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多くの学校の業務改善、働き方改革は、メスの入れどころを間違っている

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
採点の時間だって考えていきたい(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

「今日も忙しい、忙しい」と言うわりには・・・

 学校の先生たちは、すごく忙しい。厳密には学校ごとの差や個人差もあるが、多くの学校は長時間労働が常態化している。だが、「忙しい、忙しい」と言うわりには、「何のせいで、それほど忙しいのか」という分析は、しただろうか?

 「部活動の負担が重い」、「非効率な会議が多い」、「面倒な事務作業に追われている」などは、学校現場の先生たち自身からもよく聞く話なのだが、感覚的な話が大半で、家計簿を付けるように、多忙の内訳を見て話をしてくれる人はとても少ない。まあ、これは企業などでも同じ問題があるのだけれど。

※もちろん、現場の感覚や実感も大切だ。だが、その感覚だけで突き進んでいいのかは、少し冷静に検討したい。

 つい、1、2年前までは、大半の学校が出勤簿にハンコだけという、テキトーな時間管理、労務管理だった。やっと最近になって、約4割の市区町村(政令市含む)でタイムカードやICカードなどの客観的な記録を取るようになった(2018年4月時点、文部科学省「平成30年度 教育委員会における学校の業務改善のための取組状況調査」

ある学校のタイムカード(筆者撮影)
ある学校のタイムカード(筆者撮影)

 だが、約6割の市区町村ではまだタイムカード等もないし、記録がある学校も、出退勤時間が分かったというだけで、内訳までは分からない。

 そこで、前回の記事で、「'''なぜ、先生はこんなにも忙しいのか? ~多忙の内訳を見ると分かること~'''」について紹介した。こうしたデータも多分に限界があるので、万能では全然ないのだが、ひとつの目安にはなる。中学校教員についてのデータを、以下に再掲しておく。こうしたデータを参考にしながら、学校の業務改善では、真にどこにメスを入れるべきか、考えてみたい。

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「会議を見直しました」だけではダメ!

 校長や教頭へ「業務改善や働き方改革で、どんなことに取り組んでいますか」とヒアリングすると、ざっくり申し上げて、10人中8人、9人が「会議を見直しています」という話をしてくれる。先日聞いたのは、”読み聞かせ”会議なるものが、あるそうだ。資料の最初から最後まで朗読してくれる、説明の長い会議の仕方を揶揄した言葉だ。まあ、そういう会議ばかりではないだろうが、「ちゃんと説明しないと、読んでくれない先生がいるんです」といった話もよく聞く。そんなこと言って甘やかしているから、周りの時間を奪う会議が続くのだ、とも思うのだが。

 会議の精選、あるいは進め方の改善については、ぼくも大賛成だ。ただし、もちろん、必要な会議やもっと時間を取らないといけない会議もあると思う。

 だが、会議の見直しだけでは、それほど多大な時間が生み出されるとは考えにくい。先ほどの再掲したデータなどを参照すると、過労死ラインを超えていると思われる週60時間以上勤務のとても忙しい先生でも、1日あたり会議は約35分(小学校も中学校も)。これはこれで惜しい時間だが、仮に半減近くできたとしても、1日15分前後×5日=週に約1時間15分。これでは、過労死ライン超えを解消するには不十分だ。

部活動、行事、採点、掃除などにもメスを入れよ

 では、どこを頑張れば、もっと時間を生み出せるだろうか。もちろん、時短ばかりがいいとは限らないし、質を高めたいことも多い(授業準備がその典型例)。だが、質の話まで持ち込むと、議論がややこしくなるので、ここでは、いったん、過労死ライン超えを解消するには、どこの時間にメスを入れるべきかを考えよう。

 多忙の内訳を見ると、それはかなり見えてくる。

1)部活動

 中学校では、多くの人の感覚が当たっている。部活動が時間外勤務の多くを占めている。高校は、状況や人によってバラツキが大きいのだが、ひとつの目安として、都立高校のデータを以下に掲載しておく。ここでも火を見るより明らかで、過労死ライン超えの人とそうではない人を分けている、最大の要因は部活動の長さである。

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 実際、中学校教員について、国の教員勤務実態調査の2006年と2016年の2時点を比較すると、週末の部活動の時間が長くなっていることが分かった。今後、部活動のガイドラインなどで休養日をしっかり取り、かつ1日の時間も制限していくと、もう少し状況は変わってくるとは思うが、いまも、熱中症のリスクを抱えながら、高校野球が大盛り上がりなことを見ても、部活動改革はまだまだ途上だ。

 具体的には、部活の休養日を設けることだけでは、過労死ライン超えの解消には、おそらく不十分な学校も多いと思う(部活動が熱心な中高の教員では、時間外が月100時間超えもザラなことを考えると)。また、部活動指導員や外部指導者の導入も大事な施策だが、平日の夕方や土日に、面倒見よく付き合ってくれるオトナはそうはいない。予算も限られている。となると、地域の民間スポーツ団体・企業などと組めるところを除き、多くの学校では、部活動指導員等の導入と言っても、20ある部活のうちの1つか2つの部だけなどの様子にとどまる可能性が高い。

