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なぜ、先生はこんなにも忙しいのか? ~多忙の内訳を見ると分かること~

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
子どもたちの笑顔とともにある仕事。だが、子どもたちと向き合い過ぎることが多忙に(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

「なぜ、学校の先生たちはこんなにも忙しいのですか?」

 先日、あるテレビ局から聞かれた。この手の取材は多数いただくのだが、端的に答えるのはとても難しい。世の中は、それほど単純ではない。多くの教師が過労死ラインを超えて働き、実際、過労死や過労自殺まで起きていることは、かなり知られるようになってきた。先日も、あるテレビ番組で大きく取り上げられたようだ(下記のリンク先に関連記事)。

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 この番組記事でも紹介されている、給特法の問題も重要であるが、そこだけを悪者扱いにしても、事実認識を誤ることになる。

 医師は、患者の症状をみて、病気の原因を探っていく。学校の問題も、原因、真因をしっかり捉えないと、変なところにメスを入れられては、困る。ここでは参考となる2種類のデータを紹介しながら、解説したい。

※本稿は拙著『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』を一部抜粋、加筆修正のうえ、アップします。より詳しくはそちらをご参照ください。

 ひとつは、1950~60年代ならびに2000年代後半以降(2006年~2012年)に国や都道府県、教職員組合が公立小中学校教諭を対象に実施した14の労働時間調査を分析した神林寿幸氏の研究成果『公立小・中学校教員の業務負担』である。公立学校教員の残業代を出さない給特法ができたのが1971年だから、その前提となった時代背景と、今日の約10年前の実態を比較するうえでも、参考になる。

 

 そこでは週の労働時間を4つに分類している。(1)教育活動時間、(2)授業準備・成績処理時間、(3)庶務時間(事務処理、会議、研修、校務分掌等)、(4)外部対応時間(保護者や地域、業者との対応等)。統計分析して判明した要点は次のとおりである。

●一般の認識のとおり、1950~60年代と比べて、2000年代後半以降のほうが、小・中学校教諭の労働時間((1)~(4)の合計)は長い。

●(1)教育活動時間については、小・中学校ともに、2000年代後半以降のほうが長い。(1)には正規の教育課程上の時間(特別活動や道徳を含む)と課外活動があるが、前者に大きな差はないので、後者の増加が影響していると推測される。ここでいう課外活動には、放課後の補習や部活動指導、給食、清掃指導、教育相談、進路相談などが含まれる。

●(2)授業準備・成績処理時間について、小学校教諭では1950~60年代と2000年代後半以降に有意な差はない。中学校教諭については2000年代後半以降のほうが短い。

●(3)庶務時間について、小学校教諭では1950~60年代と2000年代後半以降のあいだに有意な差はない。中学校教諭では2000年代後半のほうが短い。

●(4)外部対応時間について、小・中学校ともに上記期間のあいだに有意な差はない。

写真素材:photo AC
写真素材:photo AC

事務負担や保護者対応は、多忙の真因とは言い難い

 神林さんの研究からわかるのは、一般的な認識と少し異なるかもしれないが、事務的な作業や保護者対応などで教師は忙しくなっているとは言えない、ということだ。むしろ、中学校では、庶務時間は減っているくらいだ。

 ただし、この研究には限界もある。あくまでも平均的にはこういう傾向がある、という結果に過ぎない。調査の時期や学校、教員の状況によっては、当然、事務作業がかなり立て込む場合もあるし、保護者とのトラブル等で長時間拘束される場合もある。

 だから、事務負担や保護者対応に問題がない、としてはいけない。とはいえ、傾向として、多忙化の要因の大きなところは、課外活動(部活動や給食、掃除、生徒指導などの授業以外)の時間拘束である、と捉えておくことは大事だと思う。

直近のデータでも明らかな、多忙の真因

 もうひとつは、文部科学省「教員勤務実態調査」(2016年実施)である。これは対象者数が多く(小・中学校それぞれで1万人近い教員が協力)、また30分刻みで業務内容を細かく記録した貴重なデータだ。下の図表では、過労死ラインを超える水準で働いている小中学校教師の1日(週60時間以上働く人の平均像)を、そうでない人の1日(週60時間未満の人の平均像)と比較している。まずは中学校教員についてのデータ。

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 黄色で色付けしたのは、1日のうち一定の比重を占めるものであり、かつ過労死ラインを超えている人と超えていない人の間で比較的差が付いているものである。

 

 授業準備、成績処理(通知表などの作業に加えて、採点、提出物の確認や添削等を含む)、学校行事、部活動などがこれに該当する。なお、この表の分析は平日についてだが、土日については、部活動がもっと重くなる。過労死ラインを超えている先生は、これらの業務をより丁寧ないし長くやっているということだ。

 また、週60時間以上か否かでそれほどの差はないが、どの教師にもほぼ共通して1日の時間の比重の重い業務として、給食、掃除、昼休みの見守り等の時間や朝の業務(朝の会や読書活動等)、会議などがある。これは青色でマークした。これらについても、大きな時間を割いているわけだから、考えていかねばならない。

 先ほどの図は中学校についてだが、小学校も上記の傾向はほとんど同じだ(次の図)。部活動はない小学校が多い(一部の学校、地域にはあるが)ので、部活動の影響はほとんど見られない。だが、多くの小学校の先生には実感いただけると思うが、丸付けなどの採点や授業準備、運動会などの行事関連には多大な時間がかかっている。これはデータ上でも確認されている。

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 前述の神林さんの研究は2016年のデータについては含まれていないが、2016年のデータを確認しても、事務的な仕事や保護者との関係は、あまり大きな比重を占めていないし、過労死ラインの人かどうかで大きな差もついていない。ここでも、平均的にはというデータである点には留意する必要があるが、学校の先生たちを忙しくさせているのは、膨大な事務作業やクレーマーではなく、授業準備や給食、掃除、学校行事、部活動などで一生懸命子どもたちに向き合っているからだ、とデータは語る。

 ぼくは全国各地で学校の働き方改革について研修、講演をしているが、必ずお話ししているのが、こういうデータを参照しながら、「多忙の内訳を見よ」ということである。たとえば、「このところ、家計のやりくりがちょっと厳しいな」という場合は、何に出費が大きいかを見ることが必要だ(家賃や外食費が高いとか)だが、それと同じ理屈で、当たり前の話。

 上記は全国で集計した平均的なデータだが、各学校や先生たちご自身で、どこか1日でも1週間でも、多忙の内訳、要因のデータをとって観察してみると、振り返る材料になるだろう。

 また、政策や各学校の今後の働き方改革の動きとしても、真因に沿った対策をねらないと、メスのいれどころを誤ることになる。具体的には、先ほど、黄色や青色でマーカーしたところなどをどうしていくかを探っていきたい。

 文科省や教育委員会は、学校の多忙を改善して、先生が「子どもと向き合う時間」を確保しようと、これまで呼びかけてきた。しかし、現実には、部活動や採点・添削、授業準備、生徒指導などで、「子どもと向き合ってきた」結果、多忙になり、かつ長時間労働が解消されにくくなっているのである。まずはこの事実を、教職員はもちろんのこと、保護者、地域社会等も含めて、冷静に再確認することが、学校の働き方改革の出発点であるはずだ。

☆妹尾の記事一覧

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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