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米国国家安全保障会議、バイデン大統領にAI兵器の積極的な開発を提案:台頭する中国のAI兵器強化を懸念

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

「人間の軍人が、事前に適切に試験された自律型殺傷兵器の使用を許可すれば、国際人道法などに触れることはない」

 アメリカ国家安全保障会議のAI(人工知能)に関する委員会(The National Security Commission on Artificial Intelligence:NSCAI)は2021年3月に軍事におけるAI活用に関するレポートのファイナルレポートをバイデン大統領と議会に報告した。2月にはドラフトを公表していた。元GoogleのCEOのエリック・シュミット氏やロバート・ワーク元国防副長官が国家安全保障会議のAIに関する委員会の共同議長を務めていた。報告書の中ではAI技術を積極的に軍事に活用することを伝えている。現在、中国やロシアなど他の大国でもAI技術の積極的な軍事活用が進められていることから、アメリカだけがその軍事競争に遅れてしまうことは安全保障の観点からも危険であり、AI技術の積極的な軍事への活用は中国など他の大国への抑止になる。

 また報告書の中では人間の判断を介さないでAIによる判断で標的を攻撃する自律型殺傷兵器の開発禁止をするべきでないと主張している。AIによる判断の方が人間よりも瞬時に判断できることから、判断までに要する決定の時間を短縮することが可能とのこと。報告書においても、AIが搭載されていない兵器では、敵軍の兵器に遅れを取り、戦闘時に作戦と行動が麻痺してしまうことを危惧している。AIの誤動作による事故や相手への攻撃と紛争への発展の危険性も懸念されているが、AIを搭載しない兵器で敵のAI兵器の攻撃を防ぐことはさらに危険だと報告書では主張している。また、人間の軍人では1人では判断できないで、何人かの判断を待っている間に相手に攻撃されてしまいやられてしまうこともあるので、人間の判断を待つよりもAIの判断に委ねた方が防衛においても攻撃においても有利なことがある。このように報告書では積極的に自律型殺傷兵器の開発を進めるべきと議会に提案している。さらに「人間の軍人が、事前に適切に試験された自律型殺傷兵器の使用を許可すれば、国際人道法などに触れることはない」と述べている。

核兵器は従来通り大統領の判断で

 中国は自律型殺傷兵器の使用には反対を表明しているが、開発することには反対していない。その中国の姿勢に対して、報告書ではロシアや中国など他の大国は自律型殺傷兵器の使用に反対することはないだろうと述べている。特に2030年までに中国がAI技術で台頭してこようとしていることも警戒し、AI技術の軍事活用においてアメリカが中国に敗北することを懸念している。

 このように委員会が提出した報告書ではAI技術を軍事分野で積極的に活用することによってアメリカの軍事における優位性を維持することを主張している。だが、核兵器の使用においてはAIの判断には依拠しないで、今まで通り、これからも大統領が明確な判断を行ってから核兵器使用の承認をする必要があると述べている。

  現在、自律型殺傷兵器の開発と使用に反対を表明しているのはアルジェリア、アルゼンチン、オーストリア、ボリビア、ブラジル、チリ、中国(使用のみ反対で開発には反対していない)、コロンビア、コスタリカ、キューバ、ジブチ、エクアドル、エルサルバドル、エジプト、ガーナ、グアテマラ、バチカン市国、イラク、ヨルダン、メキシコ、モロッコ、ナミビア、ニカラグア、パキスタン、パナマ、ペルー、パレスチナ、ウガンダ、ベネズエラ、ジンバブエの30か国。アメリカやロシア、イスラエルなどは反対していないで、積極的に開発を進めている。人間の判断を介さないでAIが判断して標的を攻撃して殺傷することが非倫理的であるということから、国際NGOなどが積極的に自律型殺傷兵器の開発には反対を訴えている。国際NGO団体のストップ・キラーロボット・キャンペーンの広報を担当している英国シェフィールド大学のノエル・シャーキー教授は、今回の委員会の報告書を「驚くべき恐ろしいレポートです。世界中の多くのAI技術者らもAI兵器が招く恐ろしい戦争の結末を警告し続けてきました」と語っている。

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学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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