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イクイノックス驚異のレコード勝ちを、主戦のルメールと、世界の名手達が語る

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

名手のスピード感を狂わせた走り

 「1分55秒2の勝ち時計には驚きました。何回も確かめちゃいました」

 クリストフ・ルメールは少し興奮気味にそう語った後、天覧競馬となった天皇賞・秋(GⅠ)を連覇したイクイノックス(牡4歳、美浦・木村哲也厩舎)とのランデブーを振り返った。

イクイノックスとの天皇賞・秋制覇直後のクリストフ・ルメール騎手
イクイノックスとの天皇賞・秋制覇直後のクリストフ・ルメール騎手

 「ジャックドールとガイアフォースが前で競馬をすると思ったので、速い流れになると予想出来ました。イクイノックスはどんな競馬でも出来るので、速い前の馬を見られる位置を取りたいと考えていました」

 つまり、思惑通りの位置で競馬が出来たというわけだ。

 「向こう正面では落ち着いてくれて、自分のペースで走れました。だから手応えは終始良かったです」

 最後の直線に向いてもまだ手応えがあった。

 「速い流れなのは感覚的に分かったけど、イクイノックスはスムーズに、力む事なく良い手応えで走れていたので、そんなに無茶苦茶速いという感じはしませんでした。だから後で前半が57秒台だったと聞いて驚きました」

 57秒台のペースにも楽について行けた。世界一の走りが名手のスピード感を狂わせた。

 「ラスト200メートルでターフビジョンを見たら、後ろとの差が3~4馬身あるのは分かりました。こっちはまだ楽な感じだったので、この時点で勝ちを確信出来ました」

 あとは無理する事なく、無事にゴール板前を通過させる事だけに集中し、そしてその使命を果たしてみせた。

楽々とゴールインしたイクイノックス
楽々とゴールインしたイクイノックス

驚異のレコード決着

 前半57秒7という流れで、前へ行った馬が皆、苦しくなった。逃げたジャックドールは最下位に沈み、ブービーと最後方に控えていた2頭、すなわちジャスティンパレスとプログノーシスが2、3着まで追い上げた。そんな中、3番手から抜け出し、ゆうゆうとゴールインしたイクイノックス。前半57秒7という数字だけを見れば超ハイペースなはずなのに、後半はそれを上回る57秒5というラップ。競馬は、イギリスで生まれてから400年以上の歴史があると言われるが、その間、誰一人として見たことのないラップで刻まれたレースは、2000メートル1分55秒2という驚異のレコードで決着した。

驚異のレコード1分55秒2が表示された着順ボード
驚異のレコード1分55秒2が表示された着順ボード

 「イクイノックスはスピードもスタミナも瞬発力も、そして操縦性も、全てを兼ね備えています」

 パートナーの言う通りだろう。スプリント戦ならまた話は違うが、2000メートル戦となると、スピード一辺倒でレコードタイムはマーク出来ない。速い流れで本来、苦しくなるはずのところからもうひと伸び出来るのはスタミナがあればこそ。2着に天皇賞・春の勝ち馬が上がって来たのも、スタミナを要する流れだったからこそ、だろう。

 「皐月賞やダービーで負けてしまった3歳の春の頃と比べると、本当に成長しています。これ以上、まだ成長するのかは分からないけど、現状のままだとしても、ジャパンCにまた自信を持って臨めると思います」

天皇賞・秋のパドックでのイクイノックスとルメール
天皇賞・秋のパドックでのイクイノックスとルメール

世界の名手が見たイクイノックス

 レーティングで現役世界ナンバー1の彼が、単勝1・3倍の圧倒的1番人気に応えたパフォーマンスは、世界中に打電され、ホースマンの間にも一斉に轟いた。

 昨年、初めて短期免許での来日を果たし、今年も間もなく再来日を予定しているホーリー・ドイルは言う。

 「信じられないほどのパフォーマンスだったわ。一所懸命に走っているようには見せず、楽な手応えという感じなのに、凄く速い時計をマークする。“Incredible(信じられない)”としか言いようがないわ」

 同じく昨秋、来日。今春まで活躍したバウルジャン・ムルザバエフは、無敗の名馬の名を挙げて、次のように語る。

 「レーティングだけでなく、本当に世界のベストホースだと思う。まるでフランケルのようだね」

オリビエ・ペリエ騎手(9月にフランスで撮影)
オリビエ・ペリエ騎手(9月にフランスで撮影)

 更に日本の競馬を知り尽くしているオリビエ・ペリエは次のように言う。

 「好位置で楽に追走しているし、見るからに乗りやすそうだね。間違いなくチャンピオンホースだね。いや、スーパースターだよ」

 この1年間で、ついに国内外のGⅠを5連勝としたイクイノックス。果たして彼の連勝とニュースはどこまで伸びて行くのか。これからも、世界が注目し続ける事だろう。

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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