80年後に奇跡的に再開したホロコースト生存者のドキュメンタリーショート映画「ジャックとサム」
2023年6月にアメリカでショート映画「Jack and Sam(ジャックとサム)」が公開された。第2次大戦時にナチスドイツが約600万人以上のユダヤ人やロマ、政治犯、同性愛者などを殺害した、いわゆるホロコースト。そのホロコースト時代に強制収容所で巡り合ったジャックとサムの2人。その後、2人はそれぞれが生き延びたかどうかも知らなかった。そして約80年後に、アメリカホロコースト博物館主催のイベントで奇跡的に再開する。本人らが登場したり、ホロコースト時代の思い出はアニメーションで表現しているドキュメンタリーのショート映画である。
▼「Jack and Sam」
ホロコーストの記憶のデジタル化として貴重な生存者本人が登場する作品
ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもされている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではない。
ホロコースト映画は史実を元にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を元に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を元にして制作され2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。史実を元にした映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の授業で視聴されることも多い。
「ジャックとサム」は実際にホロコーストを経験した生存者2人の証言と実話を元にしたドキュメンタリーでノンフィクションである。
一方で、フィクションで明らかに「作り話」といったホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様のパジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。
戦後約80年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。
ホロコースト時代の経験はアニメで表現することによって現代の子供たちにホロコースト時代を想起へ
「ジャックとサム」のようなホロコースト生存者2人が登場して当時の経験や記憶を語っているドキュメンタリー映画はホロコーストの記憶のデジタル化の重要で貴重な映画である。またホロコースト時代の2人の経験をアニメで表現しているので子供や学生にも見やすく制作しているのでホロコースト教育の教材にも適している。さらに当時の映像や写真なども挿入している。ホロコースト時代の経験をただ生存者が淡々と語っているシーンはデジタル化された証言としては重要だが、現代の子供たちにはホロコースト時代のユダヤ人の生活や収容所での経験を想起しにくい。アニメで表現することによって、ホロコースト時代のユダヤ人のおかれた状況を理解しやすくしている。また特にアメリカでは何十年後に、このような奇跡的な再会をするようなストーリーが好まれる傾向がある。
デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画の視聴には慣れている人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。またホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画をよく観るという大人も多い。
世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界の出来事であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのは映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。