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【2019年をふりかえる】教員暴力、わいせつ最多、いじめ放置、採用倍率低下、「教育不信」の時代に

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

 2019年も残りわずか。少しこの1年をふりかえっておきたい。

 

■令和という新元号になり、心機一転した年ではあったのだが、教育関係で言うと、影をおとすものも多い一年だった。

 大きかったのは、やはり、神戸の教員間暴力事件である。激辛カレーを強要する動画が瞬く間に拡散され、連日のようにテレビや雑誌、ネット等で取り上げられた。同じようなことが他地域、他校でも起きていると安易に一般化することは慎みたいが、保護者を含む世間、社会の学校への信頼をたいへん落としてしまったことは、確かだろう。

 また、この1年に限ったことではないが、児童生徒のいじめや自死は依然として深刻である。7月には岐阜市の中学生がマンションから転落死したが、和式大便器の前で土下座させられるなど、学校でのいじめが原因と見られている。学校は少なくとも2度SOSを受け取っていたにもかかわらず、有効な手立てを講じることはなかった(岐阜新聞2019年12月24日)。

 9月には、川口市で高校1年生が自殺した。「教育委員会は大ウソつき。いじめた人を守ってウソばかりつかせる。いじめられたぼくがなぜこんなにもくるしまなきゃいけない」というメモを残して。中学校のころのいじめが原因と見られる。

(写真素材 photoAC)
(写真素材 photoAC)

■教員の質を心配する声も高まっている。

 小学校教員等の採用試験の倍率低下を危惧する報道も多くなった。「倍率低下=教員の質低下」と必ずしも断言できるわけではないが(※)、採用を担当している教育委員会としても、心配という声は多い。朝日新聞のアンケートによると、「望ましい人材を確保するうえで十分な倍率か」について、「やや不十分」と答えたのは36教委(58・1%)、「不十分」は7教委(11・3%)で、計約7割を占めた(62教委が回答、朝日新聞2019年9月1日)。

(※)妹尾昌俊 「教員採用、倍率低下だけが問題ではない ― 本当に心配な3つの問題」

<小学校 受験者数・採用者数・競争率(採用倍率)の推移>

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出所)文部科学省「令和元年度公立学校教員採用選考試験の実施状況について」

 さらには、年末に入って、大学入試「改革」の混迷ぶりが明るみに出た(”改革”と呼べるものかどうかはクエスチョンだが)。英語での民間試験も、共通テストでの国語・数学での記述式も、土壇場で見送りが決まった。

(参考)妹尾昌俊「【記述式テスト見送り】そもそも、なんのための大学入試改革だったのか、前提を問い直す」

■「教育不信」の高まり

 こうしたなか、保護者を含む世間の学校、教育行政への眼差しは、厳しくなっていると思う。

 「先生たちの多くは日々頑張っているし、とても忙しいのも、知っている。しかし、問題も噴出していて、学校は、先生たちは、大丈夫か?

 「文科省や教育委員会はなにをやっているんだ?問題を先送りしてきたことが、あまりにも多いのではないか。どこを向いて、なんのために、仕事をしているんだ?」

 そんな感想をもった保護者、社会人等も多いのではないだろうか。おそらく、多かれ、少なかれ、似た感触は子どもたちにも広がっている。

 以上のことから示唆されるように、2019年の学校、教育をふりかえると、「教育不信」が一層高まった、とわたしは見ている。

■現状はそこまでヒドイのか?

 とはいえ、注意したいこともある。

 メディアなどで話題になるのは、センセーショナルな事件や話題性のある出来事が多い。全国に小学校だけでも約2万校あり、中学、高校、特別支援学校なども合わせると、約3万6千校、教員数は約百万人いる(学校基本調査)。

 ほんの一部のことに引きずられて、わたしたちのイメージは固まっている可能性はある。現状がそこまでヒドイのか、はよく観察してみる必要がある。

 試しに、本稿では、教員の不祥事についてデータを確認してみよう。

<教員の懲戒処分等の状況>

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出所)文部科学省「公立学校教職員の人事行政状況調査(平成22年度~30年度)」

 このデータは、小学校から高校等までの公立学校の教員(教育職員)について。上のほうの表、懲戒処分とは、免職、停職、減給、訓戒の4つの合計だ。表の下のほう、訓告等というのは、懲戒処分よりも軽いもので、注意等を受けることだ。

 ここ10年近くを概観すると、教員の不祥事等は増えているとも、減っているとも言い難い。わいせつ行為で処分されたのが2018年度は過去最多を記録するなど、心配なこともあるが。

