「一番怖いのは、自分のせいで児童生徒に感染させてしまうこと」、「基礎疾患のある児童生徒や同僚もいて、怖い」という声をたくさん聞きます。実際、北九州市の小中学校で児童生徒が感染しましたし、最近でも、都内の小学校で教諭が感染し、児童の一部も濃厚接触者となっています(NHKニュース6/27「小学校教諭2人コロナ感染確認 小学校は臨時休校 東京 江東区」)。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

 第2に、コロナ以前よりも児童生徒へのケアの難易度、複雑さが増している影響です。不登校ぎみや登校渋りになる子もいます。登校してきても、急に不安定になる子もいます。また、学習面でも休校中におそらく学力や学習意欲には差が開きましたから、授業の進め方にも一層工夫が求められます。コロナに関係するいじめも心配です・・・などなど挙げだすと、たくさんの事情が絡んでいます。

 もともと、年間5千人も病気休職になっている背景のひとつとしては、児童生徒理解がかつてより難しくなっていることがある、と言われています。教室が荒れる、学級崩壊のような例もありますし、発達障害などできめ細かなケアが必要な子もたくさんいます。加えて、コロナ後は、学級づくりや子どものケアの難易度が一層上がっているのです。

 第3に、本来業務である授業やその準備に集中しにくい環境になっています。消毒や検温、清掃などの負担が増えています。小学校などでは、1日7時間目まで授業して、その上、夏休みも大幅短縮という地域もありますが、授業準備にじっくり取り組めない、という声が多数上がっています。

 さらには、給食中も先生が配膳等をしていて、担任は5分で早食いという学校もあるようです。給食の時間や授業中、休み時間などでも、子ども同士の密接したおしゃべりをなるべく避けるようになど、コロナ前までは注意する必要がなかったことにも、気をもむ日々が続いています。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

 第4に、教員の裁量、自由さがどんどん小さくなっている政策の影響です。土曜授業増加や夏休みの大幅な短縮、行事の中止などを教育委員会がトップダウンで決めている例も散見されます。地域や学校による差はありますが、教育委員会からの細かな指示も増えているところもあります。自分のコントロールできないことが多くなり、やらされ感が募ると、メンタル不調になる人は増えます。

 第5に、職場環境です。本来は、個々の教職員をケアする役目をもっている校長や新任教諭の指導者役、さらには教育委員会職員が、パワハラをしたり、不要なストレスをかけたりしている例もあります。(念のため、申し添えますが、そうではない、ちゃんとした校長らも多いのですが、一部に困った校長らもいるというのが事実です。)

■多忙な学校現場に戻っている

 以上は、わたしの見立てなわけですが、データでも確認しておきたいと思います。と言っても、なかなか調査等はありませんので、わたしのほうで独自にアンケートを実施しました(小、中、高、特別支援学校等の教員向け)。本年6月5日~21日までの回答結果を集計。有効回答数は749件。SNSを通じて呼びかけたものなので、回答者に偏りはある可能性は高いのですが、ひとつの手掛かりにはなるかと思います。

 まず、忙しさを示す指標のひとつである、時間外勤務時間について。(自宅などでの持ち帰り業務も含みます。)教員に限りませんが、メンタルヘルスの不調には、業務量の増大や精神的にゆとりがないことが影響することは、よく知られています。

出所)妹尾昌俊「with/afterコロナ時代の学校づくりと働き方に関する調査」より作成
出所)妹尾昌俊「with/afterコロナ時代の学校づくりと働き方に関する調査」より作成

 タイムカードなどを導入する学校はやっとここ1、2年で増えてきましたから、正確にはそのデータが公表されるといいのですが・・・(わたしが知るかぎり、比較的詳しく公表しているのは石川県教委くらいではないでしょうか)、今回の結果はおおよその目安と捉えてください。

 公立の小学校、中学校では、約25%が1日3時間以上残業しています。一方で、同じくらいの割合の人が時間外は1時間未満です。学校や地域による差も大きいのかもしれませんし、同じ職場のなかでも、教頭や教務主任らは多忙を極めているなど、差が大きいのかもしれません。

