イスラエルのヤド・バシェム「ヨム・ハショア」にSNSで「私のホロコーストの英雄」呼びかけ
2024年は5月5日~6日が「ヨム・ハショア」と呼ばれるホロコースト記念日でユダヤ教の祭日だった。第2次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人やロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。イスラエルにはホロコースト犠牲者を追悼したヤド・バシェムという博物館がある。
ヤド・バシェムでは「ヨム・ハショア」を記念してSNSで「#MyHolocaustHero」(私のホロコーストの英雄)というデジタルでのイベントを行っている。SNSで動画や写真などで著名人や一般の人たちがホロコーストの犠牲者や生存者、ホロコーストでユダヤ人らを救った人など自分自身が英雄(ヒーロー、ヒロイン)だと思っている人を動画や写真などで紹介している。ホロコーストの生存者の子孫らが自身の祖父母などを紹介しているケースもある。
ホロコーストの生存者や犠牲者の誰が自分にとって英雄かというのは、日本人には馴染みがないかもしれない。だが欧米やイスラエルでは学校でホロコースト教育が行われており、多くのホロコーストの犠牲者、生存者、ユダヤ人を救った人々などが教材として紹介されている。
進むホロコーストの「記憶のデジタル化」
ヤド・バシェムには約490万人のホロコースト犠牲者のデータベースがあり、それらは世界中からネット経由で閲覧することもできる。約600万人のユダヤ人が殺害されたが、残りの100万人は名前が判明していない。第2次世界大戦が終結して約80年が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進んできた。生存者が心身ともに健康なうちにホロコースト時代の経験や記憶を証言として動画で録画してネットで世界中から視聴してもらう「記憶のデジタル化」が進められている。ヤド・バシェムのデジタル化されたコンテンツは欧米やイスラエルのホロコースト教育で多く活用されている。
ヤド・バシェムでは、ホロコースト当時の写真のデジタル化とオンラインでの展示も進めている。現在のようにスマホで誰もが簡単に撮影できる時代ではなかった。カメラも貴重なものだった。1枚1枚の写真に全てのユダヤ人の思い出が詰まっている。さらにヤド・バシェムではホロコースト犠牲者の身元確認とデータベース構築も進められているが、ナチスドイツによって完全に消失したユダヤ人集落などもあり、全ての犠牲者の名前や写真を収集してデータベースに格納することは難航している。また写真だけは辛うじて残っているが、それが誰の写真なのか全くわからないものも多い。
戦後約80年が経過しホロコースト生存者らの高齢化も進み、多くの人が他界してしまった。当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約20万人いる。現在、世界中の多くのホロコースト博物館、大学、ユダヤ機関がホロコースト生存者らの証言をデジタル化して後世に伝えようとしている。ホロコーストの当時の記憶と経験を自ら証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義だ。
そのようなことをヤド・バシェム、ホロコースト博物館やユダヤ機関は懸念して、ホロコースト生存者が元気なうちに1つでも多くの経験や記憶を語ってもらいデジタル化している。
2023年10月7日に武装集団ハマスがイスラエルに攻撃をしてから、多くの国で親パレスチナ派の人々が反ユダヤ主義的な発言や行動やデモをしている。そのようななかで、反ユダヤ主義的な発言もインターネットの書き込み、SNSなどでも拡散されている。欧米やアラブ諸国では今でも反ユダヤ主義が根強いため、そのような反ユダヤ主義的な投稿はあっという間に拡散されやすい。そして反ユダヤ主義を掲げる多くの人は、「ホロコーストなんてなかった」、「ホロコーストはユダヤ人が作った作り話だ」、「そんなに多くの人が殺されたはずがない」といったホロコースト否定論を支持する傾向が高く、反ユダヤ主義的なコメントとともにホロコースト否定論がSNSなどで世界中に拡散されている。
ホロコースト生存者の多くが他界してしまっているが「ホロコーストは現実にあった」ということをヤド・バシェムだけでなく世界中の大学の研究機関やホロコースト博物館などがデジタル化して後世に伝えようとしている。
▼投稿を呼びかけるヤド・バシェムのSNS