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四大陸選手権で銅メダル獲得の佐藤駿 雌伏の時を経て飛躍する“ジャンプの天才”

沢田聡子ライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

■「関東三羽がらす」と呼ばれて切磋琢磨したジュニア時代

「去年の今頃はちょうど手術だったんですけど、本当にこの四大陸選手権の3位のメダルは、『去年の自分に見せてあげたいな』と思っています」

2月11日(現地時間)、アメリカ・コロラドスプリングスで行われたフィギュアスケートの四大陸選手権で3位に入った佐藤駿は、記者会見で感慨を込めてそう語った。

約一年前、佐藤は脱臼が癖になっていた左肩を手術している。手術を受けたのは北京五輪男子フリーが行われた2月10日だったという。

その北京五輪で銀メダルを獲得した鍵山優真、そして今回の四大陸選手権で優勝した三浦佳生、佐藤の三人は、ジュニア時代「関東三羽がらす」と呼ばれて切磋琢磨してきた。そしてこの三人は、昨年末に大阪で行われた全日本選手権でショートとフリーの中日に連れ立って大阪城に行くような関係性でもある。

全日本ノービス選手権を4連覇した佐藤は、ジャンプの天才として幼い頃から名を知られた存在だった。2019年ジュニアグランプリファイナルに出場した佐藤は、ジュニア世界歴代最高得点をたたき出して優勝している。しかし、シニアに上がった2020-21シーズン以降は怪我が多く、高いポテンシャルを発揮できない試合が続いた。

ジュニア時代はミックスゾーンで取り囲むメディアに驚きあとずさってしまう純朴な少年だった佐藤も、今は明治大学の一年生だ。だんだんと大人びてメディア対応も洗練されてきたが、実力通りの結果が出ない厳しい日々を過ごしても、その真っ直ぐな印象は変わらない。

腐ることなく地道に積んできたであろう鍛錬が今季は実を結び、佐藤はグランプリファイナルに出場し4位に入っている。そして全日本選手権で4位に入り代表に選ばれたこの四大陸選手権は、初めて出場するシニアのISUチャンピオンシップだった。

■4回転ルッツを決めた会心のフリーで追い上げる

佐藤が持つ最大の武器は4回転ルッツだが、最終滑走で登場した四大陸選手権のショートでは4回転ルッツに挑まず、3回転ルッツ―3回転トウループ、4回転トウループ、トリプルアクセルという構成で挑んだ。佐藤は「調子や疲れを自分で考えた結果『今回は3(回転)―3(回転)でいこうかな』と考えました」と自ら決めたジャンプ構成だと語っている。

しかし構成を落としたにもかかわらず、2本目のジャンプである4回転トウループで転倒。演技を終えた佐藤は悔しそうな表情をみせており、ショートは6位発進となった。

バーチャルミックスゾーンで「序盤からすごく緊張していて」と振り返った佐藤は、「(4回転)トウループでミスがあったのは、正直自分でも『なんでだろう?』という感じで」と吐露している。

「練習でも良かったので、正直すごくびっくりしました」

「フリーまで一日空くので、そこでしっかりと気持ちを切り替えて、フリーで練習通りの演技が出来ればいいかなと思っています」

フリーの最終グループ、最初の滑走者として登場した佐藤は、『レッドヴァイオリン』に乗って滑り始める。冒頭で挑んだのは、ショートでは回避した4回転ルッツだった。佐藤ならではの軽やかな跳躍で、3.78という高い加点を得るジャンプとなる。

続く4回転トウループも成功したものの、3回転トウループを予定していたセカンドジャンプが2回転になった。だがそれ以降はすべてのジャンプを予定通りに跳んでいき、3回転フリップが軽度のエッジエラーと判定されたのみで、ジャンプはほぼ完璧だった。

終盤のステップシークエンスとコレオシークエンスでは少し苦しそうな表情をしながらも、佐藤は最後のスピンを終えるとガッツポーズをしている。その直後に膝から氷に倒れ込んだ姿が、空気が薄い高地での試合の過酷さを物語っていた。

■「このメダルは本当に佳生のおかげ」

フリーで巻き返した佐藤は、銅メダルを獲得。記者会見では優勝した三浦と佐藤に対し、一緒に表彰台に乗った感想を尋ねる質問があった。

三浦は「ここに来てからも、駿とは『一緒に表彰台に上ろう』と意気込みをあげて頑張ってきた」と語っている。

「駿が今日の昼に『一年前の今日は手術だった』と言っていて。やっぱり相当辛い思いをしたと思うし、その中でもめげずに頑張ってきた。こうして今選手権のメダルを獲得していることは、これからの長いスケート人生でも駿に活気を与えてくれると思うし、僕も嬉しい。こうして一緒にメダルをとれたのは、僕はすごく嬉しく思います」

対して佐藤は「今大会のこの3位という成績は、本当に佳生のおかげだなと思っています」と感謝の思いを述べている。

「本当にあのショート終わってから、自分でもちょっと落ち込んでいたというか、そういう感じだった。中日だった昨日は佳生と一緒にゲームをしましたが、その時に『一緒に表彰台乗ろうね』って言ってくれて。そのおかげで今日も緊張せずにリラックスできたので、このメダルは本当に佳生のおかげだなと思っています。そしてこれからも一緒に戦って、二人とも上手くなって、一緒の試合に少しでも多く出られるように頑張りたい」

19歳の佐藤と17歳の三浦に対し、銀メダリストである31歳のキーガン・メッシング(カナダ)は「二人の友情は素晴らしいから、絶対これをなくさないで続けていって」と声をかけている。そして、佐藤に祝福の言葉を送った。

「怪我からリカバーしてここまでやったこと、本当におめでとう」

そして、冒頭の言葉に続けて佐藤はこれからの課題を口にした。

「そして、まだショートが今シーズンはまっていない。あと残り一試合(2月末・オランダで行われるチャレンジカップ)残っているので、そこでしっかりとショートでノーミスの演技ができるように、頑張りたいと思っています」

この四大陸選手権での銅メダルは、佐藤が本格的に世界へ羽ばたくスタートとなるだろう。三浦や怪我からの回復中である鍵山と高め合い、佐藤はさらなる高みを目指していく。

ライター

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(フィギュアスケート、アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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