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休校中、先生たちはヒマだったのか?(教職員調査から見る、休校中のリアル)

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

 全国的な休校(臨時休業)になってから約3週間が過ぎた。休校中は、授業もなくなり、部活もなくて、「先生たちヒマなんじゃないの?」というイメージをもたれる方も少なくないのではないだろうか。

 わたしもそのイメージに近かった。日本の教員は世界一長時間労働だということはOECDの調査(TALIS)などでもわかってはいたが、1日のうち、授業(授業準備を含む)が占める比率はとても高い。たしかに事務作業なども負担だし、要改善点は多いが、1日中事務作業があるわけではない。(教頭職などは事務仕事の比重がとても重いが、一般の教諭なら。)子どもたちが登校しないので、給食指導や清掃指導も生徒指導も、基本的にはない。ずいぶんラクになったはずだ。

 だが、急な休校にともなって、仕事が増えたものもある。それに、もともと学校は3月、とても忙しい。人や校種にもよるが、たぶん1年で最も忙しいのが3月と4月だ。

 そこで、今回、アンケートをとって、先生たちの勤務実態などを聞いてみることにした(※)。前回の記事では、調査結果のうち、休校の子どもたちへの影響について紹介したが、今回は教職員の勤務実態が主テーマだ。今日までに652件の回答を得ている。

(調査概要)

  • 2020年3月16日~23日に実施。この記事は中間集計での一部の報告。
  • 回答者は、小中高、特別支援学校等の教職員。教諭のほか、校長や学校事務職員等も含む。
  • わたしのSNSを通じて協力を呼びかけたので、回答者に一定の偏りがある可能性はある。

■わかったこと(1):早く帰れるようになった人も多いが、1日3時間も4時間も残業するほど、忙しい人もいる。

 次のデータは、「3月9日~の週、または16日~の週、あなたの時間外勤務は1日あたり平均して、だいたいどのくらいでしたか。土日は除きます。」の結果。

 ※うっかりミスで、調査開始1~2日目は校種を聞きそびれていたので、校種不明が多い。

<休校中の1日あたり時間外勤務時間の状況>

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出所)妹尾昌俊「休校(臨時休業)中の教職員の仕事についての調査」 (以下、同様)

 小中高とも、30分未満が最も多くて、3~4割。30分~1時間もあわせると、6~7割の教職員は1日1時間未満の残業か定時帰りで済んでいる。もちろん残業はないにこしたことはないのだが。一方で、1割前後は、1日2時間~4時間だし、5~9%は1日4時間以上という人もいる。

 文科省は公立学校の教員向けの指針をつくっていて、「多くても、時間外は月45時間まで、年間360時間までに原則しようね」と言っている(※※)。年360時間は単純計算すると、月30時間だから、1日あたり2時間残業すると、オーバーする基準だ。

(※※)指針について、詳しくはコチラ。https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/uneishien/detail/1407520_00004.htm

 こういう指針をわたしは知っているので、「休校で授業や部活がなかったときでさえ、2割の教職員は指針の基準オーバーか」と感じた。

 もちろん、指針の基準をクリアーすればそれでOKというものでもないのだが・・・、学校の働き方改革の道は多難であることを改めて感じた。

■(2)一部の忙しい教職員は、例年と比べても、仕事は減っていない。

 次の質問は、「時間外勤務時間は、例年(同じ時期)と比べて、どうですか。」

 1日の平均的な残業時間別に、結果をまとめてみた。次のグラフのとおり。

<例年の3月と比べたときの時間外勤務の状況>

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 多数の教職員にとっては、例年より忙しさはマシになっている。授業も生徒指導も部活もないのだから、当たり前と言えば、当たり前だ。

 だが、1日2~4時間残業している人から、「例年よりも時間外が増えた」という回答(グラフで緑色)も多くなっていく。1日4時間以上残業している人のなかには、「減った」と同じだけ「増えた」という回答も多い。

 つまり、ここから示唆されるのは、職員室で多忙の2極化が起きている可能性だ。

 部活動などもなくなったので、「お先に失礼します~」とできている教職員も多い一方で、「まだまだ、こっちは仕事があるんだがなあ・・・」という人もいるということだ。学校間の差が大きい可能性もあるが、おそらく学校内の差もあることだろう。これは、タイムカードなどで測定している学校も増えてきたから、教育委員会や校長なら、わたしより厳密な分析ができると思うが。

 推測を重ねることになるが、働き方改革が進むことの副作用が出ているかもしれない。つまり、校長や副校長・教頭、あるいは教務主任らは、もともと授業負担はほとんどない。だが、休校にともなって、諸々やらないといけない調整などは増えた(後述)。同時に「働き方改革を進めます」と言ってきている以上、ほかの職員に仕事を振りづらくなっている可能性が高い

