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アイスホッケー男子日本代表、26年五輪最終予選に進出 鈴木貴人強化本部長、佐藤大翔副将インタビュー

沢田聡子ライター
現役時代は日本代表主将を務めた鈴木貴人氏(インタビュー時キャプチャ、筆者撮影)

アイスホッケー男子日本代表が、開催国枠で出場した1998年長野大会以来28年ぶりとなる五輪出場へ一歩近づいた。2月7~10日、ハンガリー・ブダペストで行われていた2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪3次予選を首位通過し、最終予選に進出したのだ。

世界ランキング25位の日本は、3次予選の3試合すべてで逆転勝ちをおさめた。特に最終戦では、完全アウェーの雰囲気の中、世界ランキング19位のハンガリーを退ける戦いぶりをみせている。

8月29日~9月1日に行われる五輪最終予選では、日本はデンマークで行われるグループFで戦う予定。グループFでは 、デンマーク(世界ランキング11) ・ノルウェー(同12) ・イギリス(同20) ・日本(同25)の4カ国が競う。五輪出場権を得るのはグループ1位のチームのみで、格上のチームを相手に厳しい戦いに臨む。

五輪最終予選へ向かう日本代表にとり貴重な経験となりそうなのが、4月28日~5月4日、イタリア・ボルツァーノで行われる世界選手権だ。日本は、2016年に降格して以来8年ぶりの出場となるディビジョンIグループA(2部相当)で戦う。

■鈴木強化本部長、五輪最終予選は「100%チャレンジできる」

今年度の途中から強化本部長に就任した鈴木貴人氏は、現役時代は主将として日本代表を牽引した。1998年長野五輪については、当時大学生だった鈴木氏は代表選考の最終段階まで残ったものの、負傷のため代表入りを逃した経緯がある。あと一歩のところでかなわなかった五輪出場を後進に託す鈴木氏に、話を聞いた。(2月16日、リモート取材)

――ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪3次予選での日本代表は、3試合とも逆転勝ちをおさめました。一方で試合の立ち上がりは少し動きが硬かった印象もありますが、現地でご覧になっていていかがでしたか

今季はなかなか日本代表チームとして国際試合を組むことができず、その影響もあって、外国チームに対して慣れるまでに少し時間がかかったかなとは感じています。

――ただ日本チームは、どの試合も最後まで足が止まっていないように見えました。意識して体力面を強化してきたのでしょうか

昔から、「日本のホッケーの強みはスピード」と言われています。私は今年度途中から強化本部長に就任しましたが、ここ数年「3つのピリオドを通してテンポの速いプレーをする」という日本のスタイルが、選手にも染みついてきている部分があると見ていました。そのいい部分が、この大会でも発揮できたのではないかと思います。

――初戦のリトアニア戦では、3-0とリードされた状態から6点を取り返しました。メンタル面での強さについてはいかがでしょうか

そうですね、気持ちの面でも成長している部分はあると思います。ディビジョンIB(3部相当)で出場した去年の世界選手権では、3ピリオド続けて走り続けるという日本のホッケーをすることで、IA(2部相当)へディビジョンを上げることができました。成功体験をする中で、自信が選手にもいい影響を与えたのではないかと。

――3次予選最終戦のハンガリー戦は、アウェーでの戦いながら逆転し、最終予選進出を決めました

ハンガリーはランキングも上ですし、ホームということもあって、「勝たなければいけない」というプレッシャーはすごく強かったのかなと。逆に日本は状況的に「100%チャレンジ」という環境・相手だったので、その部分が特に第1ピリオドで出たのではないかなと感じています。

――今夏行われる五輪最終予選では、日本はデンマークで行われるグループFで戦います。グループFの4カ国は全部格上のチームになりますが、日本はどんなところを強みとして戦いますか

この8月末までにチームをドラスティックに変えるのは、簡単なことではないと思います。その中で、日本の強み・良さはテンポの速いアイスホッケーを60分間続けられるところだと、今回も見て感じました。プレーの細かい質を上げ、強みをさらに伸ばすようなチャレンジをして、日本らしいホッケーをすること。ランキングが高いチームばかりですが、3次予選のハンガリー戦と同じように、100%チャレンジできる相手がそろっているとも言えます。そこは、メンタル的にそんなに心配はしていないです。

――4月には、昨年昇格したディビジョンIA(2部相当)で戦う世界選手権があります。五輪最終予選に向けた重要なステップとなりますね

2016年に落ちて以来のディビジョンIAなので、そこで戦った経験がある選手は多くない。ディビジョンが上がって、今までよりも格上と対戦するということになります。オリンピック予選と同じように、チームとしていいチャレンジができるのではないかと思っています。

――今アイスホッケー界は釧路のチーム問題などで難しい状況にあるだけに、オリンピック出場という明るい話題がほしいですね

強化本部長として強化に携わる中で、今回(五輪3次予選)のオンライン配信をできたのは、すごく大きなことでした。アイスホッケーを少しでも皆さんに応援してもらえるように広げていくという意味では、今回オンライン配信をできて、なおかついい結果が出たことは、先につながる明るいニュースだと思います。国内はいろいろな問題があってポジティブな話題が多くない中で、本当に代表選手達はよく頑張ってくれた。ホッケー界にとってもすごくいいアピールになる、明るい材料を提供できたのではないかと思っています。