 体罰についても、あまり傾向があるようには見えない。12年度、13年度で増えているのは、2012年12月に大阪市立桜宮高校での体罰事件があったことの影響で、体罰に関して厳しく調査するようになったことが影響しているのかもしれない(推測だが)。

 先ほど述べたように、約百万人いる教員のなかで、不祥事や体罰は、ごくわずかではある。たとえば、過去最多だった2018年であっても、わいせつ行為で処分を受けた教員の割合は、0.03%に過ぎない。

※ただし、こうした処分、訓告等にのってこない事案もあることには注意が必要だ。

■飛行機と同じ。学校は児童生徒にとっても、教職員にとっても、安全なのが当たり前。

 現状を悲観し過ぎるのはどうかと思うし、一部のことを取り上げて教員バッシングをしても、大多数の教員にとっては、迷惑な話だろう。だが、よそ事にしたり、楽観視したりすることも、危険だ。

 「学校は、児童生徒にとっても、教職員にとっても、安全なのが当たり前であるべき」、このことに同意される方は多いと思う。

 飛行機に似ている。ちなみに、わたしの父母はめったに飛行機に乗らない。事故が起きないか、とても不安だと言う。だが、データを確認すると、飛行機ほど安全性の高い乗り物はない。事故率は、国際航空運送協会(IATA)加盟の航空会社の場合、830万フライトに1回だそうだ(2014年、マシュー・サイド (著)、有枝春 (翻訳)『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』)。

 わいせつや体罰は「ナシ」が当たり前なのである。0.03%とかだろうが、被害にあわれた児童生徒や職員がいるなら、深刻だ。その命は、明るく暮らせる日々は、戻ってこない可能性もあるのだから。

 これだけ体罰の問題やわいせつ事案が報道等されているのに、いまだ一定数は毎年起きていることが問題、という捉え方もできるだろう。

■学校は、失敗、反省から学んでいるのか?

 「教育不信」を脱して、信頼回復をはかるのに、特効薬などあろうはずがない。

 わたしは、学校や教育行政がもっと「失敗、反省から学び続ける組織」になれるかどうかが試されていると思う。

 先ほど飛行機の話をした。飛行機事故がめったいに起きないのは、理由がある。

 それは、事故が起きたら、ブラックボックスと呼ばれるデータ(飛行データ、音声)を回収し、徹底的に分析し、再発防止策を立てるからである。そして、原因と再発防止策を飛行機会社を越えて、共有する。

 

学習の原動力になるのは事故だけではない。「小さなミス」も同様だ。パイロットはニアミスを起こすと報告書を提出するが、10日以内に提出すれば処罰されない決まりになっている。また、現在航空機の多くには、設定した高度などを逸脱すると自動的にエラーレポートを送信するデータシステムが装備されている。データからは、操縦士が特定されない仕組みだ。

出典:前掲書『失敗の科学』

 こうした航空業界から学べることは多いように思う。というのは、学校、教育行政は、この逆をいこうとしているようにも見えるからだ。

 児童生徒の重大ないじめや自死が起きた場合、第三者委員会が立ち上がることが多い。報告書も出る。だが、そうした知見、反省点が、他の地域の教育委員会や学校にも共有され、活かされているという話は、ほとんど聞かない。

(写真素材:photoAC)
(写真素材:photoAC)

 わいせつ、体罰、パワハラなどの場合、検証する組織すら、立ち上がらないことのほうが多い。記者会見して、加害者や管理職を処分して、”幕引き”である。しかも、体罰の場合、指導の一環という言い訳で、他よりも甘い処分になることも多いようだ(内田良 「教師叩きに終始しないで… 子どもにも先生にも安全・安心な学校を!」)。

 しかも、航空会社とはちがって、ミスから学ぶ仕組みも弱い。内部通報制度等が活用、機能しているようには見えないし、ミスを共有する例はほとんど聞かない。また、神戸の事案がそうだったが、校長までに情報がとどまり、教育委員会等と共有されないことも少なくないようだ。

 大学入試「改革」のゴタゴタだって、もっと早い時期から問題は提起されていた。文科省のなかで、それを重く受け止めて、検討することがなかったのかどうか、今後の検証が待たれる。

 どうも、学校、教育行政は、失敗、反省から貪欲に学ぼうとしていないように見える。

 もちろん、物事にはいい点とよくない点の両方があるものだし、教育は、失敗などと断定できないことも多い。だが、日々の授業がそうであるように、何かしら反省点を分析して、次に活かすことは大切だ。いまこそ、2019年をしっかりと、ふりかえり、2020年に活かしたい。

(参考)

◎妹尾昌俊『学校をおもしろくする思考法―卓越した企業の失敗と成功に学ぶ』

◎記事一覧

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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