 せっかく休校中、ワークライフバランスがよくなったという先生も多いのに、コロナ前の多忙に多くの学校は、戻りつつあります。しかも、このデータは、おそらく、中学校や高校の多くは、部活動が本格再開する前の状態です。部活動の負荷を加えると、さらに多忙になっていきます。

■8割の先生が生活にゆとりがない

 次のグラフは、学校再開後の悩みについて聞いたものです。公立特別支援学校と国立・私立中高は回答数が少ないので参考値ですが、載せておきます。

妹尾昌俊「with/afterコロナ時代の学校づくりと働き方に関する調査」
妹尾昌俊「with/afterコロナ時代の学校づくりと働き方に関する調査」

 「授業の準備をする時間が足りない」、「仕事に追われて生活のゆとりがない」という先生は、非常に多いですね(公立小中では約8割)。やはり、消毒や清掃など、授業以外の負担が増えていること、プラス、授業そのものの負担も増えていること(1日7時間、土曜授業等)が影響していると思います。

 「保護者への対応が精神的に負担である」も約半数、「子どもが何を考えているのかわからない」も約3割の公立小中の教員が悩みだと言っています。

 おそらく、休校中に児童生徒・保護者と先生とのコミュニケーションは疎遠になりましたし、学校でのコロナ感染や熱中症(マスク対応などを過剰にやることで、熱中症リスクが高まる問題)が心配だという保護者も少なくありませんから、保護者対応や児童生徒理解が難しくなっているのは、うなずける話です。加えて、先ほど5点述べたうちの2点目、児童生徒へのケアの難易度、複雑さが増している事情があるわけです。

■7割が干渉が多いと回答、3~4割が職場の人間関係に疲れている

 もう一度、先ほどの棒グラフをご覧ください。わたしが心配しているのは、「管理職や教育委員会等からの指示や干渉が多くて、教員側に裁量、自由さが減っている」、「職場の人間関係(同僚や管理職との)に疲れる」も相当多いことです。これらも、メンタルヘルス上、マイナスですが、コロナ禍のなかでよけいギクシャクしてきているようです。教育委員会と教職員の間、あるいは校長と教職員の間、あるいは教職員同士の間が。

 「困ったことや悩みがあっても、管理職や同僚に相談しにくい」という悩みも、公立の小中高では約3割に上ります。

 もともと教員は、弱音やSOSを発信しにくい傾向があります。子どもたちや保護者を前にして、「先生は~には自信ないんだよ」とはなかなか言えないですしね。職員室でも、お互いを「先生」と呼び合い、パソコンに向かって仕事をこなしている人も多いなか、悩みを打ち明けにくい学校もあります。学級経営や授業で悩みがあっても、「相談すると、能力がないと思われるのが怖い」、そんな意見もよく聴きます。

 また、教頭や養護教諭(保健室の先生)らも、コロナ関連業務が多くなり、一層多忙になっており(以前よりとても忙しい人が多かったのですが)、メンタル不調の人に気づける、気遣える人も少なくなっているのではないでしょうか。

 このように、いくつかデータでもある程度、確認できることですし、前述の5つの理由からしても、教員の心の健康は、コロナ後に一層危なくなっている可能性が高いと思います。

 問題は、こういう危険性、リスクをどこまで現場の校長、あるいは教育委員会や文科省が真剣に捉えているかどうか。こうした方々のなかには、先生たちの負担を増やす一方で、自由さや裁量を減らし、メンタルヘルスを軽視している人も多いように、わたしには見えます。

 長くなりましたので、対策については別の機会にします(拙著などでも書いています)が、まずは、多くの人に現実と兆候を直視してほしいと思います。

※本稿は、教育新聞の妹尾執筆記事「学校再開 教員のバーンアウトも心配だ」(本年6月15日)と妹尾昌俊『教師崩壊』(PHP新書)をもとに、独自調査結果などを加筆して、作成しました。

☆妹尾の記事一覧

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

妹尾昌俊の最近の記事