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ゼレンスキー大統領 トルコの軍事ドローン「バイラクタル」ウクライナでの製造に向けてCEOと面会

佐藤仁学術研究員・著述家
ゼレンスキー大統領とバイラクタルCEO(ウクライナ政府提供)

ゼレンスキー大統領「ウクライナ国民なら誰もがバイラクタルを知っていますよ」

ロシア軍が2022年2月にウクライナに侵攻。ウクライナ軍はトルコ製のドローン「バイラクタルTB2」を利用して侵攻してきたロシア軍に攻撃している。トルコ製のドローン「バイラクタルTB2」はロシア軍の装甲車を上空から破壊して侵攻を阻止することにも成功したり、黒海にいたロシア海軍の巡視船2隻をスネーク島付近で爆破したり、ロシア軍の弾薬貯蔵庫を爆破したり、ロシア軍のヘリコプター「Mi-8」、ロシアの戦車「T-72」や120mm迫撃砲2B11を爆破したりとウクライナ軍の防衛に大きく貢献している。ウクライナ軍が上空からの攻撃に多く利用しているトルコ製のドローン「バイラクタルTB2」はロシア軍侵攻阻止の代名詞のようになっており、歌にもなってウクライナ市民を鼓舞している。

2022年8月にはトルコのウクライナ大使のヴァシリー・ミロノヴィチ氏が軍事ドローン「バイラクタルTB2」を製造しているトルコのバイカル社がウクライナにおいて軍事ドローン「バイラクタルTB2」の生産を行うと地元メディアに語っていた。ヴァシリー・ミロノヴィチ大使によると「ロシアが侵攻する前からバイカル社はウクライナにドローン製造の工場を設置する予定でしたが、ようやく実現します」ということだ。

ロシアのプーチン大統領もトルコの軍事ドローン「バイラクタルTB2」の購入に強い関心を示しているという報道に対して、ヴァシリー・ミロノヴィチ氏は「バイカル社の幹部と直接話をしましたが、同社はロシアにバイラクタルTB2を提供する予定はないということです」とコメントしている。ウクライナで製造されるようになればトルコからの輸送費や時間は節約できる。製造した軍事ドローンをすぐに利用できるようになる。だがロシア軍から攻撃の標的にされるリスクもある。

「バイラクタルは勝利に向けた国際的なブランド」

実際にロシア大統領府報道官のドミトリー・ペスコフ氏は2022年8月にロシアでの記者会見で「トルコのバイカル社がウクライナで軍事ドローンの製造を開始したら、その工場はすぐに絶対に破壊します」とロシア政府の見解を示していた。

また2022年8月にウクライナ軍は公式SNSで「バイラクタルTB2」を製造しているバイカル社のハルク・バイラクタルCEOについて「バイカル社のハルク・バイラクタルCEOは同社のドローンをロシアには絶対に売らないと繰り返し言っています。なぜなら"お金の問題ではない"からであって、"ロシアに対するウクライナへの不公平で強圧的で全く理由のない攻撃への抵抗"だからです。バイラクタルCEOこそ真の友達であり、バイラクタルは今では勝利に向けた国際的なブランドです!」と称賛していた。

そして2022年9月9日にウクライナのゼレンスキー大統領はキーウでトルコのバイカル社のハルク・バイラクタルCEOと直接対談を行った。対談でゼレンスキー大統領は「バイラクタルTB2」のウクライナ軍への貢献について「ウクライナ国民なら誰もが、あなたの会社の名前を知っていますよ」と謝意を伝えた。さらに「トルコのエルドアン大統領にも感謝しています」と語っていた。また大統領とバイラクタルCEOはウクライナでの軍事ドローン生産に向けた工場設置について詳細な話を行ったとウクライナ政府は伝えている。

▼バイカル社の攻撃ドローンの「バイラクタルTB2」

▼「バイラクタルTB2」を称えたウクライナの歌

ロシア大統領府報道官「ウクライナに工場設置ならすぐに破壊する」

トルコは世界的にも軍事ドローンの開発技術が進んでいるが、バイカル社はその中でも代表的な企業である。バイカル社のCTOのバイラクタル氏はトルコのエルドアン大統領の娘と結婚しておりトルコでも有名。軍事ドローン「バイラクタルTB2」はウクライナだけでなく、ポーランド、ラトビア、アルバニア、アフリカ諸国なども購入。アゼルバイジャンやカタールにも提供している。2020年に勃発したアゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフをめぐる軍事衝突でもトルコの攻撃ドローンが紛争に活用されてアゼルバイジャンが優位に立つことに貢献した。タジキスタンも購入を検討している。

2022年5月にはリトアニアのインターネット放送局がウクライナ軍のために募金を行い、3日で予定の500万ユーロ(約7億円)に達した。クラウドファンディングの募金で1人10ユーロから500ユーロまで募金できた。このクラウドファンディングで集まった500万ユーロ(約7億円)で、トルコ製の軍事ドローン「バイラクタルTB2」を購入してウクライナ軍に提供する予定だったが「バイラクタルTB2」を製造しているバイカル社は、6月に「バイラクタルTB2は無償でリトアニアに提供しますので、ウクライナ軍に渡してください。クラウドファンディングで集まった費用は人道的な支援に使ってください」とコメントしていた。

2022年7月にはポーランドでもウクライナ軍に「バイラクタルTB2」を提供するために市民がクラウドファンディングで目標額は460万ユーロ(約6.5億円)の募金を開始。ポーランドは政府レベルでも市民レベルでも、ウクライナ紛争が始まってから積極的にウクライナを支援している。そしてポーランドでも目標額に達したが、バイカル社はリトアニア市民からの寄付と同じように無償で「バイラクタルTB2」を提供することを明らかにし「集まった寄付金は人道的な目的で使ってください」と語っていた。2022年7月にはノルウェーとカナダでもウクライナ軍に「バイラクタルTB2」を提供するためのクラウドファンディングが開始された。ノルウェーでは5500万クローネ(約7.5億円)、カナダでは700万カナダドル(約7.5億円)を目標額としている。

ロシア軍はウクライナで"ロシアへの抵抗の象徴"や"英雄"になっている「バイラクタルTB2」が大嫌いであるから、工場が設置されたら、ロシア大統領府の報道官が伝えていたようにすぐに破壊しにいくだろう。

「バイラクタルTB2」も全戦全勝ではない。ロシア軍の地対空ミサイルに多くの軍事ドローンが撃墜されている。具体的な数字は明らかにしていないがロシア軍によって、すでに多くの「バイラクタルTB2」が地対空ミサイルなどで破壊されている。周辺諸国の市民からのウクライナ軍支援とバイカル社のロシアへの対応からロシア軍にとって「バイラクタルTB2」は憎い存在であり徹底的に破壊したい兵器の1つである。ましてその工場がウクライナ国内に設立された場合は、すぐに標的になりかねない。

爆破された「バイラクタルTB2」の残骸の写真もよく公開されている。ウクライナ軍にとっては「バイラクタルTB2」は何機あっても足りない。

ゼレンスキー大統領とバイラクタルCEO(ウクライナ政府提供)
ゼレンスキー大統領とバイラクタルCEO(ウクライナ政府提供)

▼ロシア軍によって破壊された「バイラクタルTB2」

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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