■(3)休校中は、児童の受け入れ、家庭訪問、はては地域のパトロールまで

 今回の調査では、休校中に増えた仕事、学校で従事している(受けている)仕事についても、聞いている。校種によって当然ちがいはあるのだが(たとえば、高校は給食もないし、家庭訪問もほとんどやる必要がない)、結果は次のとおり。

<休校中に増えた業務>

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 特に注目したいところを黄色セルにしておいた。小学校では、学童での勤務も2割近いところが該当しているし、低学年の子を学校で受け入れる例も多かった(約6割)。こうなると、通常のときよりは負担は少ないだろうが、16時ごろまでは児童がいるわけだから、気が抜けないし、デスクワークをやっておくというわけにもいかない教職員もいる。

 家庭訪問は、親にとっては少々迷惑だという声、防犯上あるいは感染防止上、むしろ好ましくないという意見(教員が罹患しているリスクもある)もあったが、小学校の約25%、中学校の約半数が実施した。一方で、子どもたちの様子を見て、また直接顔をみて声をかけられて、児童生徒の学習や生活上はよかった、という声もある。学校や児童生徒の状況にもよるだろうが、功罪はよく検証していく必要があると思う。

 かなりビックリだったのが、地域のパトロールという回答が多かったことだ。小中学校では3~4割に上る。一例として、報道によると、愛媛県では、小中高の教職員が地域の方と連携して、ショッピングモールやゲームセンターを休校中、毎日見廻るという。

 これは、教員の仕事だろうか?家庭の責任ではないだろうか。愛媛の例では、地域からのクレームもあってのことらしいが、県教委がそういう巡回をやると発表している。県教委が自ら、教員の仕事を増やしてしまっているわけだから、どうかと思う。

 さて、修学旅行などの見直しもかなり多い。これは、旅行会社などとややこしい交渉、調整がかかる。新型コロナの影響がいつまで続くか見通しをたてづらいなか、大人数の修学旅行などでは、宿や新幹線などを再度押さえるのも大変だ。

写真はイメージ。素材:photo AC
写真はイメージ。素材:photo AC

■”先生たちはヒマだろう”イメージで施策を進めるな

 おそらく、わたしが調査した項目以外の業務や調整ごとなども多数あることだろう。加えて、年度末の通常業務もある。以上の結果を総合すると、人にもよるが、「先生たち、休校ですっごくヒマになった」とは言えない。また、繰り返しになるが、特定の人に負担が集中している可能性も示唆される。

 もっとも、今回の調査データは限界があるし、解釈もいろいろできる。教職員たちの残業癖が抜けていないだけ、といった見方もできるかもしれない。だが、分析したような可能性にも十二分に留意して、現実をちゃんと見ていかないと、今後の政策も、変な方向にいきかねない。

 「休校で先生たちはヒマだろう」という安易な前提、イメージでいては、”定額働かせ放題”などと批判されている学校の勤務実態をよけい悪化させることにもなりかねない。たとえば、家庭責任なのに、ゲームセンターの見廻りまで先生たちにせよ、ということなどにも、こういう心配が、現実に言えるのではないかと思う。

 奈良市では、今週から市内すべての市立小学校の校庭や体育館を児童らに開放している。子どもたちも運動不足ぎみだし、この動き自体はわたしも賛成だ。だが、「開放する運動場と体育館で小中学校の教員が見守りを行うなど、安全確保にも努めることにしています」(NHKニュース2020年3月19日)とあるのは、「先生たち、ヒマだろう」説に依拠した施策かもしれない。

 上記のように、先生たちには、休校に伴い仕事が増えた部分もあり、かつ、この時期は、年度末の引き継ぎ、事務仕事、新年度に向けたカリキュラムづくりと授業準備などもある。学校教育として体育館などを利用しているのではない以上、事故などは家庭責任とするべきだし、かといって、子どもだけで来るときもあるからということなら、別途見守りの人材を雇うほうがいいと思う。

 そして、わたしが懸念しているのは、この休校期間中に、多少なりともゆとりができた先生も多いとはいえ、休校開けは、確実にいろいろなことが降りかかることだ。きょう(3/24)も文科省が学校再開に向けたガイドラインを示したが、消毒せよ、マスクしろ、体温測ってね、給食中も気を付けろなど、やることリストが満載だ。

 しかも、学力や学習習慣などで、この休み中、子どもたちに差が広がっている可能性もある。3月の学習の積み残しもある。授業準備や授業の進行だって、例年以上の工夫が必要とされる。今回の調査では、休校期間中の教職員の業務の内訳(たとえば、授業準備や研修にどれだけ従事していたか)は測定できていないので、わからないが、必ずしも、先生たちは、学校再開、新学期に向けた準備が入念にできている、という人が多いわけではないと思う。

 今回の調査で見えてきたこともあれば、まだまだ見えないことも多い。わたしたちは、現実を見たうえで、精神論だけでなく、必要な対策を考えていく必要があると思う。

参考:

◎妹尾昌俊「休校から3週間、子どもたちへの影響、何が心配か(教職員への緊急調査結果)」

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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