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ウクライナ軍、「おとり」の戦車でロシア軍の攻撃ドローンを誘導:破壊されても簡単・安価に作り直し

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

2023年11月にウクライナ軍がロシア軍の攻撃ドローンでの攻撃を仕向けるために作った「おとり」の戦車のショート動画が公開されていた。戦車の周りはカモフラージュのネットで覆われており、木の下に置かれていた。

2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民生用ドローンも監視・偵察のために両軍によって多く使用されている。ロシア軍もウクライナ軍も監視・偵察目的で導入した民生品ドローンに爆弾や手りゅう弾を搭載して上空から落下させたり、標的に突っ込んでいき爆破させたりしてダメージを与えている。

ロシア軍ではイラン製軍事ドローン「シャハド」やロシア製軍事ドローン「Lancet」でウクライナ軍の軍事施設や民間インフラなどを標的にして突っ込んでいき爆発している。ロシア軍もウクライナ軍も毎日のように攻撃ドローンで敵の軍事施設を標的にして攻撃を行っている。上空からの目視だけでは、標的の軍事施設が偽物(おとり)でもわからないので、偽物(おとり)も本物と思って攻撃を行っている。

2023年10月にはロシア軍の神風ドローン「Lancet」が、ウクライナ軍が設置した偽物の地対空ミサイルシステム「Buk」に見立てた「おとり」に突っ込んでいき爆発した動画が公開されていた。2023年9月頃から、このような「おとり」の標的に突っ込んでいくロシア軍の攻撃ドローンの動画をたまに見かけるようになった。本物の戦車や地対空ミサイルなどは数千万円から数億円するが「おとり」の偽物は、いわゆる「はりぼて」だから安価である。ロシア軍のドローンに破壊されても、「おとり」なら簡単に安価に作り直せる。

現在はウクライナ軍もロシア軍も標的を目視して確認してからドローンを突っ込ませているため、偽物か本物かは人間が判断しているので「おとり」の偽物とわからずに破壊している。今後、攻撃ドローンにAI(人工知能)技術が搭載されて、本物か偽物の「おとり」かを瞬時に見分けられるようになったら、本物の軍事設備にだけ攻撃を行えるようになるだろう。それにともなって、AIを騙す(AIの判断を狂わす)ために偽物の「おとり」を作成する技術も巧妙になっていき、ますます本物か偽物の「おとり」かどうかの境目がつかなくなるかもしれない。そうなると、地上にあるものは本物であれ、偽物であれ全て破壊せよ、ということになるだろう。

▼ウクライナ軍がロシア軍の攻撃ドローンを誘導するために作った「おとり」の戦車

▼ロシア軍の神風ドローン「Lancet」が、ウクライナ軍が設置した偽物の地対空ミサイルシステム「Buk」に見立てた「おとり」に突っ込んでいき爆発した

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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