――鈴木さんは、選手時代にあと一歩のところで五輪出場を逃した経験をしています。引退後は指導者として五輪を目指すと話していましたが、今回そのステージに戻ってきました

しばらく代表の活動からは離れていましたが、やはり日本男子チームがオリンピックにいくということは、私自身の中でもすごく大きな目標でもあります。アイスホッケーファンや選手達にとっても一番大きな夢であると思うので、まずそこに一歩近づけたことを喜びたいと思います。

もちろん次の8月(の最終予選)もチャンスはありますが、中長期でもオリンピックを目指す道程と並行して進んでいきたいと考えています。目の前の大会で言うと、4月の世界選手権になります。まず目指すのは、トップディビジョンへの昇格。続いては、トップディビジョンへの定着。その先にオリンピック出場、そしてオリンピックに継続して出るという段階があると思っています。

もちろん、8月の最終予選も大きなチャンスです。アイスホッケー男子日本代表としては、やはりオリンピックを一番大きなターゲットとして考えています。

■佐藤大翔副将「規律を持ってプレーをすれば、少なからずチャンスはある」 

五輪3次予選が行われたハンガリーから12日夜に帰国した代表選手達の多くは、その週末に行われたアジアリーグの試合に出場した。日本代表では副将を務めた佐藤大翔は、17日には日光アイスバックスの主将として、対東北フリーブレイズ戦(ダイドードリンコアイスアリーナ、東京都西東京市)に出場。プレーオフ進出がかかった大事な試合で1ゴール1アシストの活躍をみせ、チームに貢献している(試合結果は東北4―日光6)。試合後、佐藤に話を聞いた。

――今日は、プレーオフ進出がかかった大事な試合で、1ゴール1アシストとチームに貢献されました。帰国後で疲れもあったと思いますが、どのように振り返りますか

チームとしては3~4週間ほどゲーム間隔があいていたので、試合の立ち上がりが大事になるかなと思っていました。最初PK(ペナルティキリング、数的不利の状況)で失点してしまいましたが、第1ピリオドはリードして終わることができて、スムーズに試合が進められて良かったと思います。

――日本代表として参加したミラノ・コルティナダンペッツォ五輪3次予選のお話を伺います。3戦とも先行されてからの逆転勝ち、特に初戦は3-0とリードされた状態から6点を取り返しました。動画で拝見しても、日本チームは最後まで足が止まっていないと感じました

1月のリーグ戦が終わってから(日本代表の)国内合宿が始まって、本当にハードな練習を積んできて、その後海外に入ってからもかなり厳しい練習を積んできました。ただテストマッチができず、試合の入りがすごく難しくなってしまって…一試合目・二試合目はその中で失点するような形にはなってしまいましたが、地力の差で追いつくことができたと思います。

三試合目のハンガリー戦については、第1ピリオドをイーブンの状態で終えることができて。第2ピリオドに先行されてしまいましたが、なんとか追いつくことができて良かったなと思います。

――先行されても負けない試合運びには、メンタルの強さも感じましたが

カナダ人の(ペリー・パーン)監督には、ハンガリー戦の第2ピリオドが終わった後に、しっかり怒られました。焚きつけられて、自分達もそれに応えることができたなと思います。何より諦めるような姿勢の選手達もいなかったので、そういう部分が最後には勝つことにつながったなと。

――デンマークで行われる最終予選、対戦相手はすべて格上になります。日本は、どういうところを強みとして戦っていきますか

まずは日本代表の持ち味である運動量を生かし、後はしっかり規律を持ってプレーをすれば、少なからずチャンスはあると思うので。なるべくロースコアの試合展開に持っていけば、少しはチャンスがあるのかなと。

――今日本のアイスホッケーにはあまりポジティブな話題がない中で、オリンピックに出場できれば、人気の面で起爆剤になると思います

なかなかいいニュースがない中で、8年ぶりに最終予選までいくことができて、少しはいいニュースになったかなとは思っています。僕自身も8年前(の平昌五輪予選)にはサポートメンバーという形で携わっていて、最終予選に出場することができなくて。前回大会(北京五輪予選)は3次予選で敗退してしまって、最終予選の代表に選ばれれば初めての大会になるので。楽しみな気持ちがありますし、個人としてモチベーションが上がっています。

――五輪最終予選に向けては、久しぶりにディビジョンIAで戦う世界選手権(4月)が良いステップになりそうですね

世界選手権も、自分は一個上のディビジョン(IA)でやるのは初めてなので、楽しみな気持ちが多いです。3次予選でハンガリーに勝った実績もありますし、戦える力は充分あると思うので、それを毎試合出せるかが鍵になると思います。

昨季世界選手権でディビジョンIA昇格を決め、今回最終予選に進んだ日本男子は、着実に歩みを進めている。厳しい状況下でも道を切り開こうとする彼らの戦いを、見守っていきたい。

ライター

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(フィギュアスケート、アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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