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5年前のマカオで騎乗した武豊と藤田菜七子。写真で振り返る当時のエピソード

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
17年、マカオで騎乗した際の武豊騎手と藤田菜七子騎手

マカオから招待を受けた2人

 丁度5年前。2017年の1月21日の話だ。中国の特別行政区であるマカオのタイパ競馬場に2人の日本人騎手の姿があった。かの地で国際男女混合ジョッキーズチャレンジが行われ、JRAから武豊騎手と藤田菜七子騎手が招待されたのだ。

 日本のワールドオールスタージョッキーズ同様、世界各国から集められた騎手が、複数のレースに騎乗。結果のポイントによって優勝を争うイベントだが、大きく異なるのはタイトルの“男女混合”でも分かるように男性騎手と女性騎手がペアになり、チームで覇を競うという点。だから日本からも2人が選択されたわけだが、誰とペアになるかは抽せんで決められた。そのため日本のゴールデンペアがワンチームとはならず、武豊はブラジルのJ・アウヴェス・デ・レモスと、藤田菜七子はフランス人で当時は香港をベースに騎乗していたオリヴィエ・ドゥルーズとそれぞれタッグを組んだ。

 とはいえ、実質的には日本人2人が多くの時間を共有したのは当然だ。武豊は言う。

 「チームを組んだブラジルの女性騎手は英語も話せない方だったので、通訳を介して挨拶をした程度でした」

 一方、藤田は日本のナンバー1ジョッキーと共に芝コースを歩くなどしながら積極的に質問をぶつけていた。藤田は言う。

 「技術的な事は勿論、気持ちの持ち方などメンタル面でも助言をいただき、とても参考になりました」

前日の朝、芝コースを歩いた2人
前日の朝、芝コースを歩いた2人

 滞在中、武豊は昼も夜も藤田を会席の場に誘い、リラックス出来る場を設けつつも事ある毎にアドバイスを送っていた。

 「僕が初めて海外で乗ったのはデビュー3年目でした。藤田さんはデビューして1年に満たない間に、イギリス、アブダビ、そしてマカオで騎乗しているわけですから立派なモノです」

 これを聞いた藤田は言った。

 「はい、まだまだ実力がないのにこういう経験が出来るのは本当に素晴らしい事だと分かっています。機会をくださった関係者の皆さんには感謝しかありません」

武豊の気遣いで前日には皆で会食の場を設けた
武豊の気遣いで前日には皆で会食の場を設けた

6レースで対戦した結果は……

 ちなみにこのマカオで2人は6度にわたり同じレースで騎乗した。結果はその全6レースで武豊が先着。大先輩がトップジョッキーのプライドを見せつける格好となった。

 「まだまだ勉強不足だと痛感しました」と真顔で語る藤田に対し、武豊は優しく声をかけた。

 「今、大切なのは勝ち負けだけでなく、こういった経験を積む事と、それを将来につなげる事。落ち込む必要は全くないよ」

 2年後の19年、藤田はスウェーデンで行われたウィメンジョッキーズワールドカップで見事に総合優勝を成し遂げてみせた。一方、武豊は昨年の暮れ、ドウデュースで朝日杯フューチュリティS(GⅠ)を制し、この1月15日はルビーカサブランカで愛知杯(GⅢ)を優勝。なんとデビュー以来36年連続での重賞制覇を飾り、相変わらずトップの座をキープしている。

 さて、このマカオの共演から5年の歳月が流れた現在、世界には未曾有のコロナ騒動が吹き荒れ、海外渡航もままならない状況が続いている。1日も早く新型コロナ騒動が収束し、2人が海の向こうで再び活躍する姿を見たいものである。

あれから5年。ますますの活躍が期待される武豊騎手と藤田菜七子騎手
あれから5年。ますますの活躍が期待される武豊騎手と藤田菜七子騎手

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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