2頭出しでダービーを制した角居勝彦調教師。彼の2頭出しといえば過去にはこんな事が……

角居厩舎2頭出しの1頭ロジャーバローズが令和最初のダービーを制覇

2頭出しでダービーを制覇

 令和初の日本ダービーを制したのはロジャーバローズ(牡3歳、栗東・角居勝彦厩舎)だった。

 これがダービー2勝目となる指揮官はレース後、次のように語った。

 「ウオッカで勝った1回目は何が何だか分からないうちに勝ってしまった感じでした。今回はもちろん嬉しいんだけど、もう1頭が人気で負けているので複雑な気持ちです」

 もう1頭とは言わずとしれたサートゥルナーリアの事だ。ダービーを前にして皐月賞など2つのG1を含む4戦4勝。1番人気に推されていたが、スタートで遅れ4着に敗れてしまった。一方、勝ったロジャーバローズは12番人気で単勝は実に93・1倍。角居自身も驚く結果に、困惑の表情で先の言葉を述べた。

ダービーを優勝したロジャーバローズ(鞍上は浜中俊騎手)
ダービーを優勝したロジャーバローズ(鞍上は浜中俊騎手)

過去にもあった角居厩舎の2頭出しで思い出されるレースとは

 さて、そんな伯楽の2頭出しで思い出されるレースがある。時は2006年、赤道を越えた先、オーストラリアでの話だ。南半球最大のレースといわれるメルボルンカップ(G1、フレミントン競馬場、芝3200メートル)に、角居は2頭の管理馬を送り込んだ。1頭はその2年前の04年、菊花賞を勝利したデルタブルース(牡、当時5歳)。もう1頭はこの年、4連勝で目黒記念(G2)を勝っていたポップロック(牡、当時5歳)だ。

オーストラリア遠征時のデルタブルース(右)とポップロック
オーストラリア遠征時のデルタブルース(右)とポップロック

 2頭は共に気性的に難しい面のある馬だった。しかし角居は2本の矢を束ねる事で、海外遠征を実現させた。

 「デルタブルースは遠征の難しいタイプと考えていましたが、そんな時にポップロックが力をつけて、海外に挑戦しても恥ずかしくないまでに育ってくれました。こちらも決して大人しい馬ではないけど、2頭一緒になら遠征出来ると思い、踏み切りました」

 この年のメルボルンCは11月7日。これを目指し、2頭はシンガポールを経由して1カ月以上前の10月3日には現地入りした。

 「輸送が応えたのはポップロックでした。飼い葉はもちろん、水すら飲まなくなってしまいました」

 これを助けたのがデルタブルースだった。輸送は問題なくこなして普段通り飼い葉を食べるデルタブルースをみるうちに、ポップロックも飼い食いが戻ったという。

 しかし、これもたまたまデルタブルースの飼い食いが落ちなかったわけではない。前年にはアイポッパーがかの地に遠征していた。他厩舎の馬ではあったが、角居はその陣営から情報を収集。日本で与えているアメリカ産のティモシーが検疫の都合で持ち込めない事を把握していた。そこでオーストラリア産のエン麦を先に輸入して国内の検疫厩舎にいる時から与えた。これによりオーストラリアへ移動後はスムーズに現地で同じ飼い葉を食べさせる事が出来た。それでもポップロックは食べなくなってしまったが、このような工夫の甲斐があって、2頭共にダメージを受ける事は食い止められたのだ。

コーフィールドC、装鞍所でのデルタブルース。左が角居
コーフィールドC、装鞍所でのデルタブルース。左が角居

 2頭はメルボルンCの前にコーフィールドカップ(G1、コーフィールド競馬場、芝2400メートル)を使われた。デルタブルースは3着、ポップロックは7着。前者は左後肢に外傷を負ったが、軽度なモノで、3日後には馬場入り。それはポップロックよりも1日早い馬場入りの再開だった。

 「ポップロックは使われた事でテンションが上がりました。だからデルタブルースよりも更に1日、リラックスさせてから馬場に戻しました」

 2頭で海を越えたが、現地では画一的に同じ過程で仕上げたのではなかった。2頭一緒に馬場に入りながらも180度別の方向に歩き出す事もあった。デルタブルースだけを決戦の地であるフレミントン競馬場へ連れて行って追い切った事もあった。個々を見極め、それぞれにあった調教を施したのだ。

 「デルタブルースは気合いを乗せたい状態で、ポップロックは落ち着かせたいデキでした。だからあえてデルタブルースだけをフレミントン競馬場へ輸送して追い切ったのです」

 こうして仕上げられた2頭は良い状態でメルボルンCに駒を進めた。レースでは岩田康誠の乗るデルタブルースが早目に追い出され、先に先頭に躍り出ると、ゴール前はそれを目がけてダミアン・オリバー騎乗のポップロックが一完歩ごとに差を詰めた。そして、2頭は馬体を並べてゴールした。

 「迫ってきたのがポップロックとは分からずに『デルタ、頑張れ!!粘れ!!』って声援を送りながら見ていました。ワンツーフィニッシュだったと気付いたのはゴールを過ぎてからでした」

 結果はデルタブルースが1着でポップロックが2着。メルボルンCではもちろん史上初となる日本馬によるワンツーフィニッシュとなったのだが、当時を述懐する角居は今でも苦笑してそう語るのだった。

2006年メルボルンCのゴール前。角居厩舎の2騎、デルタブルース(右)とポップロックの激しい競り合いとなった
2006年メルボルンCのゴール前。角居厩舎の2騎、デルタブルース(右)とポップロックの激しい競り合いとなった

 さて、今回のダービーも結果的に衝撃的な2頭出しとなった。結果を受け、サートゥルナーリアは凱旋門賞を断念。逆にダービー馬ロジャーバローズは凱旋門賞へ向かう公算が大きくなったようだ。今後、2頭にどんな未来が待っているのか。角居の新たなる舵取りに注目したい。

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(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

 なお、角居勝彦調教師を招いたトークライヴが行われます。今回のダービー制覇を受け、残席が僅かになっております。お時間のある方は是非、お越しください。