 本丸は、各校の部活動数を減らしていくことだ。もちろん、これには功罪がある。生徒にとっては、何かの部活がなくなることは、残念なことだし、活躍できるチャンスが奪われることになる。公立高や私立学校にとっては、生徒獲得にも響く。だが、少子化に伴い、教員数は減っているのに、部活動数がそれほど減らないのでは、当然、負担は重いままだ。「ちはやふるが流行ったので、カルタ部をつくりました」という学校もたまに聞く。生徒が活躍できるのはいいことだが、ビルドアンドビルドの発想はやめてほしい。

2)学校行事

 学校行事も重い。紹介したデータの教員勤務実態調査は、10~11月のどこか1週間を選んで回答するかたちで、多くの学校は大きな行事がある週は避けて回答していると推測されるので、実際は、データよりも行事には多大な時間がかかっている可能性が高い。

 行事は部活動と構造が似ている。保護者等の期待もあって、ヒートアップしているものもある。去年なみか、それ以上と思って、ついつい熱心になるのは、悪いことばかりではないのだが、それで、教員も児童生徒も疲れていくのでは、問題だ。

写真素材:photo AC
写真素材:photo AC

 「行事の精選はだいぶやりました」と言う校長等は多い。それはそうかもしれないが、準備にどれほどの時間を割いているだろうか、もう少し振り返る必要はある。

参考記事)運動会はなんのため?だれのため?

3)採点・添削

 データから示唆されるのは、過労死ラインを超えている教員は、平日1日40分前後を、採点、添削などに使っていることだ。また、別の調査では、持ち帰り仕事として丸付けなどと回答する調査結果は多い。

 実は、ぼくが講演、研修などで、採点・添削のあり方も考えよう、と言うと、反発を食らうことも少なくない。「それを手放してはいけないでしょう」、「なんでも、時短や効率化ばかり言わんといてください」といった意見だ。

 長くなるので、別稿でも整理したいが、採点・添削のうち、一部は授業中に済ませられる(児童生徒自身でチェックするのも含めて)ものもあるだろうし、過労死リスクを高めてまでやってほしい、とはぼくは考えない。本来は予算化して、確認テストや宿題は、アプリなどでその子の弱点や学習歴に応じた出題と自動採点としていくほうが、負担軽減かつ質のアップにもなると思う。

4)掃除

 掃除の時間(”清掃指導”と呼ばれる)はどこの小中学校も1日15分や20分とっている。これは、かなり大きい時間だ。掃除のあり方も語り出すと、長くなるが、本来は、予算をとって、外注もありだと思う。そんな予算は取れない?財政課に、「県庁や市役所の職員がトイレ掃除などをしているのか」と聞いてみてほしい。学校は、児童生徒と教職員の事実上の無償労働で支えていることが多すぎる。

 「いやいや、これは道徳教育の一環で、子どもたちの心を磨いているのです」という反論もある。ならば、道徳の授業の一部に実習みたいに組み入れたらよいのであって、毎日別途時間をとってやる必要はない、と思う。

 1)~4)以外にもいろいろある。たとえば、授業準備(とりわけ、若手教員や研究指定校の場合はすごく重い)や事務的な業務も見直しをかけていきたいが、長くなるので、ここでは詳細は述べない(詳しくは拙著などもご覧いただきたい)。また、週60時間以上勤務している先生の平均的な姿をもとに解説したが、当然、学校ごとの差や個人ごとの差もある。だから、本当は、それぞれの学校等で多忙の内訳を見ながら、上記のような検討をしてほしい、という思いでこの記事は書いている。

教員からも、保護者からも反発が出かねない、教育活動に切り込むのが、必要な業務改善

 上記1)~4)は気づいた人も多いと思うが、保護者の一部から反対があがる可能性が高い。部活動の一部を閉める、行事の一部は去年よりも簡素化にする、添削は例年よりも減りそうだ、と言うのだから。

 また、保護者にいく前に、当の教員が反発することもある。前回も述べたが、事務作業などと異なり、1)~4)の多くが子どもと向き合う時間とも言え、そこは時間をかけたい、と思う人が多いのだ。

 対照的に、会議の見直しは、ほとんどの人が反対しない。だから、校長等もやりやすい。だからこそ、(きちんと調査したデータがあるわけではないので、断言はできないが、)現状では、おそらく多くの学校では、業務改善や働き方改革といっても、会議の見直しやノー残業デイの設定くらいで、言い方は悪いけれど・・・、お茶を濁している。

 これでは、おそらく教員の過労死はなくならないだろう。

 本当にそれでいいのか?

 「教員や保護者から反発が大きいこともあるので、国や教育委員会で方針を出してほしい」と言う校長等も多い。だが、すでに国の方針は再三出ており、さまざまな業務について、見直しをかけてよいとなっている。(掃除をすべて外注せよ、とまでは言っていないが。)それに、上記1)~4)は、国も教委も強制できる話ではなく、学校裁量の領域である。

 繰り返しになるが、ぜひ各校で、個々の教職員の多忙のデータをとって、まずは内訳を可視化してほしい。そのうえで、上記1)~4)なども参考に、あり方を議論してほしい。この問題、ちょっとやそっとのことにメスを入れるだけでは、解決しない。

◎妹尾の記事一覧

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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