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【全国一斉休校、4つの問題・懸念】感染防止の実効性に疑問、社会的弱者にとって過酷

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

 いま全国を駆け巡っているのは、全国の公立小・中・高・特別支援学校が3月2日から春休み明けまで一斉休校になりそうなことだ。安部首相が要請すると表明した(産経新聞ほか)。対象は公立学校だが、おそらく私学も追随するところが多いと予想される。

 新型コロナウイルスの感染防止のため、やむを得ない措置かもしれないが、全国一斉休校とは、非常に大きな話だ。ここでは、その問題点、懸念されることを4点に整理して、解説したい。こういう問題を政府も十二分に考えたうえでの決断ならよいのだが。。。

問題・懸念1:感染拡大防止につながらないかもしれない。

問題・懸念2:医療、福祉など社会的な機能への悪影響。

問題・懸念3:子どもたちへの悪影響。とくに社会的弱者に過酷。

問題・懸念4:地方自治上、問題はないのか。

問題・懸念1:感染拡大防止につながらないかもしれない。

 仮に全国の学校を休みにしても、保育園や学童保育は続ける方針のようだ(朝日新聞記事「新型肺炎、保育園と学童は休みません 厚労省通知へ」)。学童については、夏休み中や春休み中のように、早い時間から開けるようだし、子ども同士で感染が広がるリスクは残る。むしろ、教室や体育館のほうが空間的に広い場合が多いだろうから、一斉休校によって、よりリスクが高まるかもしれない(※)。

(※)わたしは新型コロナの感染リスクについてはまったくの専門外なので、リスクが高まるかどうかの判断、評価はできない。専門家はどう見るのだろうか。飲み会のように、握手できるくらいの距離はリスクが高いということだったが、学童もそうではないのだろうか?

 同様のことは、学習塾や予備校にも言える。学校が休みとなると、保護者としても、生徒本人としても、塾等に行きたい、行かせたいというニーズは高いだろう。政府として、緊急事態ということで、塾等にも働きかけないと、感染防止の実効性は乏しくなる

問題・懸念2:医療、福祉など社会的な機能への悪影響。

 千葉市長らがツイートしているように、医療機関、高齢者・障害者施設、保育所などで働く人にとって、小さい子を家に残して仕事に出かけるのかどうか、厳しい選択を迫られる。学童保育が開くと助かる家庭も多いだろうが、そうなると、先ほどの問題、懸念1が高まる。ジレンマである。

 実際、帯広厚生病院では、28日から一部の診療を制限することを決めた。「小・中学校に通う子どもを持ち、出勤できなくなる看護師が全体の2割強に当たる170人に達するため、予約外の外来などを休止する」という(十勝毎日新聞2020年2月27日)。

 ただでさえ、社会不安も高くて、医療機関はパンクしている。高齢者などのケア施設なども細心の注意で仕事にあたっている。もちろん、スタッフは急に増えるわけがない。

 今回のコロナは、働き方改革を進める転換点になるという見方も少なくない。そこは同意するが、臨時休業にしたり、リモートワークやテレワークに変えたりできない仕事も多いことは忘れてはならない。

問題・懸念3:子どもたちへの悪影響。とくに社会的弱者に過酷。

 多くの人が心配しているように、休校中の子どもたち、特に小学校低学年らのケアは誰がするのか。犯罪者から誰がどう守るのか。

 家がつらい、こわいという子についての配慮も必要となる。学童保育があっても、給食がなくなることで、子どもたちの栄養が心配だという声もある。夏休み中にすごくやせる子もいる問題と同じで、とても心配だ。

 また、休校は、子どもたちの学力格差を一層広げるほうに働きやすい。教育に熱心な家庭や経済的に大丈夫な家庭では、塾に行かせたり、通信講座で学ばせたりして、学習を継続、発展させられるが、そういった家庭ばかりでない。勉強などはそっちのけで、ゲーム漬けといった子も出てくるだろう。

 つまり、休校は、社会的に弱い立場の子どもや特定の家庭に、よりダメージを与えやすい。これが新型コロナにかかった特定の地域だけ、1~2週間だけ臨時休校にするならまだしも、全国で、約40日でやろうとするのだから、深刻な影響が広域で続いてしまう可能性がある。

 対策のひとつとしては、家庭で世話ができない場合は、学校の図書室や教室で自習することを認めることだろうか。教員が学習支援することがあってもよいかもしれない。だが、こうなると、当たり前だが、もともと休校にした意味がなくなってくる。

 折しも、小学校では4月から新しい学習指導要領が始まり、教科書の内容もがらりと変わる。4月に先生たちは、前の学年の学習の残しを取り戻さないといけないし、約40日にもおよぶ春休み中に起きた(あるいは拡大した)問題にも向き合うことになる。

問題・懸念4:地方自治上、問題はないのか。

 前回の記事にも書いたが、学校保健安全法上は、休校を決める権限は、学校の設置者、つまり、市区町村立学校ならば、その市区町村教育委員会にある。安倍首相にも、文科省にも、権限はないはずだ。

参考:妹尾昌俊「新型コロナ、学校に必要なこと。卒業式はやる?休校にすると授業が足りない?」

 緊急事態ということで特別に立法して措置するなら別かもしれないが、現行法の趣旨、それから、地方自治を尊重するなら、休校にするかどうかは、国が決める話ではない。

 だから、今回も首相は「要請する」という表現になっているだろうが、「要請」を拒否できるほどの気概と説明をできる教育委員会はあまりないかもしれない。事実上、国が主導した緊急措置とだれが見ても思うだろうが、本当にそれがよいのかどうか。

 教育への国家介入を広げるという心配は残る。

 もちろん、命が関わる話だから、というのは分かる。今回の新型コロナがもう全国に広がるリスクがすごく高くて、特定の地域だけ休校にしたのではダメだ、ということなのかもしれない。そこの点はわたしは専門外なので、評価できないが。

 だが、命に関わることを本当に重視するなら、子どもだけ休みにしても意味は薄いはずだし、問題・懸念1で述べたとおり、今回の対応は、大がかりなわりには、実効性が乏しくなる可能性だってある。

 別に文句を言いたいだけではない。当たり前の話だが、物事には功罪があるし、いくら意図がよくても、運用上うまくいかないケースが多いことは多々ある。わたしがざっと思いついた、以上4点は、すでに政府の方々は百も承知かもしれないが、十二分に想定して対策を講じてほしい。「想定外」とは言えないはずだ。

 結局、子どもたちと保護者に多大な迷惑をかけたわりには、効果が薄かった、とはしてほしくない。

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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