立ちはだかった白い壁

 今週末、秋華賞(GⅠ)が行われる。何といってもソダシが注目を浴びているこの1戦だが、その真っ白な馬体を、少し違った角度から見ている男が、美浦にいる。

 「我の強い面はあったけど、デビュー前に跨った時から走りそうな感触はありました」

 美浦・栗田徹厩舎で調教助手を務める佐藤智博(46歳)にそう言われたのは、父キングカメハメハ、母クリミナルの牝馬、ククナだ。

ククナと佐藤助手(右)(オークス出走時。撮影;平松さとし)
ククナと佐藤助手(右)(オークス出走時。撮影;平松さとし)

 2020年8月、札幌競馬場のデビュー戦は3着。しかし、2週後に臨んだ2戦目で初勝利を挙げると10月のアルテミスS(GⅢ)で勇躍、重賞に挑戦した。

 「体質的に少しかたくなりやすくてまだ途上の身だったにもかかわらず、頑張ってくれました」

 佐藤がそう言うように善戦した。しかし、彼女の前に白い壁が立ちはだかった。それがソダシだった。

ソダシ(オークス出走時。撮影;平松さとし)
ソダシ(オークス出走時。撮影;平松さとし)

”最初に見た時は驚いた”馬とは

 1975年の夏に生まれた佐藤。姉と妹と3人きょうだいで育てられた場所は美浦。父親がトレセンで働く厩務員だった。幼少時から馬が身近にいたため、小学5年生で乗馬を始め、中学を卒業する時には騎手試験を受験。残念ながら不合格となったが、高校も3年間、乗馬を続けた後、競馬学校に入学。競馬学校卒業後は美浦近隣の育成牧場で働いた。

 「競走馬は乗馬用の馬とは全く違いました。気の勝った馬も多くて、この世界でやっていくのは容易じゃないと感じました」

 98年にトレセン入り。谷原義明厩舎を経て、後藤由之厩舎へ移り、調教助手として働いている時、1頭の珍しい馬と出合った。

 「最初に見た時は驚きました」

 その馬は真っ白な馬体をしていた。

 名はシラユキヒメ。

 「綺麗な馬体で可愛らしい名前だったけど、乗ってみると上の指示に逆らうような気の強い馬でした」

 当時、経験の浅い佐藤には手に余る存在だった。また、体質の弱さも相まって結果、9戦未勝利で馬場を去った。

 その後、佐藤はホットシークレットとドバイへ飛んだり、トウカイポイントと香港へ行ったりと、国内外で経験を積んだ。

 そんな05年に入厩したのがシラユキヒメの仔・シロクン。更に2年後にはシロクンの半妹のユキチャンが入厩した。

現役時代のユキチャンと佐藤(撮影;平松さとし)
現役時代のユキチャンと佐藤(撮影;平松さとし)

 「シロクンはノド鳴りで出世出来ませんでした。でもユキチャンは2戦目に勝ち上がると後に関東オークス(JpnⅡ)では2着を8馬身も千切って優勝しました」

 “白毛は走らない”というイメージが定着しそうになっていた時期だったが、武豊を乗せたユキチャンが転轍機に手をかけ、佐藤は表彰台に登った。

関東オークスの表彰式での佐藤(右から2人目。撮影;平松さとし)
関東オークスの表彰式での佐藤(右から2人目。撮影;平松さとし)

気になるシラユキヒメの血を継ぐ馬達

 11年に後藤調教師が勇退すると、栗田徹厩舎へと移った。新しい厩舎では入厩するほとんどの馬の調教をつけるようになったが、白毛馬との縁は絶たれた。

 「でもシラユキヒメやユキチャンの血を継いでいる馬達の活躍はやはり気にはなりますね」

 ユキチャンの妹や弟にあたるマーブルケーキ、ブチコやシロニイなどを見る度に「ユキチャンを思い出した」。

ソダシの母ブチコの現役時代(撮影;平松さとし)
ソダシの母ブチコの現役時代(撮影;平松さとし)

 そして、ブチコから繋がるソダシも当然、気になる存在となったと言い、冒頭のエピソードに話は戻る。

 「アルテミスSはククナで挑んで負けたので『残念』という気持ちだったけど、ソダシがGⅠを勝った(阪神ジュベナイルフィリーズ)時は嬉しい想いもありました」

 その後、桜花賞(GⅠ)で2度目の対戦をした。ソダシが2つ目のGⅠ制覇を成し遂げたのに反し、ククナは最後方からの競馬となり、6着まで追い上げるのが精一杯だった。

 3度目の直接対決となったのはオークス(GⅠ)。ククナは直線先頭に立ったか?!という見せ場充分の競馬。初めてソダシに先着したが、それぞれ7着と8着。勝ち負けには絡めなかった。

 「体質的なかたさは相変わらずなままでした。それでいてクラシック戦線でこれだけやれた事が、ククナの潜在能力の高さを示していると思いました」

 その後、ソダシは古馬の一線級を相手に札幌記念(GⅡ)を快勝。斤量差があったといえ、ラヴズオンリーユーやペルシアンナイトといったGⅠ馬を破ってみせた。

札幌記念を勝利したソダシ(撮影;平松さとし)
札幌記念を勝利したソダシ(撮影;平松さとし)

 一方、ククナは10月9日の東京競馬で自己条件に出走。確実にここを勝ち上がった。

 「春に比べるとこの馬なりに柔らかさは出て来ました。それでもまだ(体質面で)弱い感じがあるので、放牧に出ました。どこか痛めたわけではないので、回復して戻って来たらまた活躍してくれると信じています」

ククナ(オークス出走時。撮影;平松さとし)
ククナ(オークス出走時。撮影;平松さとし)

 そう語る佐藤の父が厩務員だったのは先述したが、子息もまだ臨時雇用ながら美浦トレセンの厩舎で働き出した。ユキチャンからブチコを介してソダシが活躍したように、佐藤自身も3代にわたるサラブレッドとなったのだ。しかし、親子の話に関してははにかみを見せて多言せず、改めて純白のヒロインについて、次のように語った。

 「ソダシがテレビで特集されていれば見るし、本当に素晴らしい馬ですよね。近い将来またククナや他の馬達で彼女に挑めるように、自分も頑張ります!!」

 さて、秋華賞。佐藤はどんな気持ちでソダシを見るのだろう。(文中敬称略)

ソダシの母の母シラユキヒメも母の姉ユキチャンも乗っていた佐藤(左。写真はユキチャン。撮影;平松さとし)
ソダシの母の母シラユキヒメも母の姉ユキチャンも乗っていた佐藤(左。写真はユキチャン。撮影;平松さとし)