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宇野の清々しさ、鍵山の復活、三浦の奮起 ハイレベルな世界選手権、戦い抜いた日本男子

沢田聡子ライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

男子日本代表の3名は、今季を締めくくる大舞台に全力で挑んだ。

カナダ・モントリオールで開催された世界選手権・男子シングルでは、ショートプログラム3位のイリア・マリニン(アメリカ)が圧倒的な高難度構成のフリーを完遂し、合計点333.76で初優勝した。日本代表は、鍵山優真2位、宇野昌磨4位、三浦佳生8位という成績で、来季の出場枠「3」を獲得。3人はそれぞれのやり方で力を尽くし、ハイレベルな世界選手権を戦い抜いた。

ショートプログラム、三浦はブノワ・リショー氏のコンテンポラリーな振付に挑戦した『This Place Was a Shelter』を滑る。最後のジャンプは4回転トウループ+3回転トウループを予定していたが、ファーストジャンプで転倒。コンビネーションジャンプが入らない結果となってスコアは85.00と伸びず、10位と出遅れる。厳しいスタートとなったが、初出場の若武者は前を向いた。

「自分は失うものは何もないので、その攻めた結果が今日というだけで。もう後は明後日(のフリー)に向けて、しっかり切り替えていくだけかなと思います」(三浦)

鍵山は、負傷から復活した自身の経験を投影するかのような『Believer』(シェイ=リーン・ボーン氏振付)を完璧に滑り切った。ジャンプには高い加点がつき、スピン・ステップはすべてレベル4。シャープな所作と滑らかなスケーティングで魅了し、演技構成点では10点を出すジャッジもいた。106.35という高得点で、2位につける。

「四大陸選手権の時と比べると、若干GOEがとれていない部分があったんですけれども、それでも全体的に見た時に、非常に満足のいく演技ができたかな」

「明後日のフリーも、ジャンプはもちろんですけれども、ステップやスピンなどすべての技術を高いクオリティでできるように頑張りたいと思います」(鍵山)

宇野のショート『Everything Everywhere All at Once』は、表現力に注力すると宣言して今季を迎えた宇野が、師事するステファン・ランビエール氏の振付を重厚なスケーティングで表現するプログラムだ。4.56という高い加点を得た4回転フリップを皮切りに、すべてのジャンプを決めた。スピン・ステップもすべてレベル4で、静かだがどこか不穏な雰囲気も漂う、宇野にしか滑れない芸術的なプログラムを披露。圧巻の演技で今季世界最高の107.72をたたき出し、首位発進した。

「とても、自分にとってもいい演技だったと思います。ジャンプももちろん成功させることができましたし、また、滑っている中で会場のたくさんのお客さんからの声援、それをすごく肌で感じながら、気持ちよく滑ることができたので、すごく嬉しく思っています」

「(明後日のフリーについて)もちろん競技なので、いいパフォーマンス、悪いパフォーマンスで気持ちが左右される部分もあるかと思いますが、自分のコーチのステファンや自分が思い描く精一杯の演技をすることができれば、それが僕にとってのハイライトになるのかなと思っています」(宇野)

伸び盛りの勢いが印象に残る『進撃の巨人』(シェイ=リーン・ボーン氏振付)をひっさげて臨んだフリーは、しかし三浦にとってまたもほろ苦いものになってしまった。冒頭で挑んだ4回転ループと、3番目のジャンプとなる4回転サルコウで転倒。しかし、後半の4回転トウループに3回転トウループをつけてリカバリーする粘りをみせる。終盤のコレオシークエンスでは、曲のクライマックスに合わせて疾走感と迫力のあるスケーティングを披露した。フリーの得点は169.72、合計点254.72、総合8位という結果は、三浦にとってまだスタートでしかない。

「常に諦めない気持ちでやっていたので、後半立て直せた点はすごく良かったと思うんですけど、でも前半の(4回転)ループが…やはり、流れって1本目のジャンプで作っていくものなので。練習から(4回転ループを)降りていて調子よかっただけに、ちょっと悔しかったなと思います」

「せっかくワールドの切符をつかんで、三枠のうちの一枠を僕に使って下さったのにこういう結果になってしまったのは申し訳ない気持ちもありますし。ただ、自分はこの経験を糧にして頑張っていきたい」

「もう来年は今最終グループで滑っている人達や、第一グループですごい演技をしたアダム(・シャオ・イム・ファ)選手と戦えるように、頑張っていきたいと思います」(三浦)

振り付けたローリー・ニコル氏の期待が詰まったようなフリー『Rain, in Your Black Eyes』を滑る鍵山は、4回転サルコウに続き、初めて4回転フリップを成功させる。しかし、後半で跳んだトリプルアクセルでは着氷したものの、体勢を崩し転んでしまった。そこまでの素晴らしい演技を見守っていた観客の声援の中鍵山は滑り続け、美しいステップシークエンスで魅了し演技を終える。フリーの得点は203.30、合計点309.65と高得点を獲得した鍵山は、自身3つ目となる世界選手権の銀メダルを手にした。

「ショートプログラム・フリースケーティング、どちらとも、全力で最後まで滑り切ることができたかなと思いますし、点数自体も納得のいくものだったと思います。結果については、満足している部分はありますけど、それでもやっぱりすごく悔しいという思いの方が今は強くて。本当にどう頑張っても金メダルには届かなかったと思いますけれども、ここから来シーズン、さらに(2026年)ミラノ(・コルティナダンペッツォ五輪)まで、どう戦っていけばいいかということを、しっかりと計画を立てながら頑張りたいなと思いました」(鍵山)

宇野のフリー『Timelapse/Spiegel im Spiegel』は、今までも共に名作を創り上げてきた宮本賢二氏の振付で、観る者の心を動かすプログラムだ。しかし、この日は冒頭の4回転ループで転倒、続く4回転フリップの着氷でも手をついてしまう。その後もジャンプに細かいミスが出るが、終盤のコレオシークエンスでは深い味わいのある滑りをみせる。演技を終えた宇野は苦笑いしたが、その表情には全力を出し切った清々しさが漂っていた。フリーの得点は173.13、合計点は280.85。宇野は4位という結果で世界選手権を戦い終えた。

「本当に一日一日、自分が何をすべきかということを考え練習してきました。その結果、いいところもあり、もちろん上手くいかなかったところもありましたけれども、本当に今日までの練習してきたこと、やってきたスケート、そしてこのスケートにかけてきた時間は、本当に自分にとっても大切な思い出となりましたし、今後に向けても頑張っていけたらなと思っています」

「フリーは、自分の演技としましては、あまり振り返っても感傷に浸れるような演技にはなりませんでしたけれども、それでも本当に今は清々しい気持ちでいっぱいですし。こんな僕をこれまでたくさんの方が応援して下さって、注目して下さって、本当に嬉しく思いますし、本当に感謝でいっぱいです。もうすごく、僕は嬉しい気持ちです」(宇野)

初の世界選手権で悔しさを味わった三浦、怪我から復帰した今季を好結果で締めくくった鍵山、最高のショートプログラムとやり切った清々しさをみせてくれた宇野。世界選手権を戦い抜いた3人の日本男子に、心からの拍手を送りたい。

ライター

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(フィギュアスケート、アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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