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米国ストックトン大学 地元サウスジャージー地域のホロコースト生存者の証言をデジタル化へ

佐藤仁学術研究員・著述家
ストックトン大学提供

 米国ニュージャージー州にあるストックトン大学にはサラ アンド サム シューファー ホロコーストリソースセンター(The Sara and Sam Schoffer Holocaust Resource Center)というホロコーストの研究機関がある。

 第2次世界大戦でナチスドイツが約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。戦後、ホロコースト生存者たちは自分達の母国には戻る先がなく、アメリカに移住してきたユダヤ人も多い。ホロコーストリソースセンターではニュージャージー州の南部サウスジャージーに移住してきたユダヤ人のホロコースト生存者らの記録をデジタル化し、デジタルアーカイブとして保管し、公開していく「South Jersey Holocaust Survivor Digital Archive and Exhibition」プロジェクトを開始することを明らかにした。ストックトン大学の教員やスタッフ、学生らがサウスジャージーにいる約250人のホロコースト生存者らをZoomでインタビューし、ホロコーストの記憶のデジタル化を進めていく。既に20人のインタビューは終わっている。デジタル化されたホロコースト生存者の証言は学生の研究用や一般にも公開し、第二次世界大戦前のユダヤ人の欧州での生活やホロコースト研究に活用していく。

戦後の地元での生活や仕事についても証言を収集し、地域コミュニティの歴史研究にも

 またストックトン大学では、今回のサウスジャージーのホロコースト生存者らの証言を収集することによって、サウスジャージー地域の歴史の研究にも役立てようとしている。同センターのエグゼクティブ・ディレクターのゲイル・ローゼンタール氏は「我々はホロコースト生存者らの話に耳を傾け、彼らがサウスジャージー地域にどれだけ貢献してくれたかも調査していきたいです」と語っていた。欧州からユダヤ人がアメリカに移住してくる時は、まずニューヨークのような大都市から入ってきて、そこに住み、仕事をしていくことが多い。それからサウスジャージーに移転してくる経緯なども聞き取っていき、彼らの生活の歴史を調査していく。サウスジャージーには「サウスジャージー・ユダヤ養鶏場(The Jewish Chicken Farms of South Jersey)」があり、多くのユダヤ人移住者は最初はそこで働くためにサウスジャージーにやってきた。その後、ユダヤ人らはサウスジャージー地域で小売りなどのビジネスを始めたり、医者になったり、不動産業を営んでいった。このようなホロコースト生存者らの個人的な経歴も調査していくようだ。

 ストックトン大学の歴史学のマイケル・ハイセ准教授は「今こそ、ホロコースト生存者らの証言を収集して、ドキュメント化していく時です。ホロコースト生存者は年々減少しています。我々がこのプロジェクトを企画してから7カ月の間にも何人ものホロコースト生存者らが亡くなってしまいました」と語っていた。ホロコースト生存者の息子で同センターの名前にもなっているレオ・シューファー氏は「サウスジャージーはホロコースト生存者でアメリカに移住してきたユダヤ人に多くの機会を与えてくれ、新たな生活を始めることができました。生存者それぞれに特別のヒストリーがあります。そのような彼らの歴史的な証言を集めて、次世代にもホロコーストやサウスジャージーの地域コミュニティの歴史を受け継いでいきたいです」と語っていた。

 第二次世界大戦が終結し75年が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進んでいる。そしてホロコースト生存者の証言を収集しデジタル化していく取組はストックトン大学だけでなく、世界中のホロコースト博物館や機関でも進められている。現在の生存者らもホロコーストが終わってアメリカに移住してきたのは子供時代であり、ホロコースト時代にはキリスト教徒の家庭に匿ってもらっていた人も多く、戦前の欧州のユダヤ人の歴史はほとんど知らないという人も多い。今回ストックトン大学では戦後の移住後の地元サウスジャージーでの生活についてもインタビューして地域コミュニティにおけるホロコースト生存者の果たした役割を調査しデジタル化していくという新しい試みである。地域コミュニティの発展の観点から移住してきたホロコースト生存者の生活や歴史を調査することは、地元に根差した公立大学だからこそ出来る取組であろう。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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