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インド陸軍幕僚長、中国とパンデミックを懸念「兵器は自国生産で自立していく」新兵器の重要性も強調

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

輸入依存のインド軍、パンデミックで兵器輸出が停止することを懸念

 インド陸軍幕僚長のM.M.ナラヴァネ氏は2021年1月に講演を行った。ナラヴァネ氏は「諸外国と比較して、インド軍の兵器はほとんどが海外からの輸出に依存しています。でもこのようなパンデミックの状況では、経済の脆弱性を突いた攻撃を念頭において、もっとインド国産の兵器の製造を強化していくべきです」と語っていた。「2020年は新型コロナウィルス感染拡大のパンデミックと、中国との国境北部での国境紛争がありました。特にパンデミックによるグローバルなサプライチェーンの危機は、今後のインド軍にとっても重要な問題です。これからインド軍は他国の兵器に依存しないで、兵器生産は自立していかなければいけません」と強調していた。

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の調査によると2014年から2018年のインドの兵器はロシアからの輸入が58%で圧倒的で、次いでイスラエル(15%)、アメリカ(12%)と続いている。特にロシアとイスラエルにとってはインドは重要な兵器輸出先で、ロシアの兵器輸出先の1位がインドでロシアの兵器輸出全体の27%、イスラエルの兵器輸出先も1位がインドでイスラエルの兵器輸出全体の46%を占めている。またフランスとカナダにとってもインドは重要な兵器輸出先だ。

 ナラヴァネ氏は「現代社会においては防衛における自立化は戦略の観点から必須条件です。グローバルな紛争が多くインドの安全保障が脅かされているなかで、国家防衛のためにも中長期的な視点で兵器開発に投資していかなくては行けません。特にAI技術(人工知能)技術の軍事分野への活用、自律化した無人兵器、徘徊型ドローン、量子コンピューティングの開発を積極的に行っていき、意図的に強化していかないといけません。これらの新たな兵器の開発には継続的な投資が必要です」と語っていた。

 ナラヴァネ氏は対中国との国境紛争を念頭に置きながら、AI技術、自律型兵器、徘徊型ドローン、量子コンピューティングなど新たな技術を活用した兵器への投資の必要性と、それらの兵器をインド自国で開発することの重要性を語っていた。2021年1月にデリーで開催されたインド国民軍の軍事パレードでAI(人工知能)を搭載した75機の徘徊型の自律型攻撃ドローンが初めて上空を飛行するところが披露された。特に中国ではAI技術の軍事利用が積極的に行われており、昨年に国境紛争が勃発したインドとしては中国の新兵器への投資は脅威であるから、対抗していかないと抑止力が働かない。また世界規模でのパンデミックによって兵器の輸出が止まってしまった場合、国家の安全保障にも大きなダメージを与えてしまう。

 現在、「キラーロボット」と称される自律型殺傷兵器について、人間の判断を介さないで、AIを搭載した兵器自身が判断して標的を攻撃することから非倫理的であるということから国際NGOや30か国が開発と使用に反対している。インドは自律型殺傷兵器の開発も使用も反対していない。だがインドと敵対している隣国パキスタンは自律型殺傷兵器の開発と使用には反対している。パキスタンはインド軍の自律型殺傷兵器の使用を懸念しているのだろう。中国は自律型殺傷兵器の使用には反対しているが、開発には反対していない。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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