Yahoo!ニュース

思わぬ偶然からJRA馬主免許を取得した大魔神・佐々木とCBC賞との縁とは?

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
ドバイにて愛馬ヴィブロスを見つめる大魔神こと佐々木主浩馬主(2017年)

偶然が生んだJRAの馬主免許取得

 ディアドラが挑んだプリンスオブウェールズS(G1)を始め、5日間連続で行なわれたロイヤルアスコット開催が無事に幕を閉じた。この後、同じイギリス・アスコット競馬場で7月の下旬に行なわれるのがキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)だ。ヨーロッパでは凱旋門賞と並び1マイル半の最高峰とされるこのレースに、今年はシュヴァルグラン(牡7歳、栗東・友道康夫厩舎)が挑戦する予定でいる。

7月に英国G1勝ちを目指すシュヴァルグラン
7月に英国G1勝ちを目指すシュヴァルグラン

 2017年にジャパンC(G1)を優勝した同馬を持っているのは佐々木主浩オーナーだ。

 1968年生まれで長嶋茂雄ファンだったという少年はやがてプロ野球入りすると“ハマの大魔神”と呼ばれ、抑えのエースとして活躍。横浜ベイスターズの日本一に貢献した後、メジャーリーグに挑戦。かの地でも“DAIMAJIN”と呼ばれ、オールスター戦でもセーブを挙げるなど、日本プロ野球時代と変わらぬ大活躍をみせた。

 そんな偉大なベースボールプレーヤーが馬主となったのには、面白いエピソードがあった。

 横浜の頃に、先輩の影響で競馬を始めた彼はメジャーリーガー時代も「アメリカの競馬場へ行った事があった」と語る。現役を引退し、帰国すると、まずは道営競馬で1頭、所有した。

 「ミスターフォークと名付け、わざわざ旭川まで見に行ったものです」

 そんなある日の事だった。知人を連れて寿司屋へ行った。その時、知人の携帯電話が鳴った。彼も競馬ファンだったため、その着信音はファンファーレに設定されていた。そして、その音を聞いたのがたまたま同じ寿司屋に来ていた近藤利一オーナーだった。”アドマイヤ”の冠名で知られる彼は、すぐに話しかけてきたという。

 「『佐々木さんは競馬を好きなのですか?』と聞かれました」

 そこで道営で1頭、持っている事を伝えると、自分が所有しているある馬の権利を譲るから、JRAの馬主免許も取らないか?という話になった。その後はとんとん拍子だった。

 「馬主免許取得から、勝負服の登録まで、近藤さんに任せてやっていただきました」

大魔神がJRAの馬主免許を取得したのは近藤利一氏(右)との偶然の出会いから、だった
大魔神がJRAの馬主免許を取得したのは近藤利一氏(右)との偶然の出会いから、だった

今週末のCBC賞との思わぬ縁

 こうしてオーナーとなった後、持った1頭がシュヴァルグランだった。同馬の母のハルーワスウィートの現役時代を見ていた事が、この血統の馬を所有するに至ったのだ。

 「ハルーワスウィートは現役時代、尻尾がないのに5勝もした馬でした。馬は尻尾でバランスを取りながら走るから速く走れると聞いていたけど、それがないのにこれだけ走るというのは、相当、能力が高いのだと思いました」

 それで、ハルーワスウィートの仔をセリで落とした。フォルスターと名付けたその牡馬は、地方競馬で2勝、中央では1勝するにとどまった。しかし、その妹も手に入れると、それがG1を勝った。2013、14年とヴィクトリアマイル連覇を果たしたヴィルシーナである。

 その後、母ハルーワスウィートの仔を買い続けた。それがシュヴァルグランであり、更にその妹のヴィブロスだった。16年に秋華賞を優勝したヴィブロスは、17年には海外遠征をしてドバイターフ(G1、ドバイ)を制した。その妹から遅れること約8カ月、シュヴァルグランはジャパンCを制覇。元メジャーリーガーは少ない持ち馬数の個人オーナーにもかかわらず手にした3きょうだいがG1を優勝するという快挙を達成したのだった。

2017年ドバイターフを優勝したヴィブロス
2017年ドバイターフを優勝したヴィブロス

 さて、そんな佐々木氏が、最初に近藤オーナーから“ある馬の権利を譲られた”ことは先述した。その馬はアドマイヤマジンといった。つまり、大魔神が持っていたからこの馬名だったわけではなく、この馬名だったから大魔神に譲られたのである。それまで勝ちあぐねていたアドマイヤマジンは、オーナーが変わった途端、ポンポンと勝ち始めた。こうして馬主を続けようと決心して持った馬がマジンプロスパーだった。マジンプロスパーは12、13年と2年連続でCBC賞(G3)を勝利するまでになる。当時から強烈な馬運の持ち主だったわけだ。

 マジンプロスパーが連覇したCBC賞は今週末に行なわれる。今年も思わぬエピソードの詰まった好レースが待っている事を期待したい。そして、更にはこの夏、シュヴァルグランが妹に続く海外G1制覇を成し遂げられる事を願いたい。

ドバイターフを制したヴィブロスの口取り(右から2人目が佐々木氏)。シュヴァルグランでもこんな場面を見たいものだ
ドバイターフを制したヴィブロスの口取り(右から2人目が佐々木氏)。シュヴァルグランでもこんな場面を見たいものだ

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

平松さとしの最近の記事