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大野拓弥騎手、フランスGⅠ初騎乗で5着に健闘の舞台裏

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
ディアヌ賞に臨んだ大野拓弥騎手

フランス初騎乗初勝利

 現地時間19日、フランス・シャンティイにあるシャンティイ競馬場で行われたディアヌ賞(GⅠ)。ここに現在、フランスで修業中の大野拓弥が騎乗。人気薄のフォーリンラヴ(牝3歳、清水裕夫厩舎)を5着と善戦させた。

 約2週間前からフランス入りしている同騎手。

 「ヨーロッパは初めてだし、海外で馬に乗るのはスノードラゴンで挑んだ香港しかありません。何もかもが新鮮です」

 森の中や大草原の上での調教に騎乗するだけでも、そう語った。

 今回の遠征に関し、彼から相談を受けたのは1年も前の事。コロナもあってなかなか話が進まなかったが、この6月になってやっと実現。そこでひと足先に現地へ入り、当方の出来る限りのアテンドをした。その中の1つに、現地のホースマンの紹介があった。到着してすぐにシャンティイで開業する日本人調教師の小林智と清水裕夫を紹介。清水と会食の場を設けると、すぐに騎乗を依頼してくれた。

 この時、清水は次のように言った。

 「本来乗る予定だった騎手が、その日は2カ所の競馬場で乗る予定だったのですが、発走時刻が変更になった事で1カ所しか乗れなくなりました。それで、こちらは大野騎手にお願いする事にしました」

 大野はこれを受けて「ラッキーです」と語ったが、現地へ出向いていたからこそ掴めたチャンスであるのは間違いなかった。そして、このチャンスを大野は見事に活かす。フランス初騎乗を1着で決めたのだ。

 「JRAの初騎乗は落馬だったので、正反対の結果で良かったです」

 大野は笑ってそう語った。

フランス初勝利を決めた際の大野
フランス初勝利を決めた際の大野

ディアヌ賞騎乗

 そして、この初騎乗初勝利が今回のディアヌ賞(GⅠ)騎乗につながった。

 ディアヌ賞(GⅠ)は日本では「フランス版オークス」などと称されるが、実はかの国では最も人気の高いレース。ダービーにあたるジョケクラブ賞(GⅠ)は勿論、凱旋門賞(GⅠ)よりも人気のあるレースなのだ。

 ここで大野が乗る事になったのが先述したフォーリンラヴ。初勝利を挙げた際の清水厩舎の馬である。清水は言う。

 「前回、初めて乗っていただき、上手に勝ってくれました。最後までしっかり追ってくれるのも好感が持てたので今回もお願いする事にしました」

清水(左)と大野
清水(左)と大野

 更に今回の依頼に至るまでの経緯を次のように言った。

 「本来は見習い騎手に乗ってもらおうと思ったのですが、他の競馬場で乗る事になりました。それでこちらのトップジョッキーも考えたのですが、ディアヌ賞ともなると他にも依頼されている。馬のタイプ的にも最後まで追ってくれる大野君なら合うと思ったので、オーナーに打診したところ快諾をいただけたので正式に依頼させてもらいました」

 これもまた強運と思える経緯だが、先述した通り、意を決して日本をあとにしたからこその依頼であったのは疑いようがない。

 こうして臨んだディアヌ賞。人気は全くなかったが、2人は綿密に作戦を練った。大野の弁。

 「スタートをゆっくり出してインへ入り、コースロスなく追走させようという事になりました」

 結果、見事にその作戦を体現した。大野にいざなわれたフォーリンラヴは3着とは差のない5着まで追い上げてみせたのだ。

内の黒帽が大野のフォーリンラヴ。
内の黒帽が大野のフォーリンラヴ。

 「コーナーでインを突いてワープ出来ました。直線へ向くまでは完璧だったのですが最後に少し前が詰まってしまいました。あそこをスムーズに捌けていればもっと上に来られたと思うので残念です」

 ダークホースで善戦しながらも大野はそう言って悔しそうな表情を見せた。

 しかし、レース後にはジョン・ハモンド(モンジューらを育てた元調教師)から「素晴らしい作戦だったし、上手に乗っていた」と声をかけられたのを始め、賞賛の声が方々で囁かれた。ちなみに勝ったのは女性騎手のH・ドイルが乗るナシュワ。本場英国のオークス(GⅠ)でも3着だった同馬は日本でもお馴染みのジョン&タディ・ゴスデン親子が管理する馬だが、タディも「ナイスファイト」と声をかけてくれた。

レース後、タディ・ゴスデンと
レース後、タディ・ゴスデンと

 更にレース当日、嬉しいニュースが次々と飛び込んだ。今回のディアヌ賞での好騎乗で、いきなり騎乗依頼が舞い込み出した。清水や小林だけでなく、現地のフランス人調教師からの依頼も含め、今週はサンクルーやコンピエーニュなど、あちこちで騎乗する事になりそうだ。大野の挑戦はまだ始まったばかり。「8月いっぱいは帰国しないつもり」と語る彼に「秋も残りなさい」という声が届いている事を報せて、今回のリポートは終わりにしよう。

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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