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村元哉中&髙橋大輔が見据える自らの可能性と、日本のアイスダンスの未来

沢田聡子ライター
(写真:松尾/アフロスポーツ)

■自らに向けられた悔しさ

村元哉中&髙橋大輔が全日本フィギュアスケート選手権で滑ったフリーダンス「ラ・バヤデール」は、美しかった。和とヒップホップダンスが融合した斬新なリズムダンスとは趣がまったく異なるバレエ曲に乗せたクラシカルなプログラムは、村元&髙橋が持つ幅広い表現力を裏付けるものだ。

たった一つの北京五輪出場枠をかけた全日本の結果としては、村元&髙橋はフリーダンスだけでは小松原美里&小松原尊を上回ったものの合計点で及ばず、2位に終わった。リズムダンスでの思わぬ転倒が最後まで響いた結果であり、北京五輪代表から漏れたのもその失敗が原因ともいえるが、村元と髙橋はその事実を正面から受け止めている。

北京五輪代表発表の翌日となる12月27日に囲み取材を行った村元&髙橋は、痛恨のミスを毅然とした態度で振り返った。村元が「この大きな舞台で、自分たちの実力を完全に発揮できなかったのは」と言うのに続けて、髙橋は「結果を出すのも実力」と口にし、二人は交互に発する言葉で共有する一つの感情を表している。

「転倒したのも自分たちですし、こういう点数、この評価が出る演技をしたのも自分たち」(髙橋)

「選考に漏れたというよりは、自分たちの演技が100%」(村元)

「やれなかった自分たちの歯がゆさ」(髙橋)

「それの方が強くて、悔しいという気分」(村元)

あくまでも彼らの悔しさは、力を出し切れなかった自分たちに向けられていた。

「(北京五輪代表選考の)結果を聞いた瞬間は、やはり悔しい気持ちがあって。(二組が満たしている)選考基準が(それぞれ)2-2だったので、ギリギリまで分からないというところだったのですが『こういった結果になってしまったな』と。でも、すぐ素直に受け入れました」(髙橋)

「優勝を目指して、オリンピックを目標にしてすごく頑張ってきたので、自信を持って挑んだ試合だったのですが転倒もあり、結果は結果。それは素直に受け止めました」(村元)

■北京五輪代表・小松原組は貴重なライバル

小松原組は長いキャリアを持つカップルだが、昨季から今季にかけての成長ぶりには目を見張るものがある。その要因が村元&髙橋の台頭から受けた刺激にあることを、小松原美里は全日本のフリー後に明言している。

「(村元&髙橋の存在が)『ここで、この練習終わっていいのかな』という時に『いや、頑張らないと』という起爆剤になりました。感謝しています」(美里)

髙橋にとってもまた、小松原組は貴重なライバルだった。

「先シーズンは『やっぱりここ(小松原組)を超さなくては』、今シーズンは『どうなるか』といったところで『試合しているな』と感じられて。そこは本当にドキドキ感、刺激をすごく感じつつ過ごすことができて、大変ですけど充実していた。本当にそういった存在がいるとお互い刺激にもなるし、ライバルがいると一緒に成長できる。目標であり、ライバルであり、自分にとって助けになったなと感じています」(髙橋)

競り合った好敵手・小松原組に向け、二人はエールを送っている。

「尊くんも日本に帰化して、そこまで賭けてオリンピックを目標に頑張ってきていたと思います。本当に悔しいですけど、でも決まったからには頑張ってもらって、『自分たちがこれまでやってきたすべてを北京で出せるように滑ってほしい』という願いはあるので、全力で応援したいと思います」(髙橋)

「私もティム(・コレト 小松原尊)もシングルからアイスダンスに転向して、前からお友達だったので、たくさんのアイスダンサーにしか分からない苦労がある。美里ちゃんも芯のある強い女性で、本当にチームとして素晴らしいダンサーだと思う。平昌オリンピックを経験したからこそ、オリンピック会場の雰囲気を楽しんでほしい。自信を持って、日本を代表して、全力を尽くして今まで練習してきたことを出してほしいという思いでいっぱいです」(村元)

また、村元と髙橋の視線は、日本でのアイスダンスの普及という大きな問題にも向けられていた。村元は、北京五輪出場は最終的な目標ではないと説明している。

「今回全日本のフリーダンスが終わった後に、すごい数のお客さんが見に来てくれていたのを実感して。今までにないぐらい、日本のアイスダンス界が盛り上がった。『アイスダンスを日本の皆さんに知ってもらいたい』という思いが自分の中であったので、それはすごく今回実感できたなと。『やっとアイスダンスの良さを知ってもらえたのかな』と感じている」(村元)

髙橋も「カップル競技も『こういう世界があるんだな』ということを、普段あまり見ない方にも、少しは知っていただけたんじゃないかな」と手応えを語っている。

「今回オリンピック選考にあたって、メディアの方々のおかげで、いつも以上にたくさんの方にも注目していただけた。これから先、カップル競技、ペア・アイスダンスに興味を持ってくださる方もどんどん増えてくるんじゃないかなと思う。取り上げていただいて、ありがとうございました」(髙橋)

■「まだまだ成長はできる」

また、アイスダンサーとして再出発してからの日々を振り返る髙橋の口調からは、アイスダンスを心から愛していることがひしひしと伝わってきた。「エッジワークが、深くて」と語り始めた表情は、とても楽しそうだ。先シーズン、また今季の初めと比べても、できることがどんどん増えてきているのだという。「アイスダンスって、こんな世界で滑っているんだな」と感じる面白さがあり、また何も考えずに二人で動けた時の一体感は、シングルにはない醍醐味だとも語っている。

二人の表情からは、心から前向きな気持ちでいることもうかがわれた。北京五輪後にフランス・モンペリエで行われる世界選手権代表に選出されたのだ。

「選んでいただいたということで、本当に嬉しかったです」(髙橋)

「名前を呼ばれた時には、ホッとしたじゃないですけど、ガッツポーズ。もう一回世界と戦えるチャンスをいただけたので、一安心」(村元)

村元は、自分たちの成長に自信を深めている。

「NHK杯、ワルシャワ杯で国際的な評価も得られた。それはカナダイチームとして成長できたからこそ、評価されたのかなと思います。まだまだ成長はできるとも感じている。このコロナ禍の2シーズンで、大ちゃんがここまでこられたのは本当にすごいこと」(村元)

そして髙橋は、好敵手と共に世界の大舞台に立つことを望んでいる。

「(日本に代表の)2枠を持って帰ってこられたら、また来年(小松原組と)一緒に世界選手権という場に立てるかもしれないですし。そういった意味でも、僕たちは僕たちで世界選手権を精一杯頑張ってやっていく」(髙橋)

小松原夫妻と村元&髙橋が競り合った今回の全日本は、日本のアイスダンス史上特筆すべき1ページとなるだろう。自らの可能性、そして日本のアイスダンスの未来。村元哉中&髙橋大輔の視野は、どこまでも広がっていく。

ライター

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(フィギュアスケート